ベトナム工業短期大学におけるKOSEN教育導入の取り組み

ベトナム工業短期大学におけるKOSEN教育導入の取り組み

宇部工業高等専門学校 中野陽一 日高良和


1. はじめに
 (独)国立高等学校専門機構(高専機構)は、モンゴル、タイ、ベトナムの重点3か国における高専教育の導入事業を行っている。高専機構は、以前よりモンゴル、タイにおいて高専教育を展開する活動を行ってきたが、2016年にベトナムを加え、文部科学省の事業として「日本型高専教育制度(KOSEN)の海外展開」を開始した1)。高専教育による教育活動を目的として対象国として活動を始め、現在の国際協力事業(ベトナム)に発展している。「日本型高専教育制度(KOSEN)の海外展開」の以前に、高専機構は、(独)国際協力機構と協力して、2013年11月(プロジェクト終了2018年4月)より、重化学工業人材育成支援プロジェクトとして、商工省傘下のホーチミン工業大学(IUH)で開始した2)3)4)。JICAプロジェクトでは実践的技術者の教育に実績のある工業専門学校を参考にし、実践的技術者育成モデルを提案することを目的とした。                      そのJICAプロジェクトが開始された背景として、ベトナム国はタインホア省ギソンに製油所建設を計画し、2017年8月よりギソン製油所(NGHI SON REFINERY AND PETROCHEMICAL LLC)の本格稼働が予定されている。そのため、ホーチミン工業大学タインホア分校(IUH-TH)を主な拠点とした。IUH-THおよびIUH本校では、高専コース(化学工学科、機械工学科)を2014年10月より開設した。特に、プロジェクトではIUH-THの化学工学科をパイロットモデルとして重点的に支援を行ってきた。

 

 2016年度にはIUH-THの活動実績に基づいて、北部からは、フックイエン工業短期大学(現在は商工短期大学に改称)、中部からはフエ工業短期大学、南部からはカオタン技術短期大学において、JICA版ベトナムKOSENモデル3)の展開を開始した。JICAプロジェクトには、高専機構から長期専門家として教員をこれまで秋田高専から2名、宇部高専から1名を派遣された。また、日本国内での長期・短期の研修として、秋田、鶴岡、一関、松江、米子、徳山、宇部の各高専で実施して、日本での研修を通じて高専教育の理解を深めた。
 2018年4月より、高専機構が単独でJICAプロジェクトの活動を引き継ぎ、海外展開事業(2021年4月より海外協力事業に改称)を開始された1)。幹事校を宇部高専、協力支援校として、函館、鶴岡、岐阜、有明が参加し、ベトナム側のパイロット校(図1)として、JICAプロジェクトで活動実績がある商工短大(COIT)、フエ工業短期大学(Hue-IC)、カオタン技術短期大学(CTTC)でベトナム版KOSENモデルプログラム(VKMP)を開始した。また、ベトナム国内においては、ベトナム政府の認可が必要となるため、商工省(MOIT)、労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)と協力して事業を行っている。(2024年3月末の中期計画終了まで)

