中国の大学における基礎学科トップ人材育成研究~「基礎強化計画」を例として~

中国の大学における基礎学科トップ人材育成研究
~「基礎強化計画」を例として~

                                 趙晋平・竹熊尚夫


 中国における高等教育在学人数の規模は2021年の時点で、4430万人に達し、同年齢における入学率は57.8%に達している。高等教育の規模が拡張され続ける中、伝統的なエリート教育と新興の大衆教育を兼ね備えた関係という視点から中国エリート教育の発展問題を語ることはますます重要となってきている。
 エリート教育には悠久の歴史があるが、教育の発展に伴い、そこに含まれる意義も次第に広がり、豊かなものとなっていった。先進国では天才教育の研究を行った後、エリートの選択において「政治・経済階級」基準から次第に脱却していった。エリート教育は天才教育、英才教育、または才能教育とも言われる。中国におけるエリート教育の理念は根強い。中国ではこれを人材別教育理念、優秀な人材に施す一種の育成モデルの反映と位置づけ、厳格に選抜した学生に専門的かつ特別な教育を施すことで、彼らの潜在能力を充分に発揮させており、こうしたエリート教育は各教育段階に普遍的に存在し続けている。
 しかしながら、過去においては有効であった選抜機能が、高等教育大衆化の勢いの下、多かれ少なかれ変化しているのもまた事実である。エリート教育における飛び級制度や「コンクールクラス」[1]などは、これまでのように支持・崇拝されなくなってきている。とりわけ、学科におけるコンクールとは、もともと特殊な才能を持つ者が深く研鑽を積んでいくための限られた道であったが、昨今では、応用問題の増加や入試の競争のために、大量の学生がそこに身を投じ、コンクールが本来持つ意味からかけ離れ、学生の興味を育成することは全く不可能となっている。より重要なのは、こうしたコンクールのせいで学生たちの気力・体力および保護者の経済力が大幅に削がれ、深刻な事態に陥っている点である。また、一部の学生はコンクール結果を利用して入学したにも関わらず、大学に入るとすぐに興味とやる気を失ってしまい、こうした事態は学科コンクール制度の選抜効果を大きく引き下げているのである。現在のところ、数学オリンピックを主な対象とする大学推薦入学の規模は年々縮小され、正規の大学入試以外の特殊推薦ルートは日増しに狭まってきている。
 しかしながら、大学入試のような大規模な試験における出題では、入試の主な対象群のレベルを考慮しなければならないため、天賦の才を備えた一部の学生が突出した結果を残すのは難しい。ここ二十年の高等教育は急速に拡大してきたため、過去のエリート教育の扉を直接開いてもおかしくない事態になっているものの、特殊ルートや出世の道が増えた様子は特に見られない。こうした区別のない全員競争の局面は、エリート教育を凡庸化へ追い込むと同時に、競争の足かせを本来必要としなかったすべての人たちに与えることとなる。こうして教育システムへの参入者の数がますます増え、内在する矛盾が拡大していき、競争の度合いも常軌を逸脱していく。その結果、大衆の教育を受ける権利および国のエリート選抜・育成メカニズムの双方に深刻な制限を与えてしまうのである。
 「エリートは国の方向性を左右する。知識経済の時代に、科学技術エリート人材を育成することこそ、新興学科を引っ張り、鍵となる技術を攻略し、高度新産業を発展させるための重要な措置」[2]である。中国の経済・科学技術の発展は、大量の人材を急速に必要としており、こうしたエリート人材をいかに多く育成していくかが中国高等教育界を常に悩ませる重要な課題となっている。高等教育改革では、国家重大戦略の需要へのフォーカスと、多角的な評価モデルの実施が可能なものを最優先で模索し、そこから高等教育大衆化における突出した問題の解決実現を可能とし、同時にエリート教育も行い、革新力あるトップ人材育成の有効メカニズムを実現させるのである。こうした背景の下、教育部は徹底した調査・研究に基づき、2020年1月に『一部の高等教育機関における基礎学科募集改革の試みに関する意見』(以下、「基礎強化計画」と略す)を打ち出した。
 「基礎強化計画」では主に、国家重点戦略の求めに応じる意志があり、かつ総合的に優秀な素養もしくは基礎学科が抜きんでている学生を選抜する。また、基礎学科の牽引作用を突出させ、関連大学自身の特色と結びつけ、数学、物理、化学、生物および一部の文系専攻を重点的に募集していく。「基礎強化計画」は、高等教育人材選抜メカニズム、育成モデル、国家戦略の需要にそれぞれ対応し、同時にエリート教育ならびに教育の公平性も兼ね備えており、多元的評価、多元的募集、専攻別育成、追跡評価を結びつけて一体化させた革新型トップ人材選抜および育成モデルを積極的に模索したものである。
 高等教育規模拡張という国の経験から見れば、「基礎強化計画」の模索と誕生もまた、エリート教育と大衆教育が対立から妥協、共存へと向かう一つの試みでもあり、エリート教育の発展に有利なだけでなく、高等教育システム全体を高めていくためにも有利なことが分かる。

