マレーシアINTEC KTJ学生へのアンケート調査分析

マレーシアINTEC KTJ学生へのアンケート調査分析
                                    
                                 竹熊真波

 2019年6月17日にINTEC・KTJを訪問した際にアンケート調査を実施。1年生クラスと2年生クラス、合計80名の学生から回答を得た。
(1)調査対象者の属性について
 本調査の80名の男女比は、48名(62.0%)対30名(38.0%)で、日本の高専で学ぶ留学生の男女比(7対3) や、モンゴルでの3高専の男女比名(8対2)と比較して女性の割合が高いのが特徴的である(図1)[1]。

 回答者の学年(Q7)および年齢構成(Q2)については(表1)、1年が42名、2年が38名で、1年生は17歳が4 名、18歳が38名、2年生は全員19歳だった。                 
 次に、話せる言語については(表2:Q4)、マレー語と英語はほぼ100%、また、INTECの民族構成を反映して、「華語」19名(23.8%)、「タミル語」2名(2.5%)を挙げたものもいた。
 同じく、話せる言語としての「日本語」については、全体で39名(48.8%)であったが、そのうち1年生が11名(1年生の26.1%)、2年生が28名(2年生の73.7%)となっており、学年が進むと話せると答える割合は上昇している。
 その他「アラビア語」が7名(8.8%)となっていた。
出身校については、名称により分類すると、マレー語を教授用語とする国民学校(SMK)出身者が34名、華語・タミル語を教授用語とする国民型学校(SMJK)が4名とある。このほか、イスラムの宗教学校(ISLAM)と答えたものが5名、中等理科学校SMSが19名、全寮制エリート学校であるSBPが6名、MGS(メソジスト女子学校か不明)が1名、その他3名であった。また、これまでの留学経験について(Q8)は80名全員が留学経験は「ない」と答えた。

 

(2)調査対象者の中学時代の状況(Part2)
 まず、「中学時代を振り返って、次のことがらはどのくらい当てはまりますか(Q1)」と6項目の問いを4段階で回答してもらった(図2)。
 その結果、やはり想定通り「4 理数系の科目が得意だった」に対して「とてもあてはまる」と答えたものが43名(53.8%)、「ややあてはまる」が37(46.3%)、合計100%となり、圧倒的に高かった。逆に「5 文科系の科目が得意だった」という項目は「全くあてはらない」(8.8%)、「余りあてはまらない」(43.8%)で過半数を超えた。また、「とてもあてはまる」、「ややあてはまる」の合計が2番目に多かったのが「6 英語の科目が得意だった」で3番目に多かったのが「1 機械、ロボット、電気製品などが好きだった」であり、中学時代より理工系が得意で好きであったことがわかった。

 

 また、中学最終学年の成績を尋ねたところ(Q2)、「平均」と答えたものが5名(6.3%)「平均より上」と回答したものが33名(41.3%)、「非常に高い」としたものが41名(53.3%)となっている。これは、現在日本で学ぶマレーシア人留学生の自己評価よりも高い数値となっている。インタビューの際に教員が話されていた「奨学金の返還義務が生じたことで、入学定員や学生数の減少は見られたが、質の変化は感じない」という印象を裏付ける数値となっ た。

 

 次に、「あなたが高専への進学を決めた理由として、次のことがらはどの程度当てはまりますか」(Q3)としてその他を除き、7項目について「全く当てはまらない」から「とてもあてはまる」まで4段階評価をしてもらった。
 結果を見ると、「専門的知識を身につけられるから」、「日本の文化に興味があったから」、「就職に有利だと思ったから」、「奨学金を得たから」の4項目が「とてもあてはまる」・「ややあてはまる」の合計が9割を超えた。なかでも、「日本の文化に興味があったから」は、「とてもあてはまる」としたものが7割と高い数値を示し、日本に留学しているマレーシア人留学生と比較しても高い割合になっていた。自由記述においても「留学してみたい」「経験を積みたい」という意見の他に「日本に行ってみて住みたいと思った」「日本語を勉強したい」「日本が好きです」「日本の教育制度はいい」といった日本を身近に意識した回答が多く見られた。
 一方、INTECの学生がマレーシア留学生より低い割合になったのは「奨学金を得たから」で、奨学金に返還義務が生じたことから来るものであろうと推察される。

 

