数学科目単元表



数学(後期中等段階)教科書学習単元比較(英語訳)

5-1-1中国の高校から日本の大学への留学:高校数学の学習単元の整合表の試み

1)留学の多様化による高卒学力の診断

 近年、若い優秀人材のグローバルな獲得競争の中で、日本の大学でもグローバル30を嚆矢に、秋入学や海外の高校から日本の学部段階への直接入学などが広く検討されはじめている。大学国際化の推進に相俟って、学部段階への海外学生の受け入れも行われている。国公立大学では、これまで日本語能力試験や日本留学試験での成績は大きな比重を占めず、帰国子女入試や学部段階への外国人留学生入試においても、少人数であったり、相対的な評価であるため、海外の学歴に対する明確な選考判定内容や基準がないままか、基準はあったとしても公表されることは少ない。また、私立大学には日本語別科や独自の交流ルートによる国際化戦略を持つものも多いが、選抜・判定基準は優秀な学生の獲得競争と関わり、部内秘として扱われているのが現状であろう。同じく、国際バカロレア(IB)等の資格は日本の大学入学資格の前提として認定され始めているものの、詳細な科目や評価基準については大学や部局に任されている状況と言える。

 この中で、アジアの、特に中国の大学入学に用いられる「高考」の点数はまだまだ認知されているとは言いがたい。しかしその国際的認知度は高まる一方で、海外進学であろうとも中国国内用「高考」を受けさせ、その成績を学力の判定材料としているという話は良く聞く。日本においても、「高考」については、民間機関や学会もしくは、大学連盟等がその調査を行い、活用に向けた試みが必要とされている。中国ではこの高考によって大学進学先が概ね決定するため、大学別学部別の基準点を示す進学受験雑誌は多種多様に存在しており、これらのデータを活用していくことも可能である。また、中国では各科目について国内課程とIBやアメリカのAP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムとの比較対照した文献も出版されている(唐 2012)。

 一方、日本には財団法人日本学生支援機構(JASSO)が実施している「日本留学試験(EJU)」制度があり、海外の現地の教育資格認定以外にも日本語、数学(コース①、コース②)、理科(物理、化学、生物)、総合科目等を渡日前、渡日後に受験することができ、学部入試の判定材料となっているが全国的な評価基準としてその評点や評定が確立されたとは言えない。また、香港以外では中国大陸での受験はできない状態である。一方、海外の高校から日本の大学へ早いうちに学生を確保して、直接入学させる場合はこうした試験はさほど必要とされておらず、様々な学力診断への活用度は依然として高くはない。

 海外資格評価の先進国であるアメリカでは、NAFSA(全米国際教育交流協議会)やAACRAO(米国大学アドミッション・オフィサー協会)が留学元である途上国の教育資格について調査し、アメリカへの留学資格認定、資格証書の発行を行っている。この他、AICE(国際資格評価協会)、CEC(全米外国成績資格評価審議会)等が海外教育資格の評価活動を行っているというが(横田 2012)、多くは民間組織で、資格認証をビジネスとするものであり情報入手は容易でない。また、そもそも、アメリカの教養教育型大学への受入と、日本の大学の専門教育への接続が前提となる受入側のニーズはかなり異なると言えよう。日本の大学の中にも教養学部があるが、高い語学能力や論理的思考力、学習意欲・態度によって、しっかりとした基礎学力が評価されれば、入学後に個々の学生に知識のばらつきがあったとしても、教養教育の幅広い枠の中で、それぞれの適性と意欲にあった学問分野に進んでいくという側面がある。これがアメリカの教養大学で留学生を柔軟に受け入れられる教育システムの基盤であり、大学、大学院教育の積み重ねでもある。 日本の大学院重点化大学では大学院を重点化するからこそ、という理由で学部での専門教育への重視が進んでおり、初年次教育での教養教育の短期化と専門教育の早期化が進行している。このため、高校での学習状況との強い接続がますます必要とされ、日本国内の高校からでも補習教育、リメディアル教育という新入生のばらつきを埋め合わせる教育が既に各所で行われているところである。同様に、海外からの留学生は国別、地域別、学校別と多様であり、受入においては個々の学生への対応が必要とされており、当該国の教育課程とその内実を把握することは、学生の学力診断そして学生理解にとっても重要になってきている。