ベトナムの教育制度における工業短期大学とベトナムKOSENモデルプログラム(VKMP)との関係
 図2にベトナム制度における工業短期大学の位置づけを示す。工業短期大学は上級中等学校(日本の高等学校に相当)の3年間卒業後に入学し、3年間の過程を経て短期大学の学位を取得して卒業する経路と、下級中等学校(日本の中学校に相当)を経て、中等技術職業学校3年間を卒業後、短期大学に入学し、2年間の課程を経て転記大学の学位を取得する経路がある。ベトナムでは、上級中等学校を卒業して短期大学に入学する経路が一般的であり、上級中等学校の全国統一卒業試験の結果によって希望する学校に登録することで入学が決まる。下級中等学校から中等技術職業学校への入学については、中学校卒業資格があれば希望者は入学できる制度になっている。中等技術職業学校を卒業後、短期大学に入学することが出来る。その際、重複する科目分1年間短縮することができる。ベトナムでは、前者を12+3と表現し、後者を9+3+2と表現することもある。12とは初等学校(日本の小学校に相当)5年、下級中等学校4年+上級中等学校3年の合計年数のことを示す。3は短期大学の年数、9は初等学校と下級中等学校の合計年数のことを示す。3は中等技術職業学校、2は短縮された短期大学の年数をしている。モンゴルやタイプレミアムコースと異なり、現行のベトナムの法律では、5年間一貫コースの法的根拠がなく、日本の高専教育をそのまま導入することが出来ない状況にある。また、ベトナムの教育行政が他省庁におよぶため、法改正もかなり時間を要する。ベトナム国内の短期大学(工業短期大学も含む)および中等技術職業学校の許認可権は、MOLISAが所管している。短期大学はそれぞれの省庁が所有しており、学校本体と人事権を所管している。教育訓練省(MOET)はすべての教育行政の権限を持っており、初等中等教育、大学および大学院の高等教育の許認可権を所管している。


 各パイロット校にVKMPをKOSENコースとして導入する際に、Hue-ICとCTTCは上級中等学校を卒業後、工業短大3年間(12+3)で導入を行っている。COITは下級中等学校卒業後、上級中等学校を経て、工業短大を卒業する(9+3+2)で導入を行っている。COITの導入方法は、日本高専の5年間一貫コースをモデルにしている。しかしながら、同じ学校組織ではないので、日本の高専の特徴としている一般科目と専門科目をクサビ形に配置することはできない状況にある。その一方で、2020年5月28日の首相指令24号(24/CT-Tg)のMOLISAに対する7項目の指示の中に「中学校を卒業する学生のためのカレッジレベルの試験的教育を提案する。職業教育体系の中で、効果的な海外からの移転プログラムを引き続き実施する」とあり、KOSENとは明示されていないが、日本の高専システムを念頭においた制度改革を行うように指示されている。そのため、MOLISAは(9+3+2)の各省庁と連携して法整備を進めている。

2. ベトナムKOSENモデルプログラム(VKMP)の概要
 VKMPの概要の概略図を図3に示す。VKMPの構造は、JICA版ベトナムKOSENモデルベトナムモデルをもとにベトナムの技術者教育で、不十分な4点(技術者倫理・技術者マインドの醸成、創造的教育、キャリアデザイン教育・就職支援、連携活動)の導入を実施した1)5)。その一方で、教育システム・カリキュラム(MCC)については、ベトナムの工業短大の基準の範囲内で行い、授業改善を主に行ったので、シラバスやカリキュラムの内容については、従来通り行った。その後、VKMPに移行した段階で、教育システムとカリキュラムについては、高専機構が作成したモデルコアカリキュラム6)の導入をどの程度導入可能出来るか検討し、変更可能なところはベトナムの教育法および職業教育法に抵触しない範囲内で導入した。カリキュラム設計については、パイロット校と協力支援校と協力して行った7)。
 また、2021年に高専機構とMOIT、MOLISAとKOSEN Model Councilを設置し、ベトナムにおける高専モデル教育の更なる充実を通じて、ベトナムの産業振興に寄与する技術人材の育成に資するとともに、日越間の技術者教育交流を推進することを目的として運営することになった。2回のワーキングループのあと、2022年3月2日にKOSEN Model CouncilでVKMPの承認を受けた。到達目標は、図3に概略を示したように、VKMPの到達目標に従ってパイロット校がVKMPの到達目標を達成するように自己点検、教育活動実施計画(Plan)、教育活動(Do)について、評価(Check)、改善(Action)を実施することが示され、定期的にワーキンググループおよび本会議を開催して、到達目標の達成度とPDCAによる教育改善状況を確認するための、仕組みを作り、日越両国の関係者で実施されることになった。2年後の高専機構の中期計画が終了するまでに、VKMPの到達目標を達成目指し、両国政府でその活動および評価内容を記録して、権威づける方向で進めている。

