国際学校の学びのあり方に関するインタビュー——教育心理学における動機づけと学習方略の視点からの考察——

国際学校の学びのあり方に関するインタビュー
     ——教育心理 学における動機づけと学習方略の視点からの考察——

伊藤崇達


 学校教育において生徒たちがどのような学ぶ意欲を抱き,いかに学ぼうとしているかについて,教育心理学では,動機づけ(motivation)と学習方略(learning strategy)というテーマで検討が進められてきている。本科研費の研究が対象としている国際学校や高等専門学校では,独自の教育制度とカリキュラムのもとで教育実践がなされている。これらの学校の生徒たちの学びのあり方に迫ることは,文化的な差異の視点からも,新規かつ有意義な知見が得られることが期待できる。

学習への動機づけをめぐって
 本稿では,上海の国際学校の日本語教師に行ったインタビューをもとに,教育心理学における動機づけと学習方略の視点から考察を試みることとする。コロナ禍のためオンラインで2021年9月と12月の2回にわたってインタビューは行われた。まず,中国における国際学校の生徒たちの学習意欲について顕著であるのは,競争に基づく外発的動機づけの強さがうかがえることである。これは,教師も保護者も良い意味での競争を意識して,生徒たちを動機づける働きかけがなされているとのことである。日々の教育において,例えば,校内の見えるところに試験の成績の順位が掲示されたり,小テストを効果的に導入して生徒同士が競い合う状況を作り出したりしつつ,意欲を喚起する試みがなされていることである。日本において,公教育では,とりわけ,競争は格差を生みだすものであり,明示的な働きかけは避けられる傾向にあるように思われる。競争がもたらす負の側面も,もちろんありえるだろうが,中国では,お互いを高め合い,向上心に基づく外発的動機づけが機能しているようにうかがえた。
 教育心理学において動機づけについては,自己決定理論が多数の有望な知見をもたらしてきている(cf. Ryan & Deci, 2000)。自己決定理論では,人間の動機づけを図1のようなモデルで説明をしている。外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,内発的動機づけというように,動機づけは複数の種類で構成されており,自己決定性のレベルの大きさに従って,連続帯をなしていることが明らかにされている。
 自己決定性の低い動機づけから説明をすると,外的調整とは,人から強いられて取り組もうとする動機づけであり,褒められたり叱られたりすることでやる気が高まる。取り入れ的調整は,テストで失敗すると恥をかく,できないのは不安だから勉強する,といったように,消極的な理由ではあるが,本人の内部から動機づけが生まれ始めている段階にあたる。自己決定性が少し高まった状況といえる。同一化的調整に至ると,学ぶことの価値づけがなされることになる。学習内容は,自分の将来にとって有用で重要なものだから頑張る,といったように,積極的に学ぶことの価値を認めて学習に取り組もうとする段階である。最後の内発的動機づけは,学ぶことが楽しく,面白いと感じており,これがやる気となっている状態をさすが,学習すること自体が目的となっている目的的な動機づけである。外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整は,学ぶことが何かを得るための手段となっており,いずれも手段的な動機づけとして包括できる。別の言葉で言えば,外発的動機づけと捉えることができる。


 自己決定理論は,欧米や日本の学習者を対象として検証されてきた理論的枠組みであるが,中国の生徒たちの動機づけに関しては,また異なる見方をとることができるのかもしれない。競争は,典型的には外的調整の動機づけに相当するのであるが,自ら進んで競い合うやる気の様相もインタビューからはうかがえた。そこには恥や不安といった取り入れ的調整の要素も心理的に含まれている可能性があり,また,競い合って向上することに価値をおいているとすれば,同一化的調整の動機づけ機能もそこには含まれてくる可能性があるかもしれない。従来の研究知見からは,内発的動機づけや同一化的調整が高まることで,学業成績をはじめとした優れたパフォーマンスが導かれることが実証的に明らかにされてきている。国際比較調査などで,中国の生徒たちが高い学習成果をあげてきていることが想定されるとすると,外発的動機づけが有している心理的機能について,文化的な視点のもとに新たな検討が求められるのかもしれない。

学習方略をめぐって
 インタビューをふまえて,とりわけ中国の国際学校の生徒たちの顕著な特徴として,いかに学ぶか,すなわち,学習方略のあり方についても取り上げておきたい。学び方として,機械的学習に大きく依存している可能性があるということである。暗記学習あるいはrote learningなどと呼ぶが,従来の学習方略に関する研究では,適応的ではない学習として,多くの実証がなされてきた経緯がある。
 教育心理学において学習方略に関する研究は古くから取り組まれ,数多くの概念定義やカテゴリーの提案がなされてきている(伊藤,2009)。ここでは,便宜上,表1のようなカテゴリーで捉えて考察を試みる。教師からの働きかけとして,記憶の定着を促す手立てとして,テストが実施される傾向があるようで,機械的学習方略の使用が促されているとのことである。生徒や保護者にみられる行動の傾向としても,意欲が高いほど,宿題や課題を増やすよう強く求めたりするということである。できるだけたくさんの学習内容を,頭の中に詰め込んでいくことが,熱心で望ましい学習であるとする価値観,すなわち,学習量を重視し暗記を重視する「学習観」が根強くあるという印象を受けた。日本や欧米では,例えば,数学で公式をそのまま暗記するのでなく,その意味までを理解しようとすること,そして,単に解答が合っているかどうかのみならず,解き方までもが十分に理解できてきるかを重視した学習が進められている。クラスメートとの対話を通じて,深い思考を促し,アクティブ・ラーニングを導入した授業実践があらゆる学校段階で展開されてきている。表1のカテゴリーに基づけば,認知的学習方略やメタ認知的学習方略が,日本や欧米の学校教育においては,教育理念として,また,教育実践として重視されているといえる現状があるだろう。

 

 学習方略に関する先行知見(e.g., Zimmerman & Schunk, 2011)によれば,機械的学習方略は,浅い方略と呼ばれ,認知的学習方略やメタ認知的学習方略は,深い方略と呼ばれることがあり,情報処理のレベルで違いがある。単純な機械的な反復は,情報処理のレベルで浅くなり,深い理解や思考には結びつきにくいことが考えられる。しかしながら,学習には一定のリハーサルに基づく習熟が求められる側面もありえ,中国の生徒たちがどのようにして高い学力を形成しているのか,日本や欧米の生徒たちとは異なる学習プロセスが想定されるのか,詳細な検討が求められるのかもしれない。今回のインタビューから,今後の研究における課題や方向性,そして,実践への示唆が得られたのではないかと考えている。



引用文献
伊藤崇達(2009).自己調整学習の成立過程——学習方略と動機づけの役割—— 北大路書房
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55, 68–78.
Zimmerman, B. J., & Schunk, D. H. (Eds.) (2011). Handbook of self-regulation of learning and performance. New York, NY: Routledge.(ジマーマン,B. J.・シャンク,D. H. 塚野州一・伊藤崇達(監訳) 2014 自己調整学習ハンドブック 北大路書房)

付記 インタビューに御協力いただいた先生方をはじめ,本科研費研究の関係の皆様に感謝申し上げます。