一、「基礎強化計画」誕生の背景

 中国の大学における革新型トップ人材育成の始まりは、1978年に中国科学技術大学で作られた「少年クラス」[3]まで遡る。少年クラスは募集、教学、人材管理において全面的な革新を試み、これまでに4000人余りの卒業生を輩出してきた。社会のために先端科学の人材を育て、革新型トップ人材育成のために貴重な実践と経験を残してくれたのである。
 その後、北京大学の「元培計画」、浙江大学の「竺可楨学院」、南京大学の「基礎学科強化クラス」、清華大学の「基礎学科クラス」などもまた、革新型トップ人材育成に対し、特色ある模索を展開してきた。
 1990年代、教育部は「国家理系基礎革新型トップ人材育成」プランを立ち上げ、基礎学科における科学研究ならびに教学人材育成を全面的に展開していくが、それが示すものは革新的意識と比較的優れた科研能力を備えた優秀な革新型トップ人材の育成であった。2003年、教育部は個別募集改革計画を打ち出し、点数のみで合格が決まる大学入試制度への改革を試みた。
 個別募集政策では、多元的な人材の募集と選抜を模索したため、大学入試で「一生が決まる」構造を打破するなど積極的な効果があり、大学、受験生、社会からも認められる結果となった。しかし、関連大学による受験生と育成準備に不備があり、特色ある育成プランが欠けていたこと、もう一つは学生自身の興味や特徴を網羅するのが難しく、特に基礎ができて能力も高い個別の学生の発展にとっては不利となったことなどから別の「不公平」を生み出してしまったのである。革新型トップ人材に対する募集と育成モデル改革という国からの要請の下、個別募集政策は2020年に歴史の表舞台から姿を消し、同時に基礎強化計画の実施がスタートした。その年、北京大学と清華大学の新入生のうち、約30%が「基礎強化計画」によるもので、コンクールや推薦入試により入学した者は10%に満たなかった。
 以下、「基礎強化計画」成立の背景要因を三つの点から分析する。

1.「基礎強化計画」は中国革新発展戦略に必要
 現在、新たな科学技術革命および産業変革が勃興し、国際競争は基礎研究同士の競争へと前倒しされてきた。その中で、科学の基本的問題にこそ重要な突破口があるとの認識から、新たな科学的重要思想および科学的理論が生み出され、革新的技術が誕生することが望まれている。「0から1へ」の基礎研究を強化し、新たな分野を開拓し、新たな理論を提起し、新たな方法を発展させ、重要な創造性を備えた原始的革新成果をあげることは、国際科学技術競争における最高峰でもある。
 しかしながら、中国の場合、すでに量の蓄積から質の向上へと飛躍したとは言え、基礎研究は依然として苦手分野であり、重要なオリジナル成果には乏しい。「0から1へ」のオリジナル成果をあげるには、長期的かつ重厚な知識の蓄積と積み重ね、各学科領域がバランスよく持続可能な発展をしていくよう安定したサポートを行う必要がある。また、数学、物理などの重点基礎学科へのサポートを強化し、基礎数学分野の研究者が数学における最新課題に対して基礎理論研究を行えるよう安定したサポートをすることは、基礎発展を充実させるためにも極めて重要である。自由な模索を貫き、オリジナル性を突出させ、科学的課題の方向性と需要の牽引に重点を置くと同時に、科学者が科学研究活動において個人の興味と国家戦略の需要とをしっかり結びつけるよう促し、科学の先端における牽引と開拓を実現させ、根本的な創造力を全面的に育成していくことが求められている。

