総合的比較考察

国際的高大接続の形態と比較考察
                                      竹熊尚夫
 国際的な高大接続は、日本を除く先進各国、特に、英語圏ではその発展が著しい。これまでの国際教育評価機関による、中等教育資格の認定・認証に加え、各大学での留学生受入実績に基づく海外の資格評価の蓄積、そして、近年ではIBを初めとした国際資格を国内資格と如何に評価し、同等性を認証するかについての評価システムが開発され、アカデミック教育と職業教育との融合や新しい学力、コンピテンシー論を加味しながら進展している。
 本稿では、国際的高大接続をめぐるそれぞれの形態に関わる全体像をまず網羅し、次章以降で議論されている様々な課題や展開を比較考察していくことを目的としている。本科研の中間報告書 )においてそれらの一部は紹介しているが、ここで改めて検討していく。
 国際的高大接続を検討する際、まず踏まえなくてはならないことが言語教育との関わりである。中間報告書でも述べているが、G30による大学教育の英語化と留学生受入強化により、中国から日本への留学においてこれまでのような日本語学校を経由せず、直接大学に入学するケースも増えつつある。また一方で、高校段階で日本語教育を強化し、専門の日本語教師を配置したり、語学学校とのタイアップによる日本語教育を実施する事例もある。一方で、オーストラリア調査では大学が語学学校と連携したり、附設の基礎(ファウンデーション)教育機関を通して語学教育を行ったり、完全に民間の語学学校としてそこからオーストラリアの大学進学を目指すという様々な上昇のための経路(pathway)も見ることが出来る。語学教育プラス必要な専門科目の不足分の修得が国際的高大のつなぎ目で必要とされる科目と内容である。
 ここでは図1を参考に、送り出し型予備教育と受け入れ型予備(補充)教育を区別して概要をまとめる。まず受入側の補充教育による接続について、ここでは特にオーストラリアとマレーシアを事例に説明したい。教育機関の所在地についても母国と留学先国を分けることが望ましいが、グローバル化が進む現在、大学ブランチ・キャンパスなど相互に入り組んで、どちらの国にあっても学力評価という面ではそれほどの相違がなく、煩雑さを避けるため、送り出し側と受け入れ側と直接入学という3つのタイプに分けている。
 オーストラリアの留学生受入は予備教育課程である、英国の影響を受けたファウンデーション・スタディーズ・プログラムの発展に特徴を見ることができる。ファウンデーション(foundation programme)とは基礎コースであるが、大学に設けられたフォーム・シックス(Form 6:中等後教育段階の英国式大学準備課程)ということが出来よう。
 マレーシアにおけるマトリキュレーション(matriculation programme)は大学に附設された大学予備教育課程(preparatory programme)といわれている。その意味では、正式の大学入学試験ではなく、その事前の中等教育試験・資格(SPM)で、予備教育課程に入れる準備教育、或いは予科課程である。マレーシアでは、本来。マレー系を中心としたブミプトラの学生のために、大学側が特定の科目(科学・会計等)を準備したアファーマティブ・アクションに基づく課程であった )。現在、マレーシアでは1年から2年の課程があり、マラ・カレッジ、マトリキュレーション・カレッジ、マレーシア国民大やマラヤ大などに設置されている。
 一方、マレーシアでは一般には、フォーム・シックスは中等教育機関に付属したり、独立で存在するが、大学に附設される場合には、一部受入を前提としたものであることから補充教育と言うことも可能である。マレーシアの場合、大学附設のファウンデーションはマラ工科大学(UiTM)にもあるが、これはブミプトラのための受け入れ型の予備教育と言えよう。マラヤ大学は従来大学内にPusat Asasi Sains(基礎科学センター)を設置していたが、現在、マラヤ大学のPusat Asasi Sainsはファウンデーション・スタディーズ・プログラムとして大学内では位置づけられている。このファウンデーションは基礎(Asasi)にあたるものである。このプログラムの一つに、現在も日本留学準備プログラムがあり、同じくUiTMにもブミプトラ用にこのPusat Asasiが設置されているが、海外資格者は受け入れるものではなく、国内からの予備教育課程であり、海外への予備教育課程にもなっている。伝統的に海外留学のための教育組織を大学内に置いたと言うことであり、これは中国の華南師範大学や、東北師範大学の日本留学準備教育なども同じような位置づけと言える。
