高等専門学校の国際展開による国際化インパクト

高等専門学校の国際展開による国際化インパクト

日高良和*、竹熊尚夫**



The impact of internationalization of KOSEN
through the international expansion

Yoshikazu HITAKA, Hisao TAKEKUMA


Abstract : It has been about 10 years since the technical college (KOSEN) in Japan started the overseas expansion business aiming at the export and establishment of Japanese-style technical colleges overseas. Starting with cooperation in establishing KOSEN in Mongolia in 2013, the technical college aiming to develop self-disciplined mid-level professional engineers in developing countries in Asia and the world such as Malaysia, Vietnam, Thailand, etc. is now being recognized by the world as KOSEN. Such export and/or cooperation to overseas is a trend in recent years, but technical colleges have been making a series of efforts leading to such internationalization even before that. In this paper, we will discuss education, research, and organizational management of how such internationalization efforts and momentum have been fostered and the prospects for development have been created within the KOSEN under the jurisdiction of the National Institute of Technology (KOSEN kikou). I would like to consider the current issues and prospects by taking a bird's-eye view of the efforts for internationalization of the technical college as a comprehensive and comprehensive whole in the relationship structure and its impact on the KOSEN itself. Therefore, in this paper, we focus on the acceptance of international students, the international expansion of education ex. employment and utilization of foreign faculty members, and the internationalization of joint research as such efforts for internationalization. I would like to take it up as an initiative trend and expand its perspective on its cultural, social, and educational aspects to see its impact.

 


1.はじめに
  我が国における高等専門学校(高専)が海外へ日本式高専教育制度の輸出と定着を目指した海外関係の事業を開始して約10年になる。2013年のモンゴルでの高専設立への協力をはじめ、タイ、ベトナム等のアジアおよび世界の途上国における自律的なリーダ的専門技術者の育成を目指した高専は、KOSENとして世界から認知されつつある 。こうした海外への輸出・協力自体は近年の動向であるが、高専はそれ以前より、国際化につながる一連の取組を行ってきた。本稿では、国立高専機構の管轄にある国立高専の中で、このような国際化の取組、機運がどのように醸成され、発展への展望を作り上げてきたのかについて、留学生の受入、教育の国際展開(外国人教員の雇用と活用)、共同研究の国際化に注目し、特に、ベトナムへの支援事業を最近の取組動向として取り上げ、その文化的、社会的、教育的側面にも視座をひろげてインパクトを見ていきたい。