 筆者は1989年にも東方政策にて日本に留学した留学生203名に対して質問紙調査を行い、同じような質問(あなたが、特に日本への留学を決心する上で、次の理由はどの程度影響しましたか)を行い、「大変影響した」、「少し影響した」、「影響しない」の3段階評価をしてもらったが、そこでも、「日本の文化や社会への興味」に対して「大変影響した」、「少し影響した」とする割合が90.6%と最も高くなっていた。次いで「日本の学問・研究水準」(88.7%)、「就職に有利」(77.3%)であり、約30年前の調査と今回の調査と同じ傾向であることが確認された[2]。
 次に、「あなたは高専教育システムについてどう思っていましたか(Q4)」と多肢選択方式で尋ねた。渡日前であることから「よくわからない」を選択したものが過半数を超えたが(57.5%)、「実践的、実用的である」(58.8 %)、「高専の教育システムのレベルが高い」(53.8%)の両者を選んだものも過半数を超えていた。

 

(3)日本への留学希望について(Part3)
 まず「日本への留学はあなたの第一志望でしたか」(Q1)という問に関しては、「はい、第一志望です」と答えたものが57名(71.3%)と最も多くなっていた。一方、「いいえ、他の海外の大学に進学したい」と答えたものも17名(21.3%)あった。自由記述には「日本の大学(学士)」と答えたものもあった。
 関連して「留学する国として日本以外の国への留学も考えましたか」(Q2)との問には68名(85.0%)が 「はい」と答えている。彼らが行きたい国は(複数選択)、旧宗主国であるイギリスが最も多く47名、以下アメリカ(27名)、オーストラリア(22名)、ニュージーランド(18名)、韓国(15名)、カナダ(14名)、シンガポール(10名)となっており、その他、中国、ドイツ、エジプト、フランス、インド、タイなどの国名が上がっていた。
 次に、「留学するとき不安なことはありましたか」(Q3)について、その他を含む9項目を多肢選択方式で選んでもらった。INTECの学生全体の回答で最も多かったのが、「言葉がわからない」(67.5%)で、次いで「帰国後の就職について」(62.5%)、「留学先での生活(食事など)について」(52.5%)などが不安としていた。
 これを学年別にみて興味深かったのは、「言葉が分からない」という点について、1年生より(52.4%)2年生の方が(84.2%)非常に高い割合で「不安」と答えていることである。さらに、「留学先での勉強について」 (57.9%)、「留学先の環境(気候など)について」も不安と答えていた。1年生より2年生の方が日本語能力も高くなっているであろうし、日本の知識も深まっているはずであるが、逆に、知識を身につけたからこそ、日本への留学が具体的に迫る中で不安も大きくなっているのかもしれない。実際に日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生は、「言葉」の問題が最も大きいものの、65.2%に落ち着いており、「留学先での生活」や「勉強」、「就職」そして実際に「家族と離れる」ことが不安としている。

 

 これを男女別にも見てみたが、男子学生の方が「言葉が分からない」(72.9%、女子は56.7%)ことを不安に思 い、女子学生の方が「留学先での費用について」(56.7%、男子は41.7%)をより心配しているようであった。   「高専進学前の日本語学習経験(Q4)」については、58名(72.5%)が「全くない」と答えた。経験がある22名    (27.5%)の自由記述を見ると、ほとんどが中学生から勉強を始めたようであった。

 

(4)高専での学習について(Part4:前半)
 高専での学習に関して、まずは「あなたが将来学びたい分野は何ですか(Q1)」との質問(複数回答可)に対し て、「機械工学関係」と答えたものが51名(63.8%)と最も多く、次いで「工業化学・物質工学関係」が31名   (38.8%)、「電気・電子工学関係」が29名(36.3%)、「情報工学関係」28名(35.0%)、「土木工学関係」24名(30.0%)、「建築学関係」17名(21.3%)、「経済・経営学関係」11名(13.8%)となっていた。その他として、宇宙工学(2名)、バイオテクノロジー(2名)、食品科学(1名)などがあがっていた。
 日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生と比較すると、複数選択が可能であったことから、すでに専攻が決まっている留学生に比べて全体的に選択した割合が高くなっているが、どちらも「機械工学」、「工業化学・物質工学」、「電気・電子工学」の人気が高かった。

 

