ベトナム調査報告

ベトナム調査報告
                             竹熊真波・竹熊尚夫

 日本高専機構や日本高専学会、各高専などへの訪問との中から、JICAを初めとした関係者への知己を得て、ベトナムに訪問する機会を得て、ベトナムへの高専の輸出の状況を知るために、2018年10月29日(月)から31日(水)にかけて、現地調査を行った。

1.Ministry of Industry and Trade College of Industry and Trade (COIT)
 まずは、通産省系のカレッジであるMinistry of Industry and Trade College of Industry and Trade (COIT)を訪問した。入手したパンフレットによると、COITは1960年に創設、3つのキャンパスに157名の教職員と約3000人の生徒が在籍している。周辺には、ホンダ、トヨタ、キャノン、パナソニックといった日系企業の他、アメリカ、韓国、EUなどの企業が立地する産業地帯であり、電子、電気オートメーション、機械工学、ホテル・ツーリズム、経済、情報通信、自動車技術の7つの学部がある。
 KOSENモデルは、2016年度より導入を開始した。9年の基礎教育の後に5年コースを設け、第1段階(3年)では高校卒業資格と中等職業学校卒の資格(Vocational secondary diploma)を取得。続く第2段階(2年)ではCollege diplomaの資格を取得できる。同資格には、12+3モデル(3年コース)もある。
 COITでは二つのキャンパスを訪問するとともに、校長・教頭先生をはじめとする7名の先生にインタビューをさせていただいた。
 KOSENのクラスは一クラス30名ほどで、可動式の机が置かれており、前を向いて授業を受けたり、机を動かして班体型になり、グループ学習をしたりすることが出来るということであった。日本ではあたりまえだが、ベトナムでは長机に3人ほどが座る形が一般的でこのスタイルは珍しいとのことである。
 COITは2年前からKOSEN教育を導入、少しずつ改善している状況であるが、導入後、特に5S、安全第一の導入できれいな環境になってきたと感じる。PDCAサイクル、PBL、ロボコン、企業との連携なども進んでいる。
 この学校にKOSEN教育を取り入れることについては校長が決断した。その理由は
①ホンダ、トヨタなど日系企業が多い地区であるため、就職に有利と考えた。
②ドイツの教育も見学し、興味深く思ったが、ベトナムと日本はなんといっても距離が近い
③宇部高専の先生方が親切に、かつ熱心に教えてくれ、教職員も勉強したいと考えた

 ただし、KOSEN教育がすぐにベトナムに受け入れられるとは思わないとのことであった。この学校にも4千人ほどの学生がいるがKOSEN教育を受けているのはその4分の一ほどで、残りはこれまで通りのベトナムの伝統体な教育を受けている。また、ドイツ、韓国、シンガポールなども参入してきており、ドイツは2019年から22のプログラムを展開する(オーストラリアも14)。こうした中、KOSEN教育はベトナムの北部、中部、南部で行われており、チーム学習などを通じて学生が主体的に考えて勉強するようになってはいるが、まずは先生方の意識を変えていかないといけないと話されていた。まだKOSEN教育は試作段階であるが、2019年の11月からは本格的に導入する予定とのことであった。また、日本の様に中卒の学生を受け入れてはいないが、10年かけて導入することを考えている。
 この学校には3つの目的がある。第1は日系企業への就職、第2に技能実習生として日本にいくこと、そして第3に日本への留学。カリキュラムはベトナム政府が定めるルールを逸脱しない範囲で、KOSEN教育と企業の意見も取り入れて作成している。
 訪問時には、実際にロボコンの準備をしているところを見学させていただいた。宇部高専で1年弱研修をした経験がある先生が指導されていたが、学生たちは自分たちでテキパキと活動していた。実験室なども、チリ一つ落ちておら ず、PCもきちんと揃えられていた(ただし韓国からの寄贈品)教室や廊下の壁に安全を警告する張り紙があった。

 

2.JICAベトナムオフィス:職員インタビュー
 COITを見学した際にも廊下のあちらこちらにJICAのポスター等が張られており、ベトナムへの高専教育の導入にJICAの協力が大きく関与していることがうかがわれたが、それらについて、JICAのベトナムオフィスのT氏よりお話を伺った。概要を以下に示す。
 JICAのKOSENプロジェクトは2013年より開始。ホーチミン工業大学のタインホワ分校と出光石油の人材需要のニーズが一致した。しかし、2014年プロジェクト終了前に出光は大量採用をしてしまったため、タインホワ校の卒業生は1人しか雇ってもらえなかった。今バクニンは人手不足なので、KOSEN卒業生の雇用は今後はうまくいくだろうと考えている。現在は、JICAのプロジェクトを高専機構に引き継いでいる状況である。
 KOSEN教育のベトナムへの定着はまだまだだと考える。もともと企業と学校との連携は弱かったことに加え、KOSEN教育の中身に関しては、校長、教頭、学科主任ぐらいまでには理解されているが、現場の先生には伝わっていない。未だに現場にサンダル履きで来る者もいる。ベトナムの学校は机が横並びだが、KOSENはそうした机の配置から変えた。
 2012年に、大学が乱立しすぎたため、日本でいう文科省は規制を厳しくした。すなわち、大学か短大か、専門学校かを明確に区別することにした。
 大卒者はエンジニア、専門学校卒業者はworkerとされるが、今ベトナムではメンテナンスも自分でできる中間管理職的な人材、すなわち高専卒業レベルの人材を欲している。関係者はKOSEN卒の学生もエンジニアにしたいと頑張っている
 一方で、ベトナムは若手の労働者が多いが、その上の世代の人々は少ない。それは人生のロールモデル(自分も10年後にはこんな風になっていたいと思えるような理想像)がいないということでもあり、そこが弱点。また、これまでは職業教育(career education)と企業との連携もなかった
 さらに、ベトナムの特徴として、地方出身者は都会に就職してもすぐに田舎に帰りたがるため、企業も地方出身者を雇いたがらない傾向にあった。その点バクニンはハノイに近いため卒業生の就職も良いのではないかと考える。
 もともと職業教育は、文科省が管理するプロフェッショナルカレッジと厚労省が管轄するボケーショナルカレッジの2系統があった。文科省管轄のカレッジに進学するのは30点満点の試験で13点以上が必要だったが、厚労省管轄のカレッジは無試験で入学できるため、普通高校に入れなかった学生の受け皿となっていた。2年前にこの2つの系統のカレッジが統合されたが、厚労省の流れの影響により偏差値的には高いとはいいがたい状況である。
 また、ベトナムは工業系ではハノイ工業大学がトップだが、2番手となる学校が少ない。ダノン工業団地は近くに工業短大がある。

 以上、訪問予備調査での概要からはベトナムにおいても、「高専」の認知は未知数であり、今後の、大学や技術教育面におけるロボコンなど教育上の成果、質の高い人材の輩出、就職率、日本企業との関係性による評判などによって、ブランド力を向上させていくことが求められている。
 ベトナムの高専導入には、技術教育の基本、例えば、清潔や共同作業、安心、安全と共にものづくり意識を高めていく、道徳性、人材観などの価値観、生活習慣などの改革、改善と共にベトナム社会やベトナム式の教育方式との融合が求められる。これらについては、既に幾つもの高専や高専機構、高等教育機関、JICAなどが協力しており、教育協力事業に関する今後の研究によって明らかにされることが望まれる。