 マレーシアにおいて教育省は1998年に省内にマトリキュレーション部門(Matriculation Division) )を設置し、公的な高等教育機関内におけるファウンデーション・プログラムと共に管轄している。また、「マレーシアの資格枠組み(Malaysian Qualifications Framework: MQF)」では大学準備教育のファウンデーション・コースが高等教育セクターの最も下位のMQFレベル3にあたる、サーティフィケート・レベル(Certificate Levels)に位置づけられている )。
 オーストラリアの場合も、国内の教育機関と資格の統一するために多様な資格を「AQF(Australian Qualifications Framework)資格制度枠組」で整備し、様々な資格をそのレベルの統一と横の移動を広げると共に、予備教育課程の制度化を進めることで、国際化対応として様々な教育背景を持つ海外からの生徒の受入体制の充実が図られている。ここに、図2に示すような、国内資格と海外資格の同等性の両方の整備化が必要とされる動向が見て取れる。受入の実際では各大学や教育機関において、予備教育プログラムの留学生の学力診断は必須であり、そこで不足部分の補充が行われる必要があるが、それはファウンデーション・コースの選択科目として授業科目を受講するなかで実施され、ここで大学独自の学力認定と教育組織・教育内容の集約化・収斂化が進むこととなった(図2)。
 オーストラリアの大学は英国式であることから、NARICなど英国の海外教育情報の蓄積を活用して留学生を受け入れている。また、日本と同じ専門教育を重視する高等教育課程であるが、専門と予備教育課程の連携が狭く、かつ整理されており、日本の初年時にあたる教養教育課程が無いため、3年間の専門課程で学部段階を卒業できる。授業料などは日本の国立大学の数倍であるが、ファウンデーション・スタディーズ・ログラムと合わせて、ほぼ4年間で卒業でき、その後オーストラリアへの就労滞在も可能であり、これらの経験を合わせ、更なる就職に継続し、永住権をとるという将来の目的に合致した移民政策と合体した高等教育戦略ともいえる。
 オーストラリアでも日本でも高校卒業段階の優秀な人材の獲得競争が次第に広がりつつあるように、中国の「高考」の成績を認定する方向は拡大しており、この学力成績に加え、語学能力の向上によって、英語或いは日本語での大学入学資格を認める傾向があることから、中国の一般重点高校でも海外留学の道は広がりつつある。その場合、日本側の受入が、日本語学校経由か、大学附設の予備教育課程か、さらには、大学の国際課程や教養教育課程の改編によって対応できるのか、様々な形態での受入型予備教育のための取り組みがなされる必要がある。
 送り出し型の予備教育の形態では、まず、高校にその送り出し準備をする機能が付与されている場合と高校の延長上で大学入学資格を得るための高校附属フォーム・シックス型の形態がある。これは高校側やその延長の教育機関が大学入学の責任を負うものではないが、大学入学資格の受験する為の準備教育を行う。公的機関としては、JASSO日本語学校等、帝京マレーシア日本語学院(IBT)などがある。
 これとは別に、大学附設として、大学入学がある程度認められ、マトリキュレーション式に送り出し準備をする機関がある。受け入れ責任母体は大学側や送り出し側が教育を提供し、海外留学へ送り出すというものである。中国華南師範大学のU-Linkでみられた海外大学との連携による送り出しであり、先の帝京マレーシア日本語学院(IBT)は一方で政府派遣留学生を引き受けているが、他方で、帝京大学等の大学進学も可能としている。そうした意味では日本にある文部科学省準備教育課程指定校の現地版にも、日本の大学予科課程にも近い。この他、大学附設型の準備教育としてはJICAの援助を受けて、モンゴルでは大学や大学院に留学生を送り出すための母体は、大学内に設置され、一部は当該大学の大学生として在籍しながら留学するという方策も試みられている。