2.国内高専を取り巻く我が国の教育制度改革
 高専の成り立ちと特殊性については既に多くの様々な先行研究が挙げられる。教育学者で日本の高等教育政策にも関わってきた天野郁夫は著書『日本的大学像を求めて』の「高専教育を考える」の章1)で、高専の将来への選択肢として、設置母体の多様化や商業などのより職業領域への拡大と個性化の必要性を挙げている。また同時に「見える存在」とするために、年限延長や大学昇格等を議論している。この著書が発行された翌年の1992年には高専に専攻科が設され大学院進学も可能となり、大学3年生への編入と共に、新しいルートとして大学からも既に承認されているところである。この高専の「見える化」については、他にも矢野眞和他編の『高専教育の発見』でもその課題と展望が教育とキャリア形成機能の視点から論じられている2)。この「高専モデル」の再発見は、今後の中等教育あるいは高等教育との高大接続に深くリンクし、教育制度改革への一つのモデル提示になるのではないかと思われる。こうした方向に対し、近年、吉見俊哉は、かつてのカレッジとしての学寮の維持継承と共に、大学入試の受験勉強をバイパスして専門的な勉学に集中できるキャリアパスとして高専を評価し、社会と大学の関係に風穴を開けるものとして期待している3)。
 我が国に学制が始まった1872年から2022年までには150年間があるが、義務教育である三年課程の新制中学が1947年に作られるまでに75年、そして、1947年の新制中学校設置から現在、75年を迎える4)。こうした制度改革のサイクルの中で、現代的な教育のニーズに応えるために、令和3年1月26日に中央教育審議会より答申された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと,共同的な学びの実現~」の中で,高校教育の中で、職業教育を主とする学科を置く高等学校を「専門高校」と呼び,専門高校における地域の将来構想の中で、「専攻科制度の活用や高等専門学校への改編も視野に入れた必ずしも3年間に限らない教育課程の開発・充実や,高等教育機関と連携した一貫した教育課程の開発・実施の検討も考えられる。」5)を提起した。
高専への改革の期待、もしくは職業教育を組み込んだ高等教育機関との連携したカリキュラム開発は今後の方向性として認知されている。現時点でこうした改革を進めていくには、まずは、小中一貫、中高一貫、高大連携、そして、中等教育学校のカリキュラムや教育内容の削減と追加によって再編成していくことが求められる。しかしながら、義務教育機関としての小学校・中学校制度と文部科学省の初等中等教育局(小学校・中学校・高等学校)との不整合、そして高専のみならず、高校と大学の接続に関わる初等中等教育局と高等教育局との整合性に関する課題は未だに解消されていない。21世紀型のコンピテンシーの養成を急務とする現在、学制を一貫した視点で俯瞰し、将来志向の教育内容や方式へと抜本的に改革することが求められている。
 こうした状況において、近年注目を集めているのは、高校と大学を一貫させる制度設計でのカリキュラム構造としての専門教育と一般教育(教養教育)の組み合わせである。その例として、吉見は、私立高専で2018年に改組改称によって生まれた、金沢工業大学・国際高専を挙げており、大学への進学以上のグローバルルートが、これからの高専の発展を握ると述べている。この国際高専は全寮制で、「理工系リベラルアーツ教育」6)を目指し、STEM教育に国際性と専門性をあわせた教育が導入されたもので、様々な教育界からも注目を集めている。この国際高専では、高専5年間の教育プログラムが高専卒業後の大学3年次編入の2年間と修士課程2年間に続く、計9年間の継続的、一環的な学位プログラムを構成しているという特徴を有している。先の教育機関のバイパスとしての機能から見ると、直接接続する大学があるというだけで、長岡技術科学大学や豊橋技術科学大学と間接的に繋がっている国立高専とは大きな違いがあるわけではない。但し、ここに国際性を付け加えたところに、この高専式の教育の特徴が発揮されていると言える。即ち、高専‐大学を接続したことによって、学習年限である高専5年、学部2年、修士2年を連続した9年間として、カリキュラム設計に柔軟性が生まれ、従来の専門性に加えて、国際性をより特徴付けできることが可能となっている。国際高専は、グローバル情報学科も有しており、このような国際性を加えた理系教育、工学教育は今後、私立高専などにおいて増加していくものと思われる7)。
 高専ではこれまでも高い専門性と技術駆使力が注目されてきたが、一方では15歳からの早期選抜の弊害としての専門性への不適合によるドロップアウトが指摘されている。早期入学は多様なルートを生徒、学生に用意する必要があり、5年一貫教育を掲げる上での避けられない責任となっている。早期教育の弊害を回避するには、生徒‐学生への教育方法という側面からは教員免許の併用などによる中等教育段階の子どもの発達やキャリア形成、コーチングなどを含めた指導法を修得した教員の資質形成も幅広く求められる8)。
 また一方で、中等教育と高等教育の接続における様々な問題は、高大接続として、大学では多く議論されてきた。そこで先行事例として大学側の問題点を検討していくことは高専のあり方や制度改革にとっても有益であると考える。大学にとって高大接続における困難な課題は、初年次教育と教養教育そして専門教育の開始時期と方法である。江原武一がまとめているように、高大接続は入試選考方式と教育面の領域に大きく分けられる。その中でも教育面での接続に9)
 ①高大の教育課程の体系的接続問題
 ②初年次・補習教育
 ③大学進学紹介(大学教育理解の促進)
 ④高校での大学予科教育の普及と支援
の課題がある。この4つの課題をそれぞれ組み合わせながら、「優秀な(優秀の基準は変化している)」学生の大学合格という入学資格認定と大学4年間の教育への適応を達成することが目指されている。このように、高大接続は既存の高校と大学の接続のあり方が入学試験に特化したための問題であり、高専10)のような一環教育での問題とはやや異なるが、生徒から学生へと自律的な成長を図る教育研究機関としては共通した課題も多い。そこで、こうした共通の制度的な課題を抱える、教育研究機関においてどの様に国際化を進めていくのか、その国際化の中で、どの様に制度や教育プログラムが改革されていくことが望ましいのか。以下では、米国の大学の国際化方略からその糸口を探ることとする。