2.「基礎強化計画」は革新型トップ人材育成のための戦略
 国際的視点から見れば、世界の多極化、社会の情報化は著しい発展を遂げており、新たな科学技術革命および産業改革が今まさに形成されつつあるが、国際競争の焦点は、実は人材の争奪と育成なのである。教育に対して優先的発展を施し、現代教育システムの構築を模索し続け、学習型社会の構築に努め、多くの革新型人材を育成・発展させることは、すでに人類を持続可能な発展の実現へと向かわせているだけでなく、複雑な挑戦と重大な課題に立ち向かうための鍵でもある。
 国内的視点から見れば、中国トップクラスの基礎研究人材およびチームは不足しており、とりわけ、長期的に基礎学科を掘り下げる安定したチームや人材は少ない。こうした人材育成を政策面から見た場合、我が国では一連の有益な模索が行われており、その目指すところはトップ人材の選別を促す専用ルートを構築し、基礎学科のトップ人材を大量に育成することにある。「基礎強化計画」が登場する前、こうした政策は主に学術的英才の選抜と育成に焦点を絞り、その専門知識と技能訓練のみを重視してきたため、人格形成教育や社会的責任感の育成といった注意点が疎かにされてきた。実践の面でも、とりわけ評価の点で、学生の学業成績および科研成果など数値化できる指標に重きを置き過ぎており、社会的責任感や貢献度など隠れた要素の評価は形式的なものとなる傾向が強かった。

3.大学入試制度に対する補充機能
 「基礎強化計画」の意義は大学による参与、募集準備、育成制度を模索し、学生個人の発展と革新型トップ人材育成の有機結合を実現し、そこから人材選抜における公平性ならびに学生の個性化発展促進という社会からの二つの要求によりよく応えることにある。
 大学入試統一試験モデルは点数評価の役割を過分に強調しすぎる「唯点数論」であり、受験生の個性的発展を軽視し、社会のために大量の任務をこなすだけの創造性に乏しい試験型人材を育成しているのが現状であり、これは国、社会、経済の持続的発展における「人的資源の問題点」となる可能性がある。こうした統一入試の弊害を取り除き、大学の自主選択権を強めるため、先述したように2003年に大学による個別募集改革の試みが始動したのであるが、その後、2020年にはこうした個別募集の過程で起こる矛盾を是正し、革新型トップ人材の選抜と育成を推し進めるため、教育部は個別募集の廃止を宣言し、一部の大学で基礎学科募集改革の試みが展開された。
 「基礎強化計画」は中等教育から高等教育にかけての一貫性という点で有利である。点数によって合否を決める募集モデルは一種の一方通行であり、試験教育の誘導機能を十分に考慮しておらず、中等教育と高等教育の間に連続性の欠如を引き起こす。この問題は主に二つの点に見られる。一つ目は、入試対策という環境の下、中等教育では点数や順位を過度に重視し、人格や心理面の育成が相対的に不足しているため、学生の現実世界に対する認識と適応能力の欠如といった事態を引き起こし、大学に入ってからも喪失感に陥りやすくなる。二つ目は、中等教育では教師の指示の有効性が強調され、生徒の主要任務は試験の成績を上げることとされるため、将来の学術研究や卒業後の進路に関して必要な理解や計画が欠けたままになりやすい。しかし大学に入ると自主学習やライフプランがより重視されるため、情報不足と能力不足という二重苦に陥るのである。

