柳川高等学校附属タイ中学校

柳川高等学校附属タイ中学校

  木村拓也


はじめに
 本報告では、柳川市にある柳川高等学校の付属中学である、柳川高等学校附属タイ中学校について報告する。なお、資料については、大部分を柳川高等学校附属タイ中学校からいただいた。また、作成にあたっては、柳川高等学校のHP(https://www.yanagawa.ed.jp/)も参考にした。
 柳川高等学校は、福岡県柳川市本城町にある設立1941年の男女共学の私立高等学校であり、運営母体は、学校法人柳商学園である。1994年に普通科内にICC国際教育コースを設置、1995年に国際科を設置している。現在、柳川グローバル学園構想(https://www. yanagawa.ed.jp/ about/concept.html)を掲げ、「世界を知れば、人生が深まる。世界に触れれば、自分が高まる。柳川高等学校は、いつも世界とつながっている。さぁ、国境を越えよう!」をスローガンに、2016年、全国初の海外附属中学校として、タイ南部ナコンシータマラートに「柳川高等学校附属タイ中学校」を開校している。2019年より、その卒業生がタイから柳川高校に進学している。柳川高等学校は、アジア7ヵ国とオーストラリア、イギリスと、合計9ヵ国に事務所を構えており、将来的には全学年、全学科に留学生を受け入れることを目標に掲げている。2019年1月に、九州大学教育学部と海外高大接続教育研究拠点のMOUを結び、九州大学教育学部国際コースのOverseas Fieldwork、Overseas Internshipなどの講義の共同実施を行なっている。

1. 設立の経緯
 泰日人材育成協会の会長であるテムラック・チャオ博士は、日本で学士号と修士号を取得し2007年にタイへ帰国した。帰国後、日本とタイの架け橋となる志を抱き、郷里であるナコンシータマラートで、タイの若者の人材育成をスタートした。その後約300人の留学生を指導し、日本留学支援を実施してきた経緯がある。
 留学生支援事業の最中、柳川高等学校との繋がりを得て、2013年4月9日に泰日人材育成協会との教育提携を締結した。タイからの留学生数が増加するのを目の当たりにした柳川高等学校の理事長古賀賢氏は、タイでの中学校設立を提案し、チャオ氏との共同出資にて設立にあたった。2015年に着工し2016年からのプレスタートというスピード展開でタイ進出を果たしている。

2. 教育理念
 次に、柳川高等学校附属タイ中学校の教育理念について紹介する。柳川高等学校タイ中学校が掲げる教育理念は、「啐啄同時」である。意味としては、卵の中のひながかえろうとする時、ひなが内側からつつくのを「啐」(そつ)、親鳥が外からつつくことを「啄」(たく)という。この「啐」と「啄」が一致してひなが生まれるという得がたい好機が「啐啄同時」である。柳川高等学校では、この「啐啄同時」の言葉を、生徒(ひな)の意欲に教師(親鳥)が耳を傾け、すばやく応じると解釈し、生徒の夢実現のために、きめ細やかな指導に取り組んでいる。柳川高等学校の初代古賀肇理事長が、教育方針の一つとして掲げた「啐啄同時」の言葉を、タイ中学校でも教育理念として掲げ、その意思を引き継いでいる。

3. 組織体制と運営
 柳川高等学校附属タイ中学校の組織は、図1の通りである。

 

 

4. タイの教育制度との関係と学校カリキュラム
 柳川高等学校附属タイ中学校は、タイの教育省に認可された、タイの私学中等教育機関であり、タイの教育制度に基づいたカリキュラム体系を持っている。そのため、日本の教育制 度は導入していない。
 学校カリキュラムは、図2(単位表を含む)の通りである。カリキュラムの特徴としては、クラス分けを行い、1年生は、1組と2組は同じ内容を日本語学習(ベーシック)、2年生は、AクラスとBクラスに分け、A組は進度が早い学生、B組は普通レベル、3年生は、JクラスとAクラスに分け、Jクラスは日本留学希望者、Aクラスはタイ国内進学者である。
 今後、カリキュラム編成についての特色や工夫した点などを詳しく調査する予定である。


5. 日本語教育の体制
 柳川高等学校附属タイ中学校の学年別の日本語教育カリキュラム構造は、以下の通りである。

 

 Jクラスの内容についてであるが、日本のこと(地図、都道府県、季節、料理、観光、日本の名所、日本文化、日本での生活など)と柳川高校のこと(学校内の生活、日本にいる先輩のライブ学校案内、先輩に聞く)などである。また、日本語の勉強のことで言えば、基本の文法や日本でよく使う言葉と文法を習い、発表、作文、週5回の日記などを行なっている。また、アニメ、ドラマ、日本の番組を使って、内容を理解して練習する、また日本人の喋り方を慣れてもらうことも行なっている。日本語以外の科目についても、日本の高校で勉強する予定の数学、理科、社会、歴史などを簡単な内容で予習を行なっている。

