高専留学生と海外高専調査の比較にみる高専の国際展開の課題

高専留学生と海外高専調査の比較にみる高専の国際展開の課題
                                                       
                                  竹熊尚夫


1.日本式高専教育の特徴
 日本における高等専門学校は教育制度において特有の位置を占めると共に、教育と研究の取組方式に独自性を持っている。海外基準でいえば5年間の教育体系は海外の高校のテクニカルスクールと短大レベルのポリテクニクを合わせたもので、これに現在は学位レベルの専攻科を擁している。中等教育の一貫教育は海外に多数あるが、高大連続の高度技術専門教育は独特である。このためこの人材養成プロセスすなわち高等教育式の専門教育課程が独自の発展を遂げており、高専の教員の殆どが博士課程を修め、高等教育レベル知識を持った教員から、中等教育段階における高レベルの専門技術の教育指導体制が運営されている実態は、世界のエリート中等学校でも多くは無いであろう。
 この特徴を補完しているのが、高専の独自の教育風土とも言える教育方式だろう。それは大学入試が無い分、一貫型の学校制度という外側のハードな部分からは見えてこない、留年や退学・転校も少なくない厳しい教育課程と細やかな長期の教育指導体制であったり、親密な研究室文化、ロボコンに代表される「ものづくり」の協働研究文化であろう。
 本調査研究では、高専機構と全国の高専の協力を得て国内の留学生調査を実施し、加えて、モンゴル3高専、マレーシアKTJでの調査を行うことができた。国内留学生調査はこれまで高専で実施されたアンケート²を参考に、海外からの高専教育への評価という視点を調べることで、海外への日本式高専の導入の効果と課題を見つけ出そうとした。また同時に、モンゴル調査とマレーシア調査では、「日本式」がどこまで理解され評価されるのか、モンゴルの文脈に適した変容すべき部分は何かを探ろうとしている。ここでは、特に高専教育を象徴する部分に絞り比較検討を行う。

2.国内高専の留学生とモンゴル、マレーシアの高専学生への教育の評価と効果
 海外調査からは、高専教育の特徴は概ね高く評価されている。だが、あえてその中で様々な教育のやり方の差異に注目することで、日本式高専が受容される課題が見いだせる。そこで特に、高専の教育上の特徴と評価(4段階評価)について、国別と学年別比較を行った。国内留学生調査をマレーシア(以下、馬)、モンゴル(以下、蒙)と全体とで比較する一方、高専が導入されたモンゴル3高専(以下、3高専)とマレーシアKTJ(予備教育機関に相当;以下KTJ)での同様の調査とを対比させながらその特徴を描き出すこととする。

(1)高専教育の特徴への評価からみる理解度(Q6)
 まず高専教育を高く評価している3つの側面について見てみよう。初めに、高専教育の重要な側面として、現在受けている高専での授業内容と水準について尋ねたところ、「とても高く評価する」が全体でも20%と高いが、他国と比べ、馬留学生(24.4%)が高く評価し、蒙留学生は平均より低い(16.5%)であった。一方、KTJ学生(33.8%)、3高専学生(23.8%)もより高く評価していることが分かった。年齢順でいうとKTJ(33.8)→馬留学生(24.2)、3高専(23.8)→蒙留学生(16.5)となるが、個別の学年別に見ると高学年での低下傾向は全調査対象グループで共通していた。大きな減少ではなく、年度毎の入学者や教育体制の相違という他の要因が絡むことではあるが、留意しておくべき結果といえよう。次に高専教育の特徴として留学生から最も高く評価されている実験・実習の内容水準については、馬・蒙留学生は「とても高く評価」(平均38%に対し共に42%)しており、高専教育への理解が見られる。一方、3高専は国内に対してやや低く(35%)、「全く評価しない」も3%いる。学年別では、国内留学生は学年を経ても高評価が維持されているのに対し、制度導入間もない蒙では学年が上がるほど低下傾向(「好評価=やや評価+とても評価」:91%→72%)が見られ、実習実験が十分できないジレンマを感じさせる。KTJでも「とても高く評価」は16.3%と低く、予備教育課程としての位置づけの影響とみることが出来る。
 これと同様の傾向が見られたのが、理論研究と実験の組み合わせである。ここではKTJは予備教育のため21%となっているが、この質問で最も高く評価をしているのは馬留学生(平均25%に対し31%)であった。一方、蒙留学生は「あまり評価していない」が18%であり、全体平均(12%)より若干悪い。同じく、3高専の学生も「あまり評価しない」が蒙留学生に準じて、16%であった。実験への機会が少ないためであろうか。学年別に見ると、国内全留学生では一貫して9割近くの高評価であったのに対し、3高専では2学年生では89%が好評価(やや+とても)だったが、5学年では好評価が72%に低下した。これは先にも述べた導入時期の施設設備の充実度の問題であるのか、入学学生の特性が理由なのか、より詳細な分析と対応が必要である。
 次に比較的低評価される高専の特徴を見てみよう。まず生徒間の関係である。比較的評価が低い(好評価68%)であったチューター制度は馬留学生では「とても評価」が7.5%と他グループの半分で、かつ低評価(34%)の傾向があり、蒙は逆に留学生平均とほぼ同じか若干好評価であった。こうしたチューター制度は評価どちらかと言えば相手との相性にもなるためか、好悪両方の結果が見られる。ただ、教育機関である限り低評価のケースは見過ごせず、チューターの交替や研修等の柔軟な適応対策が必要となる。この他、寮生活についても、留学生全体で、「全く評価しない」「あまり評価しない」が合わせて30%程度と否定的な意見が多い。しかも、高学年ほど否定的(「低評価」3年→4年→5年:28→25→34%)となる傾向が見られた。受入年次留学生の受容度合も考えられるが、日本的な、濃密な人間関係に基づく成長発達に則した指導という特徴に一般よりやや年長の留学生の年齢とが整合しておらず何らかの対応が必要であると考えられる。
 最後に、教授陣の国際性については3高専において特に教授陣の国際性を「好評価」(平均67%に対し80%)する傾向が強い。KTJにおいても86%と高い評価である。一方、日本国内の留学生からは、同程度の高い評価ではあるものの第3学年では77%なのに対し第4、5学年からの評価が若干低下(60%)ぎみである点が気になるところである。