二、「基礎強化計画」の現状と特徴

 基礎強化計画の募集校はすべて「一流大学」建設大学で、そこには北京大学、清華大学、上海交通大学など985プロジェクト指定の36大学が含まれる。基礎強化計画とその「前任者」である個別募集制度とでは大きな違いがある。
 まず、この両者は選抜の相手が異なる。個別募集では主に「学科の特徴と独創的潜在能力を備えた学生」を選抜していたが、基礎強化計画の場合、主に「国家重点戦略の求めに応じる意志があり、かつ総合的に優秀な素養もしくは基礎学科が抜きんでている学生」を選抜する。次に、この両者が募集する専攻も異なる。個別募集では大学の専攻範囲を限定しなかった。しかし基礎強化計画では、基礎学科における牽引作用を突出させ、数学、物理、化学、生物および一部の文系専攻の募集に重点を置いている。最後に、この両者は合否の選考基準も異なる。個別募集における主な合格基準は受験生が提出した申請書類であった。しかし基礎強化計画では、受験生の大学入試成績を基準としており、関連学科領域において突出した才能を見せる受験生は極めて少ない。基礎強化計画における募集条件は通常、総合的に優秀な素養を持つ大学入試成績の優れた受験生および基礎学科が抜きんでている学生、さらには中国数学オリンピック、全国高校生物理コンクール、中国化学オリンピック、全国高校生生物学コンクール、全国青少年情報学オリンピックなど五つの学科コンクールにおける全国二等賞以上の入賞者、しかも大学入試成績が出身地域における一流大学入学資格の最低ライン以上の受験生となる。大学側の入学特例規定に関しては、選抜の条件と方法を定め、事前に公開しなければならない。
 大学入試成績は基礎強化計画における合格基準において二つの重要な役割を果たす。一つ目は、合格大学の審査条件である。基礎強化計画ではコンクールの賞状、論文、特許などのみを審査条件とするやり方を廃止したため、受験生の入試成績がその根拠となる。二つ目は、合格の重要な根拠となる点である。基礎強化計画では個別募集で行われた「特例合格」のやり方を変えている。大学は受験生の入試成績、総合審査の結果、総合素養評価の状況などに基づいて総合成績を算出し、高い方から順に合格とするため、受験生はより総合的に評価されるのである。ちなみに、大学入試成績が占める割合は85%以上としなければならない。
 各大学は募集範囲や育成方式などの面で様々な試みを続けている。以下、清華大学、武漢大学、中国科学技術大学の例を見ていく。

事例1:清華大学
 募集する専攻と目標:(1)理系基礎学術系専攻(数学および応用数学、物理学、化学、生物科学、情報およびコンピュータ科学)の募集とし、その目的は理系基礎分野において特に優れ、関連基礎研究に従事する意志のある学生の選抜と育成にある。(2)理系基礎工程応用系専攻(数理基礎科学、化学生物学、理論および応用力学)の募集とし、その目的は理系基礎分野において特に優れ、先端チップ・ソフトウェア、人工知能技術、新材料、先端製造、国家安全など鍵となる分野の研究に従事する意志のある学生の選抜と育成にある。
 募集人数:1026人(2021年)
 育成方式:(1)寄宿書院制。清華大学では五つの書院(カレッジ)を基礎強化計画における人材育成本部に指定している。書院は基礎強化計画で募集した学生に対して専門的育成プランをそれぞれ設計し、関連教学資源を組み合わせる役割を果たす。(2)人材に応じた教育。基礎強化計画で入学した学生は単独でのクラス編成とし、指導教師制、少人数クラスなどの育成モデルを実施する。(3)国家実験室、国家重点実験室、最新科学センターなどのプロジェクト研究に基礎強化計画の学生が参加するよう奨励する。(4)学部―院生の連携では、各段階で異なる育成を行う。基礎強化計画の学生には、その専攻の修士、博士推薦枠を優先的に使っていく。(5)国際化レベルを高める。国際的に影響力のある著名な科学者を招聘して指導・講義を行い、最新の講演、論文指導などの教学活動に参加させる。共同育成、交換留学プロジェクト、実験室研究などの方法を通じ、基礎強化計画の学生を国外の一流大学へと派遣し、計画的かつ目的のある学習や交流を行わせ、国際的視野を広げる。

事例2:武漢大学
 募集する専攻:理工系では数学および応用数学、物理学、化学、生物科学、基礎医学とする。
 育成方式:(1)基礎強化計画の学生には段階的審査および転出・転入流動メカニズムを実施する。学部二年生の後期の時点で、基礎強化計画の学生に対する専門家の審査を実施し、不合格の学生は同専攻の普通クラスへ転出とする。学部三年生の後期の時点で、再び専門家による審査を実施し、審査結果が良好もしくは優秀だった学生には修士生推薦資格を与える。そのうち極めて優秀な学生には博士生までの連続推薦資格を優先的に与える。修士期間中も専門家による審査メカニズムを継続的に実施し、育成の質をチェックした上で、不合格の学生には流動管理を実施する。(2)創造型の学術系トップ人材を育成目標に掲げ、学部・修士・博士の連動育成モデルを推進する。(3)科学と教育による共同育成を推進する。大学の関連科研プロジェクトおよび科研機関、例えば国家重点実験室、科研実験室、最新科学センターなどが連携し、基礎強化計画の学生を優先的にプロジェクト研究に参加させる。(4)基礎強化計画の学生における海外留学交流経費の需要を優先的に保証する。能力が突出し、国際的に一流レベルの基礎学科分野トップ人材を育成し、奨学金審査などの点でも優先的に考慮する。