3.高等教育機関としての国際化 -米国の国際化方略を参考に-
 教育機関は、外部のステイクホルダー(利害関係者:地域社会、関連企業、主管行政組織、保護者など)と絶えず繋がりCOVID-19に代表される社会状況の変化、産業構造やICTテクノロジーの変化によっても教育の意義や内容が問い直され、機能や役割が修正されていく。この中にあって、国際化には二つのプッシュ要因が関わっている。一つは、外からの外圧としての国際化であり、もう一つは組織の内側からの国際化である。何れの国際化への圧力も研究者や教員側からは現状の活動に更に追加される課題として好意的には受け取られない。これは組織についても同様で、既に組織としての業務余地あるいは作業時間や業務割当としてのニッチ(隙間あるいは余力)が残されていない構造であるため、個人としても組織としても追加的負担であり、誰かの負担が増大することとなるため国際化対応は容易ではない。このため、組織改編や再構築のロードマップの上に、グローバル社会で国際化を伴う教育機関としての改革が、我が国の人口減少に加え国際化、ダイバーシティー化が進む社会情勢においては必然的に求められている。
 他にも大学の国際化指標に関しては、渡辺・太田による海外の大学国際化指標に関する研究紹介があるが、指標は網羅されつつも、一つ一つの指標が独立指標として機能し評価されるため、それらの全体構造や関連構造は十分に明らかにされているとは言えない。即ち、一つひとつの取組(指標)が包括的な、組織的なムーブメントとして見なされておらず、どちらかといえば、アド・ホックに上位機関から要求された国際化助成支援の一つひとつを達成することだけに専念した、「小手先の国際化」改革となっていることが現状であろう。もちろん、国内においても組織をベースとした事例研究の取組から教育機関を包括的に捉えていく中で国際化のダイナミックな変動を示そうとした研究はなされている。例えば、日本学術振興会による『大学の優れた国際展開モデルについて(中間報告書)』11)や花村大輔らの『大学の国際化推進に資する組織と運営のあり方に関する研究-立命館大学における国際化推進組織のデザイン-」12)等がある。こうした個々の事例からは、更なる自主的な改革への展開は組織の成長(再構築)と教職員の意識の変化と成長を伴うことが必要とされるが、取り組み自体はケースバイケースであり、分類し、取捨選択できるほどのケースが集約されてはいない。この国際化の改革に向けた視野や改革の一例を提供できるのが、アメリカの高等教育の国際化に関する、米国教育協会(American Council of Education:以下ACE)による一連の国際化指標研究である。野田文香によればACEのグローバル・エンゲージメントセンターは早期に「包括的国際化(Comprehensive Internationalization)」という考え方を導入し、国際化が戦略的、組織的なプロセスの中に組み込まれることを示している13)。
 この組織全体の関与と成長を組み込んでいく教育機関の国際化のあり方の一つとして、先に挙げたACEは全米の大学の国際化の取組事例を集め、整理する中で、要素間、指標間のダイナミックな構造にも注目している。報告書である“Internationalization in Action”(2013)では主要なトピックとして‘International Partnerships’「国際的パートナーシップ」、‘Internationalizing Curriculum’「カリキュラムの国際化」、‘Faculty and Internationalization’「教員組織と国際化」、‘Online Learning’「オンライン学習」を挙げている。このうち本稿では教員や教員組織の国際化に関わる‘Faculty and Internationalization’を取り上げることとし、その中でも特に、「教員と教員組織14)の国際化への取組」 “Engaging Faculty in Internationalization” Part 1 & 215)の報告書についてその概要を紹介するなかで、組織と国際化に関する知見を得ようとするものである。
 この報告書では米国においても、日本と同様に国際化がどれほど、既存の教育組織の体制や目標と異なり、国際化するために越えなければならないハードルがあったかを理解しその対策例を参考とすることができる。もちろん、先に述べたように、日本国内にも様々な事例があるが、それらを、組織変革に実装可能な改革として俯瞰したものは少ない。以下では、日本の高専および高等教育の国際化に向けた運営、改革の参考にできると思われる「教員と教員組織の国際化への取組」16)について特徴的な取組戦略を紹介していきたい。
 本報告書はパート1とパート2に分かれており、パート1では教員と組織における国際化への4つのチャレンジが紹介され、パート2では教育達成に注目した組織的国際化について5つのチャレンジを紹介している。これら9つのチャレンジは、以下の通りである。
 ・教員と組織における国際化へのチャレンジ
  ①外国人材の登用と活用
  ②人事評価とサポート
  ③予算支援
  ④ネットワークの組織内の浸透と拡大
 ・教育組織的国際化についてのチャレンジ
  ⑤国際担当への教育支援
  ⑥国際業務と科目のリソース化
  ⑦分野間の差異と共有
  ⑧留学生の融合と教育方法
  ⑨組織内での優先順位と承認