 そして従来の、送り出し側における、民間語学学校や、中国の「新東方」等の留学送り出しおよび斡旋教育機関での語学留学は民間教育機関型と位置づけられる。
 第三のタイプとしては直接連携の形態がある。中国では国際部併設などによく見られるが、江蘇省の堰教高校は高校日本語教育併設(附設)型、広州や北京のIB校は高校内蔵型と言うことが出来るだろう。直接大学側が派遣教員による面接や教育課程認定を行い、優秀な学生をリクルートし直接大学に入学させるものである。この他、中国等で見受けられるが、帰国子女のようなルートで、大学のトゥイニング課程に倣って、高校途中から海外の高校に留学し、そこから留学先国の大学への直接入学を狙うものなどもここに該当するだろう。オーストラリアの専門科目のみの入学条件やアメリカのような教養教育型の必須科目受験とは異なり、日本は複数科目で且つ日本語というハードルがあることから、より良い大学への進学を目指す場合には、こうした高校3年間の2+1というトゥイニング課程は効果的であり、今後の展開が注目される。
 海外の教育証書の同等性と資格枠組と教育課程の収斂に向かう方向性を持ちながら、国際的高大接続には、後期中等教育の多様性、大学教育の実態、そしてその中間に存在する中等後教育段階の接続教育機関の多種多様性、そして資格認証をする機関の役割と、大きく4つの種類の機関が高大の国際的接続にはそれぞれ役割を果たしている。
 先の図1と表1はその概略を示しているが、それぞれの機関や資格は、国内向け、海外向け、そして、教育資格と学力といった二つ以上の役割を果たしている場合が多い。中間報告書でも事例を示したように、中国の高校側、日本やオーストラリアの大学側、そして留学を媒介する留学教育機関はそれぞれの立場で有為な人材の輩出とリクルートを国際市場への参入として取り組んでいる。特に、海外からの学生を受け入れて学生自身が持つ学習内容の不足箇所を、自国の大学制度に合うように「均す」役目をしている仲介の教育機関と予備教育機能を持つ語学学校、大学の附設機関であるマトリキュレーション、もしくはファウンデーション・スタディーズ・プログラムは学生の教育歴と学力審査の機能を持たざるを得ない。中間報告書で示したオーストラリアの大学の海外資格との同等性(出願資格要件)以外にも、こうした海外資格リストは留学生の受入のみならず、移民の受け入れにも用いられることで必要性が認められている。マレーシアでも高等教育局のマレーシア資格機構(Malaysia Qualification Agency: MQA)によってマレーシア版の資格の同等性比較リストが掲載されている )。イギリスのUCASと同様に、当該国における大学入学資格が入学試験ではなく、卒業試験であり、英連邦諸国の影響下にあるが故に、国内資格との同等性に関する調査研究との連動した動きが進んでいる。より良い人材獲得を目指す国際教育マーケットの中で高校と大学の直接的な接続には、高校と大学間の連携も必要となってきており、高校の語学教育を高める動き、大学の予備教育としての語学教育、教科教育の充実化も進んでいる。一方で、これまで媒介となっていた留学教育機関がDiploma資格を提供して、大学進学を促進する動きも見受けられる。日本においては、高等学校卒業資格(卒業証書)に加え、実現の可能性は未定だが、センター試験の高度化によるディプロマ化や言語や予備教育課程での専門学校修了資格の認定などができればこうしたものに該当するであろう。
こうした状況において、本研究で提示した、数学、物理、化学の教科書単元表の比較検討は、ブルームを初めとした学習理論に則したより詳細な段階によって更に精緻化される必要がある。既に、PISAを嚆矢として、コンピテンシー論が初等中等段階の様々な教育課程に組み込まれつつあるが、オーストラリアにおけるACARA(オーストラリアカリキュラム評価報告機構)のGeneral capabilities(一般的能力群)と達成基準 )、IBにおけるTOK(Theory of Knowledge知識の理論)、そして日本の国立高等専門学校機構においても学習指導要領の対照や各課程別の項目毎到達レベルが検討されているところである )。