3. VKMPのカリキュラムの設計方法について7)
 COITには、函館、宇部、Hue-ICには、鶴岡、岐阜、CTTCには有明が、それぞれ協力支援校として担当した。COITは産業電子KOSENコース(3+2)、Hue-ICは電気電子コース(12+3)、CTTCはメカトロコース(12+3)を開講するため、MCCとベトナムの教育基準に基づいて以下のようにガイドラインを定めて、パイロット校の担当教員と協力支援校の担当教員が従来のカリキュラムとシラバスを比較しながら設計を行った。
① 単位数や授業時間数などの教育規則は、ベトナムの規則を遵守する。
② VKMPは、高等学校卒業生を受け入れる3年課程(12+3)KOSENモデルプログラムと中学校卒業生を受け入れる5年課程(9+3+2)のKOSENモデルプログラムを設計する。ただし、5年課程(9+3+2)のKOSENモデルプログラムは、高校課程修了証(Certificate of High school education program completion)取得のために、高校卒業試験を受験できる要件となる教養科目7科目Literature、Mathematics、Geography、Physics、Chemistry、History、Biologyを含めたカリキュラムとする。
③ 高校課程修了証 (Certification of High School Education Program Completion)取得のために、高校卒業試験の受験要件である 7 つの教養科目Literature、Mathematics、Geography、Physics、History、Biological を含めたカリキュラムとする。
④ 日本語は、外部の学習機関を利用可能なことから選択科目とする。
⑤技術者スキル(5S:整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、技術者倫理など)を設ける。
⑥ 下記の項目で高専教育としての質保証とする。
●ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシーを設定する。
●専門のカリキュラムは、モデルコアカリキュラム(MCC)において、専攻に合わせたコアの専門領域を決定し、その細目を6 割以上満たすようにする。
●ディプロマポリシーに従い、MCC のモデルの部分である、分野横断的能力および専門応用科目を設ける。
●MCC に適当な専門領域がない場合には、その領域と細目を検討する。
●現段階ではMCC の到達レベルは問わないが、改善を進めるようにする。


 日本式高専に近いモデルのCOITの設計状況について示す。中等職業学校の3 年間の学習時間は、1,400 単位時間で50単位であり、短期大学の 2 年間の学習時間は、2,200 単位時間で79 単位である。いずれの学校も単位時間は、講義が45分、実験実習が60 分、1単位は講義が15 単位時間、実験実習が 30 単位時間である。両校の学習時間の合計は 3,600 単位時間となる。一方、宇部高専電気工学科の5 年間の学習時間は、ベトナムの単位時間で換算すると4,110 単位時間である。高校卒業試験受験要件の7 科目1,440 単位時間を含め、ベトナムの中等職業学校と短期大学の必修科目、高専教育で必要な科目を精査し、1 日最大 6 単位時間分の授業と実験実習の実施を前提として、5 年間の総学習時間を 4,000 単位時間と設定した。高専プログラムの4,000 単位時間の学年時間配分を表1に示す。                                                       COIT の産業電子工学専攻における MCC のコア領域は電子工学であり、その授業項目の電気回路、電磁気、電子回路、電子工学、電力、計測の学習到達目標は8 割以上を満たすことはできている。また、MCC のモデル領域としてコンピテンシーを育成する新規追加科目は以下の内容を含むように改善を進めている。
●専門入門:基礎的な専門知識とスキル、キャリア教育、専門分野への興味喚起、チームワーク能力コミュニケーションスキル
●技術者スキル:技術者倫理、5S(日本の慣習を含む)、SDGs の理解、コンピュータリテラシー報告書作成、発表方法
●エンジニアリングデザイン入門:生産管理、生産計画、調達計画、工程計画、スケジュール管理、品質管理、会計管理
●エンジニアリングデザイン:PBL による社会課題解決、問題解決能力、創造能力、PDCA 実行力、コミュニケーション力、チームワーク、自己管理能力
 Hue-ICおよびCTTCは(12+3)の3年課程のため、専門科目について設計を行っている。CTTCのメカトロコースはMCCにはメカトロニクスという分野が設けられていないので、分野別の専門能力については、機械系分野を基盤に設計している。いずれもMCCの学習内容の項目の90%近くを満たしている。レベルや個別の到達目標が満たしているかは、いずれのパイロット校も2022年4月からパイロット校と協力支援校が、日越双方で協力しながら確認を行ったうえで、改善活動を実施する。