 初めに、教員と組織における4つのチャレンジについて見ていこう。第1のチャレンジとして、外国人教員が増大しつつある教員組織において‘critical mass(臨界値、最低限必要な値)’を達成することが提案されている。ここでは、教員の退職・採用の際に、あるいは、短期的な訪問あるいは客員教員、外部資金の活用などによって、国際的な教員のインパクトを増大させることで、教員の専門知的知識や教育研究交流が可能となると述べている。外国人教員の参加で、地域的にも学校や市民へのこれまでとは異なる文化や社会について、新たな分野の教育資源の提供が可能となる社会貢献の糸口が示されるという。
次に、第2のチャレンジにはテニュア獲得手順と昇進方針の転換が挙げられている。教育機関によって、また、学部や学科によってその国際化度合いは柔軟性を持たせるのが前提であるが、例えば共同研究、教育国際連携を評価する方針が出されそれが表彰制度などと併せて支援されれば、国際化への転換は更に進むとされている。日本の学校教員の人事制度のように、県内のそれぞれの地区を移動しながら昇進していく方針なども海外の一部の大学では取られているという。このほか、単著と共著のどちらを重視するかも現在の高等教育機関評価ではホットな議論となっているが、国際共著を促進する方向は世界的な傾向ともなっている。
 第3のチャレンジには、予算の執行が挙げられている。教員が短期のプロジェクトで海外に出張することをサポートする助成金は、教員の視野を拡大し、意欲を高めることになるため、様々な国際活動への資金援助(助成金)や国際戦略との連携を行っていくことが必要である。このため外部資金の申請などについても組織が積極的に後押しすることが必要となる。また、海外の連携機関を開拓するなかで、日本ではJASSOなどのプログラムにもあるが、研究者としての教員ではなく、教育スタッフとしての教員として、学生のための海外の教育プログラムに非常勤として教員が参加することや卒業生のネットワークを活用することも可能になるだろう。
第4のチャレンジとしては、そうしたネットワークを組織内にも拡げ、機関として海外との戦略関係を構築することも重要な課題としている。日本の教育機関の国際交流は、担当者のキャリアと熱意で開拓される傾向が強いため、個人的な交流事業に陥りがちとなる。このため組織としてそこに業務を留め、担当者がメリットを拡げず留めてしまうことが頻繁に見られる。組織による積極的なサポートの代替として、情報や様々なリソースなどの交流のメリットを組織内に拡げることが可能となることを組織として理解する必要がある。そこでは交流協定MOUなどを結び、担当者の交代や引継ぎなども組織的に対応していくことが求められ、これにより組織内の多くの教員が参加協力をする機会が広がり、継続的な国際的活動が可能となる。また、アドミッションオフィスを巻き込み、分野を越えたネットワーク形成の機会とする例も紹介されている。
 次に、本報告書のパート2では、教育機関として重要な動機付けとなる学生の学習成果を上げる取組について、その取組方法が国際化の文脈で紹介されている。ここでは第5のチャレンジとして、海外へ短期出張の教員への教育活動に支障が出ないようにサポートすることが必要であり、その一方で、逆に海外から非常勤講師として授業を担当してもらうなどの対応を整備することで、受け入れ機関の教育負担も減るような柔軟な教育支援体制が構築できるような取組が求められるとしている。現在の日本でも、現在はウィズ・コロナの対応のひとつとして、海外からの非常勤はオンラインでの授業依頼ができるようになっては来ているが、教育活動や研究活動の協働へと繋がるより深い交流は対面に勝るものはないだろう。
続く第6のチャレンジでは国際的な活動によってもたらされる教育へのインパクトを確実なものとすることが挙げられている。組織の支援などによって海外出張や滞在が行われる場合には、教育に活かすインパクトプランや事務的な報告書とは異なる教育組織的な側面からの海外調査報告書の提出が不可欠であると述べている。こうした提案は、これまでもフルブライトのノルマやサバティカルのノルマとしては大学組織から求められるものではあるが、その集積には至っていない場合が多く、そのデータベース化は必要であろう。これをさらに拡大した取り組みとして、ワークショップや学習センターや海外教育センターなどが活用できれば、国際的なカリキュラムや国際的プログラムを構築する際のリソースセンターとなることができるようになると提案している。このようなセンターは教育リソースの開発につながるが、そこには第7のチャレンジとしての学問分野の相違(Disciplinary Differences)があり、これを乗り越えることが必要であると述べられている。こうした目的で分野ごとに窓口を設けることも重要だが、分野別の国際化のための学習を促進し、国際化されたモジュールを作り教員が教育や授業に活用できるようなトレーニングやワークショップを提供することが紹介されている。
そして、第8のチャレンジとして、留学生との融合(Integrating)が必要であると指摘されている。このために留学生へのサポートと同様、教員へのサポートも必要であると述べられている。留学生にわかりやすいシラバス、授業方法、発音、文化社会背景への理解が必要であり、異文化対応能力の高い教員の育成の取り組みが盛んに行われていることが示されている。
最後の第9のチャレンジは、取り組みの優先順位について述べられている。多くのケースではカリキュラムから国際化を進めているが、新任教員のオリエンテーション等も活用しつつ、教員へのアンケートなどの情報収集に基づいて方針を定め、教授会での承認を得ながら長期的展望で持続的に進めていくことが求められるとしている。