 本研究では、送り出し国受け入れ国、教育課程、科目、言語教育、単元、学力、能力、資格、入学試験など多様視点から分析を加えることとなった。しかしながら、そうした輻輳した調査対象が次第に収斂しつつあることも事実であり、海外の教育交流、高大接続のための基盤は既に完成しつつある。日本における教育展望として、日本の各大学がその枠組みの中でそれぞれの特性を活かしながら地位を確立していくことが求められる。特に、高等教育、大学における教養教育、一般教育の位置づけは、様々な教育理念や考え方が各方面から明らかになった。本研究を通じて、高大の国際的接続の視点から見ると、大学の一般教育は基礎教育と位置づけられる側面と、教養教育として位置づけられる側面の二つに分けることが出来るであろう。即ち、基礎教育は、後期中等教育或いは中等後教育のレベルと専門教育との接合について、教養教育は専門教育から学際教育へとつなげる視野や研究の裾野の広さを担保するものであると共に研究者やエリートとしての人格教育を培う部分でもある。
 ここで、高大の接合の役割を果たすのは、中等後教育かもしくはこの基礎教育部分である。基礎教育は国際化に対応する大学はこの部分では初年次教育としての海外の教育歴の相違を踏まえた、国際言語修得、日本語を含む、アカデミック・スキルを修得する期間として位置づけることがスムーズな接続を可能とする。既に、TOEFLの一定水準以上の点数の取得者は大学においても英語教育を受講義務がないという制度があるが、こうした制度が他の科目、単元、技能にまで広げられることで重複した学習を避けることができ、より高次の、効果的な学習をもたらすことができるであろう。科目を制限して必要科目の修得での入学を認める3年制の専門教育を提供するオーストラリア、もちろんアメリカなどの教養大学における基礎技能の修得を入学条件とする事例もある。日本のEJU試験については、日本型の1年間程度の教養教育について行けるだけの知識を求めるための独自の評価方法と言えるかも知れないが、それに対する海外からの風当たりは強い。彼らから聞く声は、専門知識と、語学力で十分という声である。一方、日本型の教育体制の中で、学習態度の欠如、計算方法を初めとした学習内容の相違から生じるアカデミック・能力の齟齬はなかなか解決できていないのが現状である。
 一方、教養教育ついてみてみると、教養教育を日本の教育の一つの特徴として掲げられる教育理念も確かに重要であるが、米国式でも豪州(英国)式でもないところに、海外からの接続の難しさの一つが顕在化してきている。海外からの留学生や多様な学生の教育背景、文理別の高校での習得科目の相違などから既に、教養部のような教養科目だらけの混在や高校での学習の延長といった興味を引かない内容などから、専門教育に進む前の高いハードルとなってしまっている。また、教養教育は理系にとっては専門教育の視点から大半が基礎教育となっている現実もある。しかしながら、教養教育を専門教育の前に学ぶことにより効果的とはなるかも知れないが、基本的に年齢で縛るものではなく、低年次から高年次に至る様々な修得形態がありえる。特に、文科系科目は積み上げ科目ではなく、高年次でも十分対応可能であり、かつてのは異なり、必要を感じた際に、自由に取得できる科目であることが望ましい。また、このような科目内容は現実には、理科系分野の大学基礎科目においても共有されている。
 国際的接続の観点において、教養教育は形成されべき人間像とも繋がる重要な役割があり、これを寄宿舎教育の中で実践している例もある。大学の国際化を考える上で、多国籍な大学像や国際専門人材の養成には知識、態度、技能の背後の教養的知識は欠かすことが出来ないものであり、多様な教育課程、試験、資格、そして人材の形成へと一連のシステムを通して、中等教育から適切な人材を見つけ出し、教育を提供していく。その中での能力評価であり、教育課程であることを、国際的接続は改めて再認識し、再構築することを求めている。