日本式高専教育の実践について―モンゴル国におけるKOSEN教育実践への協力を通じて-

日本式高専教育の実践について
―モンゴル国におけるKOSEN教育実践への協力を通じて-

都城工業高等専門学校 岩熊美奈子


1.はじめに
 モンゴルにおける日本式高専教育の導入については、2000年代初頭に日本の高専を卒業し、日本を含む大学に進学またはモンゴル国内外で就職をした卒業生のグループである「コウセンクラブ」メンバーおよび高専教員OBより結成された「モンゴルに日本式高専を創る支援の会」のメンバーが中心となり、笹川平和財団とともに「モンゴルへの日本式高専教育導入」事業を開始することに始まる。モンゴルには資源はあるがその資源をうまく生かした産業は未発達であり、モンゴル国内で技術者を育成する機運が高まってきたことにある。モンゴル工業技術大学付属高専(モンゴルコーセン)内にモデルクラスとなる建設系の学科を設立し、苫小牧高専の卒業生や現役教員が中心となり渡蒙研修や授業を繰り返す中で高専教育の要である専門教育を中心に実践的な実験実習、講義と実習が紐づいたモデル授業を現地の教員と行ってきた。2014年9月に「モンゴル科学技術大学付属高専」「新モンゴル学園高専」「モンゴル工業技術大学付属高専」の3校が正式に新入生を迎え入れ、3校がスタートを切った。同年11月に、高専機構から小畑高専機構理事長がモンゴル・ウランバートルを訪問し、ガントゥムル モンゴル教育科学大臣(仙台高専出身)と覚書調印式を行った。その後、2014年に外務省から「中小企業ノン・プロジェクト無償」による2億円もの研究実験機器の無償援助が決定し、学生実験や研究の促進が加速した。同時期に国際協力機構JICAからシニアボランティア派遣が繰り返し行われ、派遣期間が終了した現在(令和4年3月時点)においてもメンバーの熱い思いによってモンゴルの高専に駐在している方もおられる。2016年4月にはモンゴル教育科学省高等教育機関による高等教育法改正が正式に閣議決定しモンゴルにおける高等専門学校(KOSEN)が高等教育機関と認められた。高等教育局内において「技術カレッジ」(高専)の設置許可がなされた。国立高等専門学校機構は2016年11月にウランバートル市内にリエゾンオフィスを開所し、以降モンゴルにある3つの高専を支援している。

2.日本の高専による支援体制
 モンゴルにおける高専モデル展開による協力支援体制図を図1に示す。支援協力校は幹事校である都城高専を含む10校であり、特別支援校として2校を含む12校体制である。特別支援校とは、海外からの視察や企業インターン等の説明の際に協力する学校であり、東京高専は高専機構本部の隣にあることからモンゴルを含む海外の教育省や教育関係者が見学に訪れる高専である。2020年3月には、新モンゴル学園に属する新モンゴル日馬富士高校の校長である日馬富士も東京高専を視察した。モンゴルのリエゾンオフィスと高専本部、支援校の蜜な連携により、モンゴルからの要望を拾い上げ、また、KOSEN教育としてあるべき姿を、支援校を通じて学び取れるような活動を行っている。具体的には、教材・カリキュラム開発を主眼として、実験実習の強化や教材開発、モンゴルで実施できる共同研究の促進、日本への就職をしたい学生へのキャリア支援等を実施している。現在(2022年3月)コロナ禍において日本人スタッフ(教員・本部職員)の渡蒙研修およびモンゴル人スタッフ(教職員)渡日研修は行っていないがコロナ禍の始まる2020年2月まではモンゴルへの渡航が可能であったため、それまで行っていた各種の取り組みについて以降に述べる。

3.専門教育研修
 モンゴルと日本の高専では年次が異なるため、研修時期を分けて考える必要がある。まず、モンゴルでは夏休みが5月末から8月中旬までであるため、長期の研修はこの時期に開催することとした。長期の来日では中堅からリーダー的な教員が来日し研究や実験を実施することで研究業績を考えたり、日本の高専と共同研究を考えたりする良い時間となるようにセッティングした。冬休みは1月1日から2週間と短いため、採用直後の「KOSEN」を知らない教員が日本の高専を見学し、授業や実験に参加することで体験的に高専を知る機会とした。