4.高専の組織的国際化へ
 日本高専学会誌2021年10月の第26巻第4号には「高専のグローバル化への取組」について特集が組まれ、六つの高専の教育面での国際交流や国際化の取り組みが紹介されている17)。各事例からは、学生の組織運営への参加が求められている大学とは異なり、現場や地域といった、高専らしい地に足のついたまとまりの良さが見える。高専の柔軟性と幅広い視野は、実践的工学教育分野の教育機関としてトップランナーと位置づけることができ、先述した、中等高等教育改革の一つの視座を提供しているように思える。本稿ではそうした高専の取組のひとつとして、宇部高専の取組を例としてあげながら、国際化への展開の特徴を見てみることとする。
 宇部高専の国際交流活動は、2003年の宇部市の仲介による宇部市と姉妹都市関係にある豪州ニューカッスル市のニューカッスル大学との協定締結から始まっている。その後、宇部市が進める「東北アジア機械産業都市連合」活動との連携とグローバルエンジニア育成を視野に入れた2007年から3年間の事業として現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択された「東北アジア地区交流による実践的技術者育成」、そして、学生の主体的な学びを促す機会として長期海外研修を含む学外学修プログラムの拡充を目指す2015年から5年間の大学教育再生加速プログラム(AP)「長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)の採択を基に宇部高専の教育の国際化が整備された。
 さらに、宇部高専の国際化を飛躍させた事業が、高専機構本部の企画事業であるKOUSEN4.0イニシアティブに2017年から2年間で採択された、「『グローバル高専生』育成を目的とした次世代型国際交流の確立」である。この事業はUBE方式と称し、現在も宇部高専の自立事業として取組を継続している。取組の目的としては、『海外協定校及び国際各種団体と連携し、高専生の『グローバルコンピテンシー』、『コミュニケーション力』等の向上を第一の目的とするとともに、「近隣地域と高専全体のグローバル化にも貢献する。」ことである。既存の多目的交流スペースを有効活用したオンキャンパスにおける学生の国際交流活動をはじめ、台湾や韓国などの大学から1週間から6カ月間の期間で受け入れた短期留学生が、市役所や地元企業でインターンショップを実施することや近隣の小学校の授業で英語指導をサポートするなどの地域のグローバル化システムを構築しつつある。また、2021年は、コロナ禍で培ったオンライン講義の手法を活用し、海外協定校とビジネス英語や情報処理系の研究活動のオンラインプログラムを開発し、国際交流活動を継続している。学生の学びについては、国際交流活動のポートフォリオを記録できるようにしており、特に顕著な国際交流活動を行った学生に対して認証を行うグローバルマイスター制度は、5つの能力基準(ルーブリック)によって総合的に評価するという能力評価基準を設定している点は特徴的である。
 このように宇部高専では、学内に留まらず、地域も巻き込んだ多岐にわたる国際交流プログラムの開発とその評価まで含んだ新しい国際交流パッケージの提案を行い、地域に根付いた高専らしいグローバル化を進めている。
 一方、高専機構が行っている海外向け事業として、タイ国が円借款事業として2019年5月と2020年6月に新設した2校のタイ高専への支援を行う海外展開事業、そして、高専教育のエッセンスに基づく産業人材育成としての国際協力事業は、2018年から、モンゴル国に2014年9月に設立された2校のモンゴル高専とタイ国の2校のテクニカルカレッジ内に設けられた高専プレミアムコース、そして、2018年4月からベトナム国では、ベトナム北部のハノイ市にある商工短大(COIT)、ベトナム中部に位置するフエ省のフエ工業短大(HUEIC)、およびベトナム南部のホーチミン市にあるカオタン技術短大(CTTC)の工業短大3校をパイロット校と指定して教育支援が進行している。これらの海外事業は、これまでの学生の国際交流や教員の研究を主とした国際化とは全く異なった、海外の社会、文化との接触による高専制度の国際化として事業が推進されている。