事例3:中国科学技術大学
 募集する専攻:数学および応用数学、情報およびコンピュータ科学、物理学、応用物理学、化学、生物科学、生物技術、理論および応用力学、核工程および核技術とする。
 育成方式:(1)各専攻における基礎強化計画クラスは30人前後の編成とし、少人数クラスを実施する。基礎強化計画のすべての学生に学術的に一流の指導教師をつけ、全過程における指導を行い、その学業プラン、学術能力展開などにおける全面的な向上を助ける。(2)基礎強化計画の学生一人一人の個別成長記録を作成し、育成が順調に進むようサポートしていく。毎年、学業成績に基づいた流動管理および淘汰メカニズムを機能させると同時に、優秀な学生であれば基礎強化計画に転入できるようにする。(3)修士、博士の推薦枠を基礎強化計画の学生に優先的に使い、学部卒業後に直接博士生までの進路を選択する学生の育成を推奨する。(4)基礎強化計画の学生すべてに十分な奨学金および国際交流の機会と経費を提供する。また、これらの学生には中国科学院の関連研究所、国家大科学プロジェクトやプラットフォームで実践能力を高める機会を与える。

 以上のような各大学で実施されている「基礎強化計画」は次の6つの共通の特徴に整理することが出来よう。
 1.少人数クラスによる育成モデルの実施。基礎強化計画を実施する大学は、合格した学生へのクラス編成を通常単独で行い、その育成プランも単独で策定する。同時に一流の教師や資源、一流の学習条件の提供を通じ、一流の学術環境および雰囲気を作り出している。そのうち、清華大学が実施する「基礎強化計画」は書院制モデルを深く探究し、革新を要とする書院文化を構築して人材に応じた教育、学生の個性的発展を奨励する他、師弟間の心の交流も強化し、優秀な学生における価値塑造と人格形成を促している。
 2.学部生指導教師制の定着。2000年前後、我が国の大学は学部生の指導教師制を推進し始めた。この制度実施の目的は、高等教育大衆化という背景の下、学部教育の質を高めるためであり、一対一の指導モデルを構築し、「学生の全面的発展のために良質な個別サービスを提供する」ものとした。しかし、当該制度の実施以来、長期的な形式主義、目的の不明確、師弟間の対立、効果があがらないなどの課題が明らかとなり、理想から遠い結果を生み出してきた。学部生指導教師制の有効な実施は、関連する理念、制度、環境のサポートによって決まる。通常、博雅教育理念はこの制度の精神的中核であり、寄宿制はその実施基盤であり、少人数制と師弟比の低さは実施する上での重要な保障となる。我が国高等教育における現時点での規模と特徴から見ると、この制度を実施するのは困難であり、制度と経費のサポートがある基礎強化計画を突破口として指導教師制を定着させていく他ない。北京大学では院士(科学アカデミー会員)などトップクラスの学者を指導教師に据えて学生に講義を行い、「1+x」指導教師制を実施している。その結果、一人の学生に専攻科目の指導教師一人、専攻外科目の指導教師数名がつき、カリキュラム学習、科学研究、職業進路プラン、メンタルケアなどにおいて牽引・指導・幇助を行い、全人育成、全面的な育成モデルを形成しているのである。
 3.国際的特徴の突出。基礎強化計画を実施する各大学は、いずれも世界のトップ大学との戦略的提携強化を重視し、国際的な大学者がトップ人材の育成に加わるよう積極的に働きかけている。トップレベルの学生の国際的視野を広げるため、各大学では研修実習、サマープログラム、短期視察などの方式を用い、学生の国際文化理解能力を高めている。同時に、国際共同イノベーションチームの構築や学術共同体の設立を通じ、トップレベルの学生が世界の科学文化研究における最先端に接し、国際一流学術グループに溶け込むための条件を作り出している。
 4.学・修・博一体化育成メカニズムの模索。成長・発展の道を切り開くため、学業に秀でた学生に対し、大学は修士生や博士生への推薦枠を優先的に用い、学・修・博のつながった育成モデルを積極的に模索する。これまで学生は学部、修士、博士の三つの教育段階を修了するのに通常10年の時間を要してきた。しかし、この三つの段階をつなげ、育成段階の計画も同時に行えば、人材育成面で一層の最適化が可能となる。カリキュラム一貫性の強化、単位の互換推進、学制の弾力的運用などを採用していけば、この三段階の育成における重複部分を取り除けると同時に、それぞれの段階で進学のために要していた院生入試対策など大量の時間を節約でき、人材育成の周期を有効に短縮し、その効率を高めることが可能となる。
 5.科学・教育による科研能力の共同育成。各大学は国家戦略需要に基づく革新を方向性に据え、科学と教育が共同で人を育てる理念を全面的に推進し、国家実験室、国家重点実験室、最新科学センターなどの研究プロジェクト研究に基礎強化計画の学生が参加するよう奨励していく。また、学生が基礎研究や最新学際的研究、鍵となる革新的技術攻略に参加するようサポートし、学生の創造力および科研における問題解決能力を着実に高めていく。一部の大学では業界指導教師、国家重点プロジェクト参加者を招いた共同育成を行い、ハイレベルなコンクールや研究成果の商品転化において学生がイノベーション・起業能力を高められるようサポートしている。
 6.転出・転入の動態メカニズム実施。基礎強化計画を通じて入学した学生は、原則として他学科への転出は認められない。また、大学は多段階の転出・転入動態メカニズムを構築し、これらの学生に対し、総合審査ならびに科学的流動を実施する。優秀な学生がより高いレベルで学習できるよう奨励すると同時に、成績不良の学生は淘汰していく。大学ではまた、在校生、卒業生の追跡調査メカニズムおよび人材成長データバンクを構築し、質の測定とフィードバックに基づき、人材募集と育成プランを引き続き改善していく。