(2)高専で学ぶ価値観への評価と受容度(Q7)
 次に、高専教育の価値観をどの程度評価、受容しているかを見るための質問をした。国内留学生への全体統計から は、責任感を最も評価している。同程度に高く評価されているのは勤勉性と自主性、そして問題解決能力であった。国別に見ると責任感では最も評価が高いのが馬留学生(「とても高く評価」平均43%に対し46%)であり、KTJでも58.8%であったが、蒙留学生や3高専ではやや低い(37-38%)。マレーシアでは高いがモンゴルではそれほどでもないという結果であった。
 他の価値観のうち、勤勉性では留学生はほぼ平均値に近く(好評価87%)で、3高専のみ94%と好評価であった。自主性は蒙留学生が平均(87%)で、馬留学生と3高専が比較的高く「好評価」(91%)である。同様に問題解決能力やチャレンジ精神については全体(好評価82%)と比べると馬留学生がやや高く評価(好評価89%)しており、蒙留学生がやや低い(75%)傾向がある。こうした結果について、特にマレーシアは勤勉性を学ぶというルック・イースト政策理念やKTJでの日本留学時に事前の高専への理解が既にできているためとも思われる。留学準備教育は文化的背景、学習方式を踏まえ、留学当初のギャップを好ましいものと捉えることを促進しているといえよう。KTJでは文化的寛容性や多文化の尊重が最も高かったのはマレーシアらしい特徴と言える。
 これらの価値観を学年段階別に見ると責任感では国内高専留学生平均で「とても評価」が3年生(33%)が、5年生で43%と上昇しているが、3高専では逆に低下(好評価:91%→83%)している。勤勉性では、国内留学生も3高専でも学年が上がるほど、評価が下がる傾向がある。自主性は国内ではほぼ横ばい、3高専では2学年で91%の好評価が5学年で83%と低下傾向が伺える。問題解決能力やチャレンジ精神では学年段階別の差異は殆ど見られなかったが、3高専で「低評価」が微増している(14→19%)。KTJ→馬留学生も同様に低下傾向にある。これらは先述したように個人の経年変化では無いため、一概に教育の効果とは言えず、慣れの影響も考えられるが、留意しておく必要があろう。
 国内留学生調査で相対的に低評価だった項目としては協調性、柔軟性、創造性やオリジナリティ、遊びや自由等があげられた。これらは専門教育としてやむを得ないところでもあるが高専教育の厳密性、言い換えればカリキュラムの改善の余地を示すものとなるであろう。また、協調性は蒙留学生が他(好評価76%)と比べて低い評価(70%)をしているのに対し、3高専が非常に高い(91%)ことは興味深く、3高専のモンゴル仕様の教育が評価されていると見ることが出来る。こうした柔軟性と創造性やオリジナリティについて国内留学生では、学年が高くなるほど評価が下がる傾向を示しているのに対し、皮肉なことに、忍耐力のみ、学年が上がるほど評価が上がっているのは興味深い。高専教育の特徴として、特に創造性とオリジナリティについて教育現場でこれらの価値観が十分伝わっていないことは、カリキュラムや教授法での検討が必要となることを意味している。チャレンジ精神の低傾向や自主学習の精神や自主性を若干全体的に低く評価する学生がおり、課外活動や研究室等で「こつこつとものづくりをする」ことへの意義を感じられていない、言い換えれば研究発展性や飛躍性にあたる部分が、体感されていないことが考えられ、「教えられていないので分からない」という外国人教育特有の葛藤も感じられる。国内高専の異文化への説明力が向上することが期待される。