2)中国での海外進学準備教育の提供

 中国の送り出し側である高校を見てみると、外国語学校、国際学校、重点学校そして一般の学校出身によって分けられ、また、それが省や沿海部都市か内陸かなどの地域別や朝鮮族等の民族学校によっても外国語としての日本語能力や英語能力にはかなりの差異が生まれる。海外留学を目指す学校は主としてエリート校であり、外国語学校等では特別な課程を持つ学校が多い。沿海都市にある国際学校では香港やアメリカの教科書を輸入し使っており、教科書以外にも多様な補助教材を用いて、資格取得や大学入学資格試験準備を進めているところもある。このように、海外への学部段階での留学を目的とする学校など教育機関は、各国の教育制度外に位置するため、それぞれ特徴を出して、IBやAPプログラムによる留学促進策(小川 2012)や、英国のAレベルといった国際共有資格の取得を目指す国際中等学校、留学派遣を前提とする外国語学校、海外大学入学資格の民間予備教育機関(新東方など)が多数存在する(横田 2012)。これらの学校には「高考」を併願するため国内用の教育課程と海外用の教育課程を併用しているコースもあるが、海外進学に特化した専門コースもあるという。 しかし、こうした国際学校だけではなく、重点学校や一般の学校においても、海外の優れた教育機会を求めて、あるいは負担の大きい「高考」の受験競争から逃れるために、子どもの海外進学を考えている親は少なくない。こうした高校から来た留学生はどのような勉強をしてきているのか、注目していく必要がある。3)高校レベルの日中の教育・学習内容の違い-数学を事例に- 日本の留学予備教育機関でのインタビューによると、理系志望の留学予備学生に物理、化学の知識が不足していることが指摘されている。物理を学習していない、或いは化学Ⅱの分野を学んでいないという理系学生がいるという。こうした履修教科のバランスにも配慮する必要があるが、現在、数学と理科(化学、物理)の教育課程を調査分析しているところであり、今回、数学の教育課程について紹介したい。

 まずはじめに、数学の教育課程の単元一覧を指針として、全単元のバランスや学習単元(項目)を重視した包括的な整合表(基本枠組)をたたき台として作成している。学習過程の違いを確認することと、教育の接続をよりスムーズにするためのチェックリストとして活用するためでもある。表5-1-1は、文部科学省の高等学校学習指導要領解説と中国の人民教育出版社と江蘇教育出版社の数学教科書から入手できた単元一覧を比べてみたものである。江蘇省版は昨年実物を購入しているが、人民教育出版教科書の大部分はインターネット上に掲示されている単元一覧から情報を得ている。日本語版には各単元の英語訳を、二種類の中国語版には日本語訳を付けている。入手した情報も完全では無く、縦幅はまだ各単元と細項目を十分にカテゴライズできてはいないので、暫定的な表として今後修正を重ねていくことが必要となる

表 5-1-1 日中両国の数学の教育課程の単元一覧

(文部科学省「高等学校学習指導要領解説」、人民教育出版社および江蘇教育出版社の数学教科書の比較)

 


 表5-1-1からも分かるが、中国の普通高校の課程は、国際学校のIB課程および AP課程と比較して、微積分の知識の割合が多くないという(唐 2012)。微積分は「名存実亡」の状態であるとの指摘もある(郭玉峰・杜威 2002)。中国では大学進学後に微積分、特に積分を学ぶことになっているためである。北京版の「高考」理科の指導書によると、試験で求められるレベルとして、各単元・項目は(A)了解(知識・記憶)レベル、(B)理解(理解・解釈)レベル、(C)掌握(熟達・利用)レベル、(D)柔軟的総合活用レベル、に分けらており、微積分の単元には「定積分概念」と「微積分基本定理」の項目のみが提示され、この二項目でも、問題レベルは(A)了解レベルに該当すると説明されている(北京教育考試院 2012)。
 こうしたことは、日本の大学進学の準備をさせる日本語予備教育機関でインタビューした際にも同様の意見を得ている。数学教師によれば中国からの留学生は微分積分、微分の計算の仕方までは学んでいるが、特に積分は学習していないという評であった。「今の日本のカリキュラムの数Ⅲとか数Cは全くやっていない状況で、数列も知らないことが多い」、「数ⅡBでは計算の仕方は習っても、理論的証明や公式は習っていない状況」であるという。中国語でも「証明」を書くことができないということを確認し、教授法の違い、学習方法の違いを感じ、日本の大学でついて行けるか心配しているという。重点高校でも日本に来た学生は数学が弱いという印象だそうだが、重点校の学生は、指導すると自分で勉強しくるなど優秀な学生も多いという。
 エリート校である国際学校の卒業生は、主に海外の大学へ進学するため、日本を含む海外の高校の数学課程と同じように、微積分の内容を学ぶことになっていることから、今後、教育課程の改訂と関わり中国国内の課程で微積分を海外の課程と揃えるかどうかが一つの懸案となっているともいう(唐 2012)。