 国際協力事業のうちベトナム国は、国際協力機構(JICA)が2013年から始めた「重化学工業人材育成支援プロジェクト」を高専機構が引き継ぐ形となったことから、JICAプロジェクトを担当していた宇部高専が幹事校となり、ベトナムの工業短大が支援を希望する学科や以前からベトナムとの関連を持っていた高専、各ブロックのバランスなどを考慮して、函館高専、鶴岡高専、岐阜高専、有明高専が協力支援校となった。また、ベトナムの教育体制の改革につながる事業であるため、工業短大の教育制度やカリキュラム等の許認可を行うベトナム労働傷病兵社会問題省(MOLISA:Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs)や工業短大の予算や施設等を直接に管轄するベトナム商工省(MOIT:Ministry of Industry and Trade)などのベトナム政府機関も事業推進の重要なパートナーとして、委員会運営やセミナー開催を行っている。
 短期大学への教育支援は、高専コースを開講することを直近の目標と据えて、高専教育の特徴である、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)や安全教育などの「技術者倫理・技術者マインドの醸成」、卒業研究やエンジニアリングデザイン教育などの「創造的教育」及びインターンシップや就職支援組織などの「キャリアデザイン教育・就職支援」を盛り込んだ、ベトナムの教育機関設置基準とモデルコアカリキュラムの考え方に基づく教育プログラムである、「ベトナム高専モデルプログラム」を年次進行でベトナム関係省庁及び工業短大と高専が共同で開発を行っている。この教育プログラム開発に伴って、HUEICは鶴岡高専と岐阜高専の支援で2019年9月に3年間の電気・電子高専コース、COITは函館高専と宇部高専の支援で2020年9月に5年間の産業電子高専コース、CTTCは有明高専の支援で2020年10月に3年間のメカトロニクス高専コースがそれぞれ開講された。
 高専コースの開講によって、関係の高専の担当教員は多くの時間と労力を割きながら、受け入れ国であるベトナムの工業短大との打合せや教育指導を行っている。この「支援」と「指導」の中で、関係する教員は、高専のモデルコアカリキュラムや高専のエッセンス、教育スタイルについて再確認し、導入する教育プログラムを模索している。高専‐短期大学間で伝達される媒介には、専門科目のカリキュラム、シラバス、ルーブリック、分野横断のアクティブラーニング・ペアワーク、評価のフレームワーク、自学自習の学習態度の養成と学生のフィードバック、インターンシップなどの実現に企業の取り込みなど多くの教育システムの要素があるが、伝達作業を通して自分たちも高専教育を問い直しながら、ベトナム側の教員にも教授法の改革や教育観の変化をもたらそうとしている。
 これに加え、国際通用性を備えた高専本科の教育を認証する制度と体制を整備することも、教育の質を伴う海外展開事業と国際協力事業の推進には必要不可欠であり、その構築を高専機構本部は目指している。そして、この認証制度を含めてKOSENが、各国の行政構造の外部にある、言語やイデオロギー、家父長制や学歴志向に代表される社会文化にとって、どのようなニーズに関わっていくのかも重要な観点であろう。さらに、 高専が教育機関としてだけではなく、研究機関としての存在を示していくためには、「支援」から教員や学生の交流とそれが端緒をなす共同研究等の「協力」とKOSENを活かしたロボットコンテストや就職フェア開催等の「協働」へのシフトを円滑に行わなくてはならないであろう。このためには、高専側の変化が前提となる。現時点でも、支援を受けた海外教育機関の学生と教員の変化が最優先の課題であるが、高専側の教員、職員、学生、そして組織へとその経験とノウハウをつなぎ、高専の変革へのインパクトをもたらすことが必要とされるであろう。