 日本人教員の渡蒙研修の時期は年2回で、日本の高専が夏休みに入る8月下旬から9月上旬の2週間程度とし、実験実習やスキルの必要な研究を伝えられるようにセッティングした。2回目の派遣は春休みの3月に実施し、実験実習やカリキュラムの見直しをする期間とした。日本人教員の派遣に関しては日本内の高専でも学科によって教育の内容に偏りが出るため、できるだけ共通の教育ができるように学校の壁を払い、専門学科単位で派遣人数を決める(2名~3名/学科)ことで、日本の教員同士で横のつながりができるように配慮した。モンゴル側の参加者は3高専の専門教員が一緒に活動することで、研修後もモンゴル国内で交流が持てるようにした。
 派遣先では日本とモンゴルの現状を把握し、モンゴルに必要な技術的や考えを日本の教員が理解した上でモンゴル教員と日本の教員が話し合える機会を作り、教育の質を高めるきっかけとなったという声が聞こえている。以降、研修後の課題を抜粋したものである。

①卒業研究に対する学生の意識が低い。先生自身が自分の研究分野を確立できていないため、テーマ設定も含めて指導が難しい。設備や器具の問題が大きい。
②日本の高専のシラバス(MCC)に基づく運用が難しい(教員不足、機材不足)。
教員の入れ替わりが激しい分野であり、授業が計画通りに進まず、各授業間の繋がりがない(一般科目も含む)ため、研究指導の際にしわ寄せがくる。モンゴルでは環境工学をやっていないところが多い。モンゴルでは建築に関するライセンスが細分化されているため、総合的に建築を指導できる人材がいない。
③A高専は教員の入れ替わりもあり、組織の体制が弱まっているのではないか? B高専は卒業研究・座学とも一番成功しているようであるが、少数の優秀な教員に頼っており、今後の教員の流出が心配。 C高専は卒業研究が少々物足りないが、新校舎に試験装置が移設できれば期待大。

 この課題を解決するにはモンゴル側の努力が一番ではあるが、特に授業料収入に頼っているモンゴルの高等教育機関(大学・高専・専門学校)は、ともすれば学生を多くとり教室があふれている大学もあると聞くため、教育の質を落とさないような工夫とモンゴルの3高専が日本式の教育を行っているというMCCの準拠と証明が不可欠である。

4.課外活動研修
 2019年8月に都城高専で実施したロボコン研修の様子を示す。さくらサイエンスで来日したことのある学生を対象としてロボコン研修を行った。渡航費および滞在費は自費とし、引率者はなく学生だけで、ウランバートル―インチョン―福岡のフライトを乗り継いで来日した。
午前中は日本語練習(N3レベル)、午後は日本人の学生と一緒にロボット作りを行うことで国際交流事業を展開した。各高専から定員3名として募集し、科技大3名、モンゴルコーセン1名、新モンゴル1名の学生が来日した。2週間の研修のうち、最初は全く日本語ができずに伝えられないもどかしさが見て取れたが、2週間滞在し、片言の英語と日本語で日本人の学生とコミュニケーションをとるうちに自信が出てきて明るく活動を行えるようになった。5名の学生のうち、日本語能力と技術力に自信をつけて、2020年1月に実施された日本の大手航空会社が主催する航空整備のインターンシップに参加した学生もいる。
 また、2019年8月25日にウランバートル市で開催されたThe ABU Asia-Pacific Robot Contest (ABU Robocon)の国内予選(2019年4月開催)にはモンゴル科技大高専のチームが大学生35チームに交じり国内4位となる快挙も成し遂げている。この背景には都城高専の職員と学生TAがリエゾンオフィス開所以降、夏休みと春休みの年2回渡蒙し、地域の小中学生を集めて、モンゴル学生と一緒にワークショップを開き、交流を重ねたうえで3高専に対してロボコンの研修を行っていることにある。ロボコンの研修を通じてモンゴルの学生が「一からのモノづくり、アイデアづくり」を意識していることがあげられる。

 