三、「基礎強化計画」の意義と現存する課題

 「基礎強化計画」は国家重点戦略の需要を方向性とし、募集者の学科・専攻を確定する。ここでは基礎学科の牽引作用を突出させ、国の経済社会発展に欠かせないハイレベル人材の育成に力を入れる。中国の特色ある革新型トップ人材育成の道のりを模索する上で、「基礎強化計画」には重要な意義がある。
 1.「基礎強化計画」は典型的な政策駆動型高等教育ガバナンスモデルである。中国高等教育は上から下への政策駆動型高等教育ガバナンスモデルを形成しているが、これは高等教育が短期間のうちに急速に発展した要因でもあり、同時に中国高等教育の脆弱な基盤と跳躍式発展という実状が生み出したものでもある。目標という点で、中国高等教育の発展は往々にして国家重点戦略の需要と切り離せない。近年、国際科学技術競争は激化し、中国では「科学・教育興国」、「人材強国」戦略に次ぎ、科研の自主、科学技術の自強が再び強調されるようになり、「革新駆動発展」戦略が打ち出されている。その中で「基礎強化計画」はまさに国家重点戦略の求めに応じる意志があり、かつ総合的に優秀な素養もしくは基礎学科が抜きんでている学生を選抜・育成するものである。人工知能技術、新材料、先端製造など鍵となる分野をフォーカスすることで、科学技術のオリジナル革新を実現させる。高等教育人材育成の面から言えば、「基礎強化計画」は実際のところ、卓越した人材や革新型トップ人材育成ならびにハイレベル人材規模拡大を強調したものであり、人材育成の質とレベルを引き上げるものであり、これは中国高等教育に付与された重要な使命でもある。
 2.制度設計上、エリート教育の実施ならびに公平な教育との結合を推進した。基礎強化計画は大学入試の成績を合格基準とし、制度メカニズムを改善して、受験生における機会の公平、過程の公開、結果の公正を保障すると同時に、国際数学オリンピック入賞者を重視するエリート教育の伝統をある程度残してもいる。大学は大衆教育において再びエリート教育へと回帰したのである。
 3.評価モデルにおいて、教育評価改革との結合を推進した。人の育成重視の姿勢を貫き、募集の過程においては受験生に対し、全面的・総合的評価を模索し、生徒の総合的素養の育成を高校に重視させるよう指導した。改革・提携の面では、全面的・総合的教育評価と高等教育関連改革との結合を推進した。統一計画と協調を強化し、基礎学科トップレベルの学生の育成、科学技術革新強化などの改革と関連づけ、改革の力を形成した。
 4.新たな人材育成モデルを積極的に模索した。清華大学は基礎強化計画のために新たに五つの書院を設立した。これらの書院は基礎強化計画の育成要求に基づき、専用の人材育成体系を策定し、学生を中心とする人材育成の効果を着実に高め、国のためにより多くの知識と才能ある人材を送り出した。それ以外に、北京大学は「鹿鳴書院基礎強化計画クラス」を設けた。ここでは、一般教養と専門教育とを融合させた学部教育システムが用いられ、優秀な学生を育成してきた。プリンストン大学の元学長シャーリー・ティルマンは、「新システムにおける最も独創的で最も興奮させる要素は、それが大学生活の学術と非学術とを融合させている点にある。書院は寝泊りと食事をするところだが、学術指導、講義、課外活動を行う場所でもある」と指摘している。書院に寝泊りするというやり方を通じて人を教え育て、学生の精神と性格を塑造し、チームワークやリーダーシップの才能を育てるのである。