4)おわりに

 様々なレベルがある日本の大学で、教育課程単元での相違に加えて、トップレベルの高校生から中国国内進学をあきらめた高校生まで、様々な学力レベルの留学生を受入前・後で、教育課程学習歴をどのように確認し判定していくか。日本の大学による、個別の国際、外国語高校への訪問や科目担当教師との面接も実施されているところではあるが、重点高校まで網羅することはできない。教育資格試験の成績では把握できない部分について、日本の予備教育課程では半年から1年をかけて学生の学力診断にあわせた授業を行っている。しかしながら、大学入学後、予備教育機関から個々の学生のポートフォリオを受け渡すような接点は制度的にはなく、海外の高校の場合も大学が求める詳細な教育課程・単元・項目の確認は十分にはできていない。大学受け入れ前後にでも、各科目の単元項目毎の相違に加え、更に、例えばブルーム(B. S. Bloom) によるタキソノミー(学習成果の分類)を援用しながら、①用語・事実知識の有無(習ったことがある)、②法則性・原理の知識(概念構造としての理解)、③変換(表現)能力・他領域との関連づけ可能、④応用・課題解決・仮説検証が可能、⑤実験・実技経験の有無、などの段階に分けた詳細な学習歴の確認作業が求められている。個々の生徒や高校での学びが把握できることで、留学生にはますます細やかな教育指導が可能となる。大学が国際化し、海外から多様な人材を引き受けるためにはこのような共通の受け入れ枠組作成作業や学習内容の照合作業がオープンな舞台で議論されることが必要であろう。

参考文献:
・小川佳万編『東アジアの高大接続プログラム』高等教育研究叢書115号 広島大学高等教育研究開発センター 2012年
・郭玉峰・杜威「高等学校数学科カリキュラムにおける日中比較研究」『筑波数学教育研究』第21号 2002年
・国立教育政策研究所「教科等の構成と開発に関する調査研究」『算数・数学のカリキュラムの改善に関する研究-諸外国の動向(2)-』研究成果報告書(23) 2005年
・曹一鳴主編『十三国数学課程標準(小学、初中巻)』北京師範大学出版社 2012年
・菅原久美子・杜威「高等学校数学科教育課程における日中韓比較研究~日本の教育課程の変遷に焦点を当てて~」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第27号 2005年
・高橋哲男「中国数学教科書『微積分初歩』の検討:微分と積分の導入及び数値計算を中心に」『教育学の探究』15 北海道大学 71-94 1998年」
・中国総合研究交流センター『中国の初等中等教育の発展と変革』独立行政法人科学技術振興機構 2013年
・東北育才学校高琛(Gao Shen)校長『東北育才-リーダー人材養成の場』2011年5月 JST Portal China掲載
・唐成昌主編『高中国際課程的実践与研究』数学巻 上海教育出版社 2012年
・北京教育考試院編『2013年 普通高等学校招生全国統一考試 北京巻考試説明(理科)』開明出版社 2012年
・横田雅弘編『中国における日本と諸外国への留学生送出し要因の比較研究~IDP方式の将来予測~』明治大学新領域創成型研究 2009年
※)本節は独立行政法人日本科学技術振興機構(JST)のインターネット情報誌JST Portal Chinaに掲載された、拙著「中国の高校から日本の大学への留学:高校数学の学習単元の整合表の試み(その1),(その2)」を再録したものである。


 

 


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