6. 柳川高等学校との接続
 柳川高等学校附属タイ中学校が接続する、柳川高等学校には、随時、約80名の留学生が在籍している。柳川高等学校では、レベル別に5つの日本語コースを設け、日本語の授業を行っている。留学生は、日本語能力試験で一番難しいN1を取得することを目標にし、1年生(留学生)は1学期間JSL(Japanese as a second language)コースで学習し、4月入学から夏休みまでの4ヵ月間、日本語を集中して勉強できる体制を整えている。また、留学生の増加に伴い、学校内に留学生サポートセンター開設しており、留学生へ日本語の指導、在留資格に関する手続き、進路指導や生活相談、茶道などのイベントを開催するなど、様々なサポートを行っている。また、進学した生徒が柳川市観光パンフレットのタイ語版の翻訳も手がけるなど、行政との連携交流も行なっている。

 

 附属中学として、柳川高等学校への進学実績としては、第一期(2018年度卒)が男子2名 女子2名(合計4名)、第二期(2019年度卒)が男子1名 女子7名(合計8名)、第三期(2020年度卒)が男子4名 女子3名(合計7名)である。
 「日本語教育の体制」で記載したとおり、「Jクラス」 による留学生用の特別プログラムを実施されている。だが、関係者への聞き取りによると、すでに3期の留学生を送り出しているが、「日本語力」「異文化理解」「規則に対する概念」など、十分な備えが出来ていないまま派遣しているところが課題であり、今後もJクラスによる指導で、日本留学して異文化対応がスムーズになるような指導に力を入れる必要があるという。
 また、保護者の意見として「日本との繋がりの弱さ」が課題であるという認識があり、定期的な日本の高校との交流や、オンライン授業など、頻度の高い日本との繋がりをアピールする事により「日本式学校」のプレミアム化を目指したい意向があるという。具体的には月に1回の頻度で、全学生が、それぞれのコンテンツによる学習を計画している。タイの学生は日本から受けるだけではなく、タイの文化も紹介することにより異文化理解を促進することが目標である。また、附属中という特性を活かし「日本語のアウトプット」の機会を増やし、かつ日本式の考え方などの理解を深めるサポートを強化していく予定であるという。

7. 九州大学教育学部との連携
 2019年1月に、九州大学教育学部と海外高大接続教育研究拠点のMOUを結び、柳川高等学校附属タイ中学校内に海外高大接続教育研究拠点の事務所が設置されている(図3)。この協定に基づき、九州大学教育学部国際コースのOverseas Fieldwork、Overseas Internshipなどの講義の共同実施を行なっている。
 Overseas Fieldworkは、2018年と2019年に実施し、コロナ禍の間は中断していたものの、2021年度はオンラインでの実施が予定されていた。柳川高等学校附属タイ中学校を訪れての授業参観や日本語の講義の実施、中学生との交流を行った。また、帰国後には、日本語の手紙のやり取りを行ったり、柳川高等学校からの遠隔事業も行っている(図4)。

 また、コロナ禍の中では、Overseas Internshipの講義の一貫として、タイ教育部とMOUを結んで実施している柳川クラス(日本語教育)の講義設計を九州大学教育学部の学部生がタイ・ランシット大学の学生と共同で実施したりした。今後は、柳川高等学校のスマート学園構想の中で、インターネット空間上の日本語コミュニティのコンテンツ作りでのインターンシップなども展開する予定である。

8. 柳川高等学校附属タイ中学校における初期の課題と現在の課題
 初期の課題としては、初期は日本留学経験のあるタイ人教師がおらず、日本人2名、留学経験のあるタイ人責任者であるチャオ氏で「日本式デザイン」を手探りで行っていた点である。日本人が多数のインターナショナル校とは異なり、タイ人多数の環境での「日本式」導入は、非常に骨の折れる期間であったと関係者は述べる。我々日本人が、当たり前のように行動している規範なども、文化の違いからなかなか習慣が定着せず、また「日本式とは何か?」という議題について深く考えさせられたというコメントが印象的であった。その後、「日本のやり方を全て導入する」のが必ずしも良い結果にはならないと考え、タイ文化と日本文化との融合による「日本式」の姿を目指すようになった。
 今後、この点、苦労をした点、どう融合していったのか、という点について、詳しく調査をしたい。
 また、現在の課題であるが、「時間を守る」「挨拶をする」「規則を守る」等の、いわゆる「日本式」スタイルは、まだまだ十分でないものの、ある程度定着してきていると捉えられているが、次の段階として、教師の質の(ある程度の)均一化が必須となっていることがあげられる。現在設立6年だが、当初から今に至るまで「新人教師」の割合が多い点が問題の本質だと考えられている。というのも、通常の学校文化であれば、先輩教師が新任教師の指導を行い、ある程度の質は保たれていくわけだが、同じような経験の教師同士のため、それが難しい。近年になり、教頭や校長による教師訓練が実施されるようになったが、まだ十分なものではなく、今後は徹底した計画的訓練を実施していきたいと考えられている。
 加えて、これも教師の質に関わる点であるが、クリンリネスの徹底が実施されていないことが大きな課題であるといい、「日本式」の5S(「整理(Seiri)」「整頓(Seiton)」「清掃(Seisou)」「清潔(Seiketsu)」「しつけ(Shitsuke)」)の概念理解と、その実施レベルや方法など、細かい指示による実現を検討中とのことである。



(注記)本原稿の作成には、柳川高等学校附属タイ中学校事務局長の天野健太氏より、多くの情報提供を頂いた。

参考
柳川高等学校 HP:https://www.yanagawa.ed.jp/(最終確認:令和4年3月3日)
柳川高等学校附属タイ中学校 HP:http://www.yanagawa.ac.th/2022/(最終確認:令和4年3月3日)