5.おわりに
 本稿では、我が国の高専が制度改革において重要な参照事例となる可能性について述べた後、大学の国際化方略をフレームワークとし、日本型高専教育制度の海外展開と国際化の活動状況について検討してきた。米国の国際化方略フレームワークから、教育面での取組と効果については国際化を進めている高専では十分な成果を積み上げつつある。一方、教育制度の海外輸出や高専設立支援に代表される事業は、組織的浸透が容易ではなく、それが高専に十分反映されるためのシステム完成までは、道のりがやや遠いという状態であろう。開発は、上から下への指令ではなく、協同の歩調をとり、お互いに学び会うところから、自身の変革や新たなアイディアの創出を生み出す。高専の海外向け支援事業が高専の教育研究の発展を導くためにも、組織内の国際化と更に直結されるシステムの構築が望まれる。

※本研究は、科学研究費補助金基盤(B)(一般)「日本式教育の海外往還による多文化革新カリキュラムの構築に関する国際比較研究」課題番号20H01644(令和2年度〜令和4年度)により助成を受けた研究成果の一部である。

参考文献・脚注
1)天野郁夫:『日本的大学像を求めて』,玉川大学出版部,
1991年,pp.209-234.
2)矢野眞和、浜中義隆、浅野敬一編:『高専教育の発見』,
岩波書店,2018年.
3)吉見俊哉:『大学は何処へ 未来への設計』,岩波新書,
2021年,pp.207-224.
4)文部科学省:新制中学の発足,
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1317744.htm,2021年12月17日閲覧.
5)中央教育審議会:『令和の日本型学校教育』の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,共同的な学びの実現~(答申),2021年1月26日,p.53.6)国際高専:特色ある教育,https://www.ict-kanazawa.ac.jp/education/boarding_school/,2021年12月17日閲覧.
7)この他、2023年に徳島県神山町に「神山まるごと高専(仮称)」が設置を目指している状況である。
https://kamiyama-marugoto.com,2021年12月17日閲覧.
8)竹熊真波・竹熊尚夫:日本式高専のモンゴル・マレーシアへの輸出と定着に関する研究,「日本の高専の国際化の展開と実態」科研基盤(C)研究成果報告書(16K04610),2020年,p.24.
9)江原武一:『日本の大学改革の方向』,東信堂,2021年,p.31-37.を基に概要を本稿に沿ってまとめている。
10)高専の教育組織は,教授、准教授、講師、助教、助手を有する学科(Department)に分かれており、高校段階の教育と教養教育を融合した一般教育と大学2年までに相当するが卒業研究も実施する5年間の準学士課程(本科)の専門教育と準学士課程を卒業後の学部4年の卒業段階に相当する2年間の専攻科課程(Course)を提供している。
11)清浦隆,他:大学の優れた国際展開モデルについて(中間報告書),日本学術振興会大学国際化支援本部,2007年4月.
12) 花村大輔、川口潔、大島英穂、河内明子:大学の国際化推進に資する組織と運営のあり方に関する研究-立命館大学における国際化推進組織のデザイン-,大学行政研究,第10号,立命館大学大学行政研究・研修センター,2015年3月,pp.51-65.
13)野田文香:米国における大学国際化評価の動向と課題,大学評価・学位研究,第14号,大学評価・学位授与機構,2013年3月, pp.37-53.
野田は、ACE:2012,Green et al:2006,Olson et al:2005らの研究を基にACE(米国教育協会:American Council on Education)の取組をまとめている。
14)Facultyとは大学ではしばしば、関係する学部、学科の教授団と訳されるが、ここでは、教員組織および個々人の教員として扱うこととする。
15)American Council on Education (ACE): Engaging Faculty in Internationalization, Internationalization in Action,June 2013.
https://www.acenet.edu/Documents/IIA-Engaging-Faculty-in-Internationalization-Part-2.pdf,2021年12月17日閲覧.
16)ibid.
17) 日本高専学会:特集「高専のグローバル化への取組」,日本高専学会誌,第26巻第4号,2021年10月.

(2022年 月  日受理)
* 宇部工業高等専門学校 電気工学科(責任著者)
**九州大学 人間環境学研究院