(3)高専教育の特徴への学生の評価と母国の文化社会での受容(Q9・Q10)
 高い評価だった価値観はどのようにつながり、価値観の網を構成し、高専教育の現場で伝えられているのだろうか。高専の特徴から推測されるのは、Q9で示されている実験・実習重視の授業、研究室、チームやグループでの活動、寮などの集団生活、課外活動自主学習の方針等である。スクール・エシック(ethic)やモットー(motto)は価値観や態度の形成へと一つのセットとなって伝えられることが学習生活を伴って、価値観の理解を進め、受容と定着を進めることとなる。そこで、より直接的に留学生や海外高専の学生に、高専教育の特徴と、それが現地で評価され受け入れられるかを比較する。その中で学校文化や社会的評価との国別相違や受容可能性を検討する。 
 まず、「高専の特徴」とその「母国での受容可能性」を対比させて、最も対照的(両方とも15%以上)なものを抽出した。国内留学生全体では「特徴」であると認知しているが、母国では受け入れられないとするものは、ロボコン等の課外活動、先輩後輩関係、時間厳守と効率性の3点であった。一方、馬留学生は受け入れにくいものが先輩後輩、時間厳守と効率性の2点であったのに対し、蒙留学生では増加し、集団生活/寮生活、課外活動、実験・実習を重視する授 業、先輩後輩、時間厳守、研究室の規則、家族的な学校の雰囲気の7点が受け入れにくいと指摘している。この中で も、実験/実習は80%が特徴としてあげているが32%が受け入れにくいと答えている。更に3高専では課外活動は受け入れられるとする一方で、集団生活/寮生活、実験・実習を重視する授業、先輩後輩、時間厳守、研究室の規則、自主学習の方針、高い専門的技能と知識、身近な教師との関係、家族的な学校の雰囲気の9点が受け入れにくいとしている。KTJでは多くの項目を特徴と認めているが、先輩後輩、時間厳守だけは社会が受け入れにくいと回答している。マレーシアでは他の項目については受け入れられると考えられているのであろう。受け入れやすいものは受入のためのレディネスができあがっていることを示している。これらの結果からはマレーシアでは寮生活をする高校生は多く、実験実習にも慣れがあり個人的、社会的に受け入れやすい傾向があるのに対し、モンゴル特に工学系の分野特有の考え方、産業構造との接続の悪さなど困難な状況が伺われる。ただ一方で、課外活動への理解が向上しているのは3高専の取組が評価されていることを示している。この他、モンゴル共通で家族的学校に違和感があるという点は、現地の教育指導の雰囲気との相違、もしくは家族観や人間関係概念の相違が要因として働いていると考えられる。モンゴル特有の家族観や人間関係を保持しながらそれを高専の家族的風土に移行させる取組が求められよう。
 次に、学年別変化について見ていくことで高専への理解度が推測される。全体的な傾向として、「受け入れにくい」と評価された項目でも学年が上がるにつれて割合が低下している項目が見られる点が興味深い。国内調査では、寮・集団生活(12→6%)、課外活動(21→13%)、研究室規則(19→11%)、自主学習等(14→8%)、 身近な教師(12→6%)、で理解が進んでいることが期待される。一方、学年間で変動がないのはクラス協働(4-3%)、チームグループ(6-5%)、専門的知識(11-12%)、家族的学校(9-10%)等である。この中で、実験・実習(19→16%)への評価は若干低下気味ながらも高い数値を示していることはより理解を進めるための教育が必要であることを示している。そして評価が低下した先輩後輩(36→52%)と時間厳守(22→27%)からは、高学年にもかかわらず、ますます日本的慣習を受け入れられなくなっている留学生像が浮かび上がる。
 3高専での学年別変化について見てみると、寮・集団生活は通学生も多いためここでは扱わないが、「受け入れにくい」との評価が低下した課外活動(13→8%)では経験による理解が促進したことが考えられる。横ばいなのはクラス協働(13%)、チームグループ(14%)、研究室規則(22%)、自主学習(17%)等であった。やや気になるのは、「受け入れられない」だろうとの評価が増加している実験・実習(8→22%)、先輩後輩(29→37%)、時間厳守(27→36%)、専門知識(12→21%)、身近教師(13→19%)、家族的学校(24→27%)等で否定的な傾向が見られたことである。理解が高まるはずの高学年での低評価には課題があると思われる。ただ、3高専の場合は創設されて期間が短いこともあ り、募集応募状況により1学年毎の差が大きく、評価が割れているのが実情で、学年進行での教育効果と考えることについては、質的調査で補足するなど、より詳細な検討が必要であろう。マレーシアの場合ではKTJでは多くが受け入れられない項目が、留学生になると幾分弱まっている傾向がみれた。但し、先輩後輩だけは年齢の問題もあり、逆に受け入れられないとする答が強くなっている。日本的な良き伝統も海外の年齢や異文化によっては、単に学年だけで単純化するのではなく、役割や機能で対応させることが必要であろう。