 しかしながら同時に、基礎強化計画には一連の課題も浮上している。
 1.トップレベルの設計不足。中国には大学英才教育の管理に携わる政府の専門部門が存在していないため、英才教育の実施・計画・管理はすべて各大学が自発的に行っている。その結果、英才教育における大学間の連携が行われず、それぞれが勝手に行う支離滅裂な状況が続いている。そこで、育成体制においてトップレベルの設計を行い、トップ人材育成連絡会議を設立し、統括部門を明確にした上で、教育管理部門や専門家を集めることが肝要となる。さらに連絡会議機構を常態化し、そこから集団政策決定能力を強化し、管理面での提携を図り、トップレベルの設計および人材発展戦略実施の点において核心的役割を果たせるようにしていく。
 2.政策の非連続性が人材育成における一貫性の欠如を引き起こす。人材育成が国家および経済社会の発展戦略のために果たす役割は依然として重要であるが、長い目で見れば、高等教育における創造力の発揮という点ではそれほど有益ではない。同時に、政策が変わるたびに一貫性や持続性の欠如が引き起こされるため、人材育成に対し負の影響を与えている。総合評価募集モデルにおける各主体の中で、高校は相対的に弱い立場にある。彼らは国の教育方針を実施し、素養教育を施す重要な担体であるが、政府の審査や大学選抜という多重のプレッシャーを抱える状況にも陥りやすい。そこで、安定した育成制度が特に必要となってくるわけであり、政策の一貫性を保証した上で、引き続き学業のレベルを高め、学校の独自色を打ち出し、高校教育の目標を実現させていくのである。
 3.大学の自主性が不足し、個性が埋没している。「基礎強化計画」合否決定の際は、大学入試の成績が85%以上を占め、大学が行う筆記試験、面接、総合評価の合計が15%を超えてはならず、依然として大学入試成績がメインとなり、大学の自主性は不足している状態にある。現在、「基礎強化計画」に参加している大学はすべて我が国の「ダブル一流(世界一流大学ならびに一流学科を目標とする)」推進プロジェクトに指定されている大学であり、大学の総合力、特色、専攻の優位性も異なり、異なるレベル、異なる類別による募集プランが可能である。例えば、北京大学、清華大学などはより良質で豊富な資源を有しているため、その募集プラン策定の際は、より多元化した方式、例えば高校側との合同育成モデル構築などを通じた選抜などを試すことができる。また、その他の「ダブル一流」建設大学も、高校側との間で総合評価システムを構築し、自らに適した人材を提供してもらうためのより多くの参考データについて重点的に考慮すべきである。
 4.重点大学と普通大学の間の格差が広がる。教育強国および科学・教育興国の戦略の下、国は傾斜性を備えた資源配分方法を策定した。政策実施の初期段階では、資源が乏しかったことにより、一部の大学に力を集めて優先的に発展させざるを得なかった。こうした資源配分方法を長期的に実施してきた結果、我が国のエリート大学、すなわち元「985プロジェクト」や「211プロジェクト」に指定された大学は、高等教育ピラミッドの頂点に長期的に君臨し続けてきたが、政府の各政策や財政における傾斜的サポートの下、これらの大学と普通大学との差はますます広がり、固定的で格差の激しい「ピラミッド」式の高等教育等級性構造が形成されたのである。