5.マネジメント研修
 年に1回、3高専の校長を日本に招聘しマネジメント研修を行っている。2018年2月は都城高専にて、2019年12月は高専機構本部および木更津高専を見学、デザコン2019を見学するルートにて行った。2020年はコロナ禍にて中止、2021年はオンラインにて行った。通常は高専機構本部の教育統括参事を講師として、MCCについての在り方やルーブリック、ポートフォリオ教育の講演を行っている。2019年の実施内容を例とすると、来日したのは2高専の校長、1高専の教務主事、モンゴル教育省高等教育局の高専担当員である。まずは教育統括参事から教育に関するレクチャーを受け、モンゴルの校長達は「高専のシステム」については理解をし、知っているが、「教育の高度化および質保証」までは意識が至っていないことに気が付いたとのことであった。
 来日をコンテストに合わせて2019年は建築・建設系コンテストである【デザコン2019】に合わせて見学できるようにした。本コンテストで行われる高専連合会(全国国立市立都立の校長先生の会)の会議に参加し、モンゴルにある3つの高専の現状や日本の高専の現状について情報交換を行った。本コンテストには毎年モンゴルの高専生が参加しており、2019年にはモンゴルコーセンのチームが構造部門で3位入賞を果たした。それ以外にも木更津高専の見学やモデルクラスの卒業生が働く企業訪問を行い、卒業生を受け入れた企業の率直な意見や悩み受け入れてよかったことなどをヒアリングすることで今後のキャリア支援についてモンゴルの校長連のみでなく、高専を支援している日本側の意識も大きく変革することができた。

6.キャリア教育
 日本の就職は世界的にも特異である。モンゴルでは在籍時に内定や就職活動をすることはなく、卒業してしばらく時間が経ってからインターン等を経験して就職するというのがモンゴルでの就職スタイルである。しかしながら、日本式高専で学んだ学生の多くが「日本で就職して、キャリアを積んで技術を身に着けてからモンゴルに寄与したい」と願っている。そのため、日本の就職に向けて、日本式就職活動をキャリアセンターと協同して行っている。日本式の履歴書の書き方、面接の受け方、キャリア講演会などのイベントを通じてキャリアセンターが自立して日本企業へ就職ができるように教育を行っている。1)

7.日本型高専教育の現状と課題
 日本型高専教育の当初は日本の高専のシラバスをそのまま使用することで達成しようとした。しかしながら、モンゴル国内の需要に合わせた授業内容、カリキュラムであることは必要不可欠であり、逐次改定を迫られる。その際にモンゴルの教員自身がその知識と経験を持って改定できるかといえばそこまでの実力のある教員が大勢いるわけではない。しかしながら、現場の教員の中には日本や諸外国で学位をとり研究を行ってきた教員もおり、知識も豊富な教員がいるのも事実である。モンゴルの3高専の良い点は、学校横断的に行っていることにより、互いに切磋琢磨できる環境にあり、さらに日本の高専がその手助けをしてきたことによる。教員の知識の共有化や「学生を育てたらどのような達成感があるか?」という創造力と経験を積むことで、「高専教員としてのステータス」の向上を願っている。また、3つの高専にはそれぞれ特徴があり、国立のモンゴル科学技術大学高専は国内でも優秀なモンゴル科学技術大学の傘下にあり3年次編入も容易であることから人気がある。私立の新モンゴル高専がある新モンゴル学園については学園全体で日本式の教育を実施しており優秀な生徒学生が多く在籍する。モンゴルコーセンについては総合大学であり様々な学科や専門学校を有し、多くの学びができることに定評がある。
 現在、世界的に教育観のパラダイムシフトが起こっており「何を教えたか」よりも「学生が何を学んだか」にシフトしている時代である。その担保をいかに証明するかが、モンゴルの高等教育機関で重要な課題となる。「高専」の良さは「15歳から(頭の柔らかい時期から)の創造教育」にあり、「単に早い年齢から専門教育を始める」ことではないことを念頭に、今後もモンゴルにある3つの高専について支援を続けていく。


1)国立高等専門学校機構に聞く:モンゴル3高専へのキャリア教育支援の取り組み | 『日本の人事部』 (jinjibu.jp)  https://jinjibu.jp/article/detl/attnrept/2718/