3.日本式高専の受容に伴う個人的な価値観変容への葛藤(Q8)
 独自性の強い学校の導入には受け入れ側の個人レベルと社会レベルでの受容が必要となる。そしてそこに、従来の価値観、教育慣習との齟齬による葛藤が生じる。葛藤についてはこれまで述べてきたが、ここでは、個人レベルとして学生調査から理念の受容と実態への評価に関する矛盾点を取り上げたい。
 高専留学生と3高専で、高専で修得したいものを尋ねると、専門的知識の獲得はもちろんだが、高専の目指すものでもある、自分自身で考えながら「ものづくり」する力(是非身につけたい:72%)、自分の手を動かし実験などから問題の本質をつかむ力(同:69%)、新たなアイディアや解決策を見つけ出す力(同:68%)、他の人と協働する力(同:59%)などの修得に大変高い期待が寄せられていた。これらの項目については蒙留学生でもほぼ同様の結果であった が、馬留学生は他グループよりも高い期待を寄せていた。KTJでも最も高い日本語能力は予備課程ならではの回答であり、それ以外には専門的知識(同:87.5%)、アイディアや解決策を見つけ出す力(同:86.3%) 、「ものづくり」する力(同:85%)等は高い意欲を見せている。先述したようにマレーシアは高専の持ち味と学生のニーズとが特にマッチしていると考えられる。
 一方、3高専ではものづくり、実験、アイディアの3つは相対的に低く、専門的知識への期待も比較的低い一方で、工学全般に関する広い知識は他より高い。これは先述した実験等の教育が充実できない状況とアカデミック志向の影響により、モンゴル社会では未だ高専で獲得する専門領域や自分の目的意識が教育目的としては十分形成されていないことが要因と考えられる。
 上記の項目のうち、自発的で、協働的なものづくりへの項目は様々な知識能力の修得への高い期待の割には、低く評価されがちで、しかもQ10の「母国の受容」でも受け入れにくい項目であった。これらは集団生活やチームワーク、課外活動、クラス協働、研究室、教師関係から醸成されるものであり、価値観のネットと共に教育取組のネットで日本式高専教育は一つのセットとなっているのが実情であろう。しかし、高専輸出、移植という海外展開においては、現実的にはある程度の機能的解体と代替物との置き換えができないわけではなく、それらは恐らくは当該国の事情によって取捨選択される必要があると考えられる。国内高専であれば年月を経て態度価値観への理解や修得が進むだろうが、それでも、意義が伝わりにくい価値や慣習が存在すると同時に、留学生や3高専の学生達は、それらの能力の獲得を教育組織あるいは集団を通してというより、より個人的なものとして考えているようである。
 日本式の高専教育は組織的、集団的なスタイルをとりがちである。抵抗、葛藤の強い価値観は長期的に或いは部分的に修正した教育方式が提供されることが望ましい。このための工夫は既に多くの高専の国際展開、国際共同研究においてその素地は出来つつあると思われる。それらを集積して一層新しい教育組織を整えていくことが望ましい。
 一方、高いニーズで期待されている知識技能の教育には価値観や社会慣習などにおいてレディネスが整っていることを踏まえながら、教育年数に応じて効率的、段階的に伝えるシステムを構築、提供することで、異なる学習文化でありかつ異なる学習目的を持つ社会や若者に対し理解を得て、評価してもらうことが重要と思われる。

※本稿は竹熊尚夫「日本式高専の輸出における課題と展望―教育的効果に注目して―」『日本高専学会誌』日本高専学会第24巻 第2号 pp.35-38 2019年4月に、マレーシアKTJ調査を加筆し、再編集したものである。


¹科研費補助金基盤(C)「日本式高専のモンゴル・マレーシアへの輸出と定着に関する研究」(代表:竹熊尚夫平成28年度〜30年度)
²「高専卒業生キャリア調査」(平成27年5月 文部科学省大学間連携共同教育推進事業 代表 東京高専校長 古屋一仁)その他、JICA『モンゴル国高等専門学校型教育にかかる情報収集・確認調査ファイナルレポート』及び特定非営利活動法人アジア科学教育経済発展機構(Asia SEED)等多くの訪問機関での調査報告を参考にした。記して感謝したい。