四、日本への示唆

 以上、中国の大学における基礎学科トップ人材育成の特徴と課題について見てきた。「基礎強化計画」に代表される施策は、高校から大学への連続性が更に求められることから、入試制度にも踏み込んだ革新的な制度設計となっている。中国のこのような変革は、中国自体の大規模かつ急激な教育システムの発展に基づくものではあるが、強い国家主導で進められ一律的改革であることから、「ピラミッド」式で多様な高等教育の実態に適合させるために、大学入試制度そのものや入学者選抜評価の偏りや固定化を生み、本文中でも指摘されているように学生にとっては大学後の伸び悩みを招いき、一方で、制度的負荷や歪みを与えてきたことも事実である。
 しかしながら、先述の分析にあるように、人材養成のニーズに基づく基礎教育の強化や事例大学で示された大学現場でのガバナンス、補充機能や対応戦略には、新旧の中国教育の長所を活かした設計が見られる。寄宿書院制を初めとして、少人数、指導教師制、プロジェクト参加型、学部大学院の連携や一貫的育成モデル、転出転入の流動メカニズム、個別成長記録やサポートシステム等々による優れた育成方式は、ドラスティックであり、中国であるからこそ、新しい教育に向けた改革が急テンポで推進、拡大される可能性が大きい。
 今後の課題でも指摘されているように、高校との連携した育成モデルなど、高校での学びを踏まえた人材育成方式は、これまでの統一入試という一律の学習成果・能力評価方法を、高大をつなぐ一貫した学びのプロセスでの評価としていくことが必要であろう。また、その中で、「公平性」とは一度の受験で決定する「横並びの機会の公平性」から、「個々に応じた教育の公平性」となりつつあることを予感させる。
 海外の日本式学校は個々に対応した緻密な教育方式や正規カリキュラム以外での教師生徒間の関係性や影響力を評価するものでもある。大学進学を前提しつつも、幼小中高大という教育制度の中で、優秀な人材育成像では個々の生徒が知識・技能・諸能力育成を積み重ね、その特性や個性を重層的に形成する。専門性や学際性は高校までの学びや教養教育を踏まえる必要があるが、少なくとも歪みやその効率性に課題がある部分があれば、その改善がなされなければならい。その際に、新しい教育改革に向けて海外の教育の取り込みと同時に、自国の教育の改革が進められ、それぞれの文化社会地域の特性を踏まえながら、多様な教育のあり方を担保しつつ、改革が進められなければならい。中国の基礎学科トップ人材育成のための基礎強化計画は、日本を初め、世界の中等教育および高等教育のカリキュラム設計に様々な知見を与えてくれる。


注:                                                  [1]一部のトップ進学校で設置されている特進クラスであり、学科オリンピックでの受賞で名門大学の推薦入学資格の獲得を目標としている。生徒には地域の中学校から選抜され、理数科の得意な子が多い。学科オリンピックで受賞できない生徒は通常の大学入試試験に参加する。                                 [2] 劉雲、楊芳娟「我が国の先端科学技術人材計画における科学研究資金援助産出の特徴分析」『科研管理』2017年(4)、pp610-622。
[3]現在、少年クラスの募集は中国科学技術大学、西安交通大学、東南大学の三大学である。その募集規模はそれぞれ50人、200人、10人であり、中国科学技術大学と東南大学の募集対象は高校二年生(を含む)以下の理系生徒、西安交通大学の募集対象はその年の中学校卒業生である。

参考文献:

 劉雲、楊芳娟「我が国の先端科学技術人材計画における科学研究資金援助産出の特徴分析」『科研管理』2017年(4)、pp610-622.
 Eric Quiñones (Sept.20,2007). Residential life remodeled: Princeton moves into new four-year college system. Available at: Residential life remodeled: Princeton moves into new four-year college system.
 全守傑、華麗「基礎強化計画の政策分析及び大学の対応策」『高校教育管理』2020年(03)、pp41-48.
 王懿「中国の高等教育改革を背景とする復旦大学書院制度の変遷と発展」『高教論壇』2020年(09)、pp59-62.