国立高専機構モデルコアカリキュラム(MCC)に関する考察―高専教育システムの海外展開に着目した分析視点の導出―

国立高専機構モデルコアカリキュラム(MCC)に関する考察
――高専教育システムの海外展開に着目した分析視点の導出――

田上哲(九州大学)


1.問題の所在
 独立行政法人国立高等専門学校機構は、「高専教育システムの海外展開」の一環として、2017年より「対モンゴル国、タイ王国、ベトナム社会主義共和国「各国に対する日本型高専教育モデルの現地導入支援」」に取り組んでいる。
 その目的は、「当該国における技術者教育の高度化に向け、日本型高専教育モデルの段階的導入・支援を行うこと」である。その目的を果たすための具体的な海外展開の内容は「技術者教育の高度化に向け、カリキュラム設計・教材開発・授業力向上のための教員研修等、当該国のニーズ・レベルに沿った支援活動を実施」することである。
 高等専門学校は実践的・創造的技術者を養成することを目的とした5年一貫教育を施す高等教育機関である。現在、全国に国公私立合わせて57校(内、公立校3校、私立校3校で51校は国立校)あり、実験・実習を重視した専門教育が行われている。
 筆者は、まず日本型の教育システムというものがそもそも確固としたものとして存在するのかいうことに疑問を持つものである。同時にその疑問を抱えながらも、それを海外に導入しようと企図する際に重要なことは、以下のことではないかと考えている。現地の文化や伝統、また政治経済の状況とともに、それらから強い影響を受けていると考えられる現地の教育システムを十分に分析すること、それを踏まえて、未来の社会を作っていく人間を形成するという教育の論理からみて、人間形成を促進する文化や考え方と、それを阻害する因習的なものや弊害となるものを丁寧に見極めることである。このことはその前提として、あるいは同時に必然的に、海外に導入しようとする日本の教育のあり方と日本型の教育システムそのものの分析が求められることになる。つまり、日本型の教育システムを海外に導入しようとするということは、私たち自身の教育システムを問い直すということと即の関係にあるということである。
 本研究ではカリキュラムに焦点を当てて考えてみたい。各国に日本型高専教育モデルを導入するためのカリキュラム設計を行うためには、日本の高等専門学校のカリキュラムをその目的に沿った形で分析し、それを海外導入先の学校(大学)のカリキュラムとしていかに綜合するかということが重要になる。

2.研究の目的と方法
 そこで本研究は、国立高専機構が作成したモデルコアカリキュラム(MCC)(以下、MMC)を対象にして、教育学的な視角から、その構造を考察することを通して、日本型高専教育モデルを海外に展開することを見据えた当該カリキュラムの分析視点を導出することを目的とする。

3.MCCについて
MCCは「国立高専のすべての学生に到達させることを目標とする最低限の能力水準・修得内容である「コア」と、高専教育のより一層の高度化を図るための指針となる「モデル」とを提示したもの」であり、「「コア」では、「数学」「自然科学」「人文社会学」「工学基礎」といった技術者が共通で備えるべき基礎的能力と、「実験・実習」を含む専門分野別能力の到達目標が明示され」、「「モデル」では、「汎用的技能」や「態度・志向性(人間力)」「総合的な学習経験と創造的な思考力」といった技術者が備えるべき分野横断的能力の到達目標が明示され」ている。


4.MCCの考察から導出された分析視点
(1)後期中等教育(普通教育)的内容と高等教育(一般教育/専門教育)的内容の区別・総合
まず、高等専門学校が中学校卒業程度を入学資格とし、(日本では高等学校が位置付けられている)後期中等教育段階を包含する5年制の高等教育機関であることから、「普通教育」、「一般教育」、「専門教育」の観点(具体的には、A:「普通教育(教科教育を含む)」、B:「一般教育(教養教育を含む)」、C:「専門教育(職業教育を含む)」)からMCCのコアとモデルを捉え直してみたい。
 MCCのコアに関して、「Ⅰ数学」ならびに「Ⅲ人文・社会科学」はAとして、「Ⅱ自然科学」の「物理・化学」も同様にAとしてとらえることができるが、「ライフサイエンス・アースサイエンス」については、Aというよりも高等教育におけるBに近いものと捉えることができる。「Ⅳ工学基礎」の「情報リテラシー」「グローバリゼーション・異文化多文化理解」も同様にBとして、それに対して「工学実験技術」と「技術者倫理」はCとして捉えることができる。「Ⅴ分野別の専門工学」「Ⅵ分野別の工学実験・実習能力」はCとして捉えることができる。
 また、モデルに関しては、「Ⅸ総合的な学習経験と創造的思考力」の「エンジニアリングデザイン能力」はCとして捉えることができるが、他全ては「Ⅶ汎用的技能」、「Ⅷ態度・志向性(人間力)」も同様にBとして捉えることができる。
 このように、A、B、Cの観点から見た場合、カリキュラム上A、B、Cが混在した形で配置されている。
(2)知的なものと実践的なものの関連と構造
次に、上述のことと関連して、実践的・創造的技術者の育成を目的にしたMMCにおいて職業で必要とされる技術者の実践的専門性に関わるもの(C)とそれ以外の教科教育的なもの(A)や教養教育的なもの(B)が、計画レベルでのカリキュラム、実施レベルのカリキュラム、達成レベルでのカリキュラム、それぞれでどのような関連にあるのかということが問題になる。これは、知的なものと実践的なものが、それぞれのカリキュラムレベルでどのように関連して構造化されているかという問題である。
(3)MMCを基にした個別的・個性的展開
また、「各国立高専は、このモデルコアカリキュラムを基に、各校の地域性や特色を活かすための科目を追加し、特色ある教育プログラムを提供(波線は筆者による)」し、「アクティブ・ラーニング」や「国際交流」、「インターンシップ」、「地域の課題解決」といった独自の特色や地域性を反映させたカリキュラムを展開している。MMCの目的を損なわず、それぞれの地域に即した個別的・個性的にカリキュラムを展開するには、どのような科目を付加するか、その科目と既存の科目がどのように関連するのかということが鍵になる。

5.今後の課題・研究の方向性
 展開先の国における具体的なカリキュラム設計への示唆を得るために、本研究で導出した分析視点を踏まえて、(1)(2)の分析視点に関しては、高専という日本においても独特の特徴を持つ教育の本質に関わるものであるため、公立私立の高専も視野に入れた調査を行うこと、(3)の分析視点に関して、国立高専機構の高専を対象に、地域性や特色を活かすということはどのようなことか、実際にどのような科目が追加されているのか、その科目と他の科目にはどのような関連性があるのか、各校のカリキュラムリーダーを対象に聞き取り調査を行うこと等が想定される。


引用・参考資料
国立高専機構「モデルコアカリキュラム」
https://www.kosen-k.go.jp/about/profile/main_super_kosen.html
(最終アクセス2021年5月1日)
*本研究はJSPS科研費20H01644の助成を受けたものである。