4. 各パイロット校のKOSENコースの開講と現状について
 Hue-ICはパイロット校3個の中で、VKMPに基づいた年課程の電気電子KOSENモデルコース(12+3)を開講した。引き続いて、COITは2020年9月、産業電子学科にKOSEN モデルコースを、CTTCは2020年9月にメカトロ学科KOSENモデルコースを開講した。表2に2022年2月現在の各パイロット校の基本情報を示す。来年6月に、Hue-ICからKOSENモデルコースの学生が卒業するため、キャリア教育と就職支援も実施している。日系企業の工場見学やインターンシップも実施しているが、コロナ禍の影響の中、予定した通りに進んでいない状況である。

 

5. 海外協力事業におけるKOSEN教育の導入における翻訳的適応について
 本プロジェクトはJICAプロジェクトで培ったノウハウを基盤として活動をしているため、ベトナム側と協同で教育コンテンツの開発を行う姿勢で行っている。ベトナム側がKOSEN教育のエッセンスを参考にして、ベトナムの産業人材育成に翻訳的適応過程を通じて内省化することを重視している。その一方で高専側もベトナム側と協同で事業を行うことで、KOSEN教育を見つめなおし、グローバル展開するノウハウが内省化されつつあると感じている。
 2021年度から高専機構の国際展開事業の体制の見直しがあり、重点3か国の活動が国際協力事業に再編され、現在の日本型高専の展開はODA事業である新設タイ高専のみとなったことから、ベトナムの国際協力が高専教育のエッセンスを導入する方針が明確化されることになった。したがって、国際協力(ベトナム)においては、KOSEN Model Councilを通じて、パイロット校の状況を把握し改善にむけて活動を行う。この過程において、従来のカリキュラムとVKMPで設計されたカリキュラムを比較し、学生の教育効果に影響があるか確認することが出来るとかんがえている。また、カリキュラム導入の際におこなわれた、政府レベル、学校レベルでの翻訳的適応過程がどのようにカリキュラム設計やVKMP作成に影響を与えているかを明確化していきたい。


6. 参考文献
1)大村広志,日野宏江,日本型高専教育制度(KOSEN)の国際展開-実践的創造的エンジニアの育成―,pp1-15,留学交流,2020年7月号,Vol.112
2)独立行政法人国際協力機構(JICA):「ODA見える化サイト ホーチミン工業大学重化学工業人材支援プロジェクト」,
https://www.jica.go.jp/oda/project/1200375/index.html, JICAホームページ, 2017.
3)川田紗姫:「企業のニーズを満たす技術者を~高専モデルで日本のモノづくりを広める~」,国際開発ジャーナル,7月号,pp. 32-35(2016).
4)中野陽一, 高内康司, 林田孝之, 日高良和, 重化学工業人材育成事業(JICA‐KOSENプロジェクト)によるベトナム工業人材の育成活動について,アロマティックス, Vol.72 ,pp45-49,(2020),.
5)高内康司 , 中野陽一, 日高良和 ,高専型技術者教育のベトナム国短期大学での取り組み, 日本高専学会年会講演会講演論文集(CD-ROM), Vol.23rd Page.ROMBUNNO.F1-1 (2017)
6)(独)国立高専機構,モデルコアカリキュラムーガイドラインー,2017年4月28日発行
7)日高 良和,仙波 伸也,中野 陽一, 国立高専機構海外展開事業ベトナムにおけるベトナム版高専プログラムの設計, 宇部工業高等専門学校研究報告,66巻,pp1-4,(2020)