 次に、予備教育機関と自分の国との教科内容とで違いを感じるかどうかについて、数学、理科、日本語についてどの点が難しいと感じるかを尋ねた(Q2-1、Q2-2、Q2-3)
 すると、数学も理科も「日本語の専門用語」が「とても難しい」「難しい」という回答であった。日本の高専で学ぶマレーシア人留学生と比較しても「難しい」とする比率は留学生の方が少なくなっているがほぼ同じような傾向が見られた。ただし、1点のみ、「実験」に関しては、INTECの学生は3割程度しか難しさを感じるとしていなかったのに対し、留学生の方は約6割が難しいとしていた点が大きく異なった。これは、そもそもマレーシア国内に比べ日本の高専は「実験」が多く行われるが、予備教育機関では日本に留学するための試験の合格に重点が置かれ、実際に実験する経験が少ないことによるものであろう。

 

 次いで、日本語の学習自体についての質問をしたが(Q2-3)、「とても難しい」・「難しい」との回答が過半数を超えた項目は多いものから順に「漢字」、「敬語」、「文法」、「発音」、「外来語」となっていた。これを学年別にみると、やはり日本語を学び始めたばかりの1年生は「漢字」のみが難しいと感じているようだが、2年生や高専で学んでいるマレーシア人学生にとっては、「文法」や「敬語」を難しいと感じる割合が高くなるようである。

 

 次に、高専卒業後の希望進路について、「あなたはどの段階まで学びたいですか」(Q3)という問に対しては、「日本の高専卒業後、日本の大学に進学し、学士号をとりたい」とするものが最も多く47名(58.8%)であった。この段階までは奨学金が可能であることも一因としてあるのだろう。次に多かったのは「日本の大学院に進学して博士学位を取りたい」で27名(33.8%)であった。一方「高専卒業で十分」とするものはわずかに1名(1.3%)であった。その他の自由記述に「日本の大学院で修士号をとりたい」とする意見があった。
 また、「日本に留学できた場合、将来どこで働きたいと考えていますか」(Q4)という問に対しては、「日本で数年働いた後に帰国して働きたい」43名(53.8%)とするものが最も多く、次いで「帰国して母国で働きたい」21名(26.3%)となっている一方で、「日本で就職したい」とするものは10名(12.5%)、「日本や自国以外で働きたい」とするものはわずかに1名(1.3%)となっており、多くのものが母国での就労を希望していた。
 「将来どんな仕事をしたいですか」(Q5)については、多様な答えをまとめると、「エンジニア」(23名)、「機械」(14名)、「化学」(8名)、「情報」(6名),「電気」(5名)の他、土木、建築、バイオテクノロジー、パイロットなど理工学系の職業があがった。

(5)高専教育への評価(Part4:後半)
「あなたはINTECで学んで、以下の点をどの程度評価していますか」(Q6)という問に関して、9項目を4段階で評価してもらった。

 

 その結果、「課外活動」を除けば、「評価している」、「とても評価している」の割合は、いずれも過半数を超えていたが、最も評価が高かったのは「教員との人間関係」ついで「友人関係」となっており、また「教授陣の国際性」に関しては「とても評価している」とする割合が顕著に高くなっていた。

 

 日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生と「とても評価している」と評価した割合を比較すると、先に挙げた「友人関係」、「教員との人間関係」、「教授陣の国際性」が実際に留学中のマレーシア人学生より非常に高い割合になっている。その一方で「理論研究と実験の組み合わせ」や「実験・実習の内容・水準」については日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生の方が高い割合を示していた。
 これは、INTECが予備教育機関であることから、課外活動も含め、授業科目や実験・実習を評価するだけの本格的な高専教育を提供できないことから来るものと思われる。
 一方で、日本人教員を含む教員や友人との友好な関係が高く評価されていることは、予備教育をマレーシア国内で行うことのメリットにも通じると言えよう。逆に、日本の高専で学んでいるマレーシア人学生にとって、日本で友人を作ることや教員とより良い人間関係を構築することは難しい状況と言える。特に、設問の都合上設けてはいるが、実際に日本同様には行われていないであろうチューター制度について、INTECの学生の評価が高く、実際にチューター制度を活用しているはずの日本の高専で学ぶ学生の評価がそれほどでもなかったことは、同国出身者同士の連帯性や、日本人チューターの異文化接触や同じ文化圏や自身の経験から来る学習指導経験の違いを示すものであると考えられ、今後の検討課題といえよう。
 次に「INTECで学んでいる態度や価値観についてあなたはどの程度評価していますか」(Q7)について11項目を4段階評価してもらった。この点に関しても、「評価している」、「とても評価している」の合計がどの項目も過半数を超えていたが、全体の評価はもちろん「とても評価している」とする割合が最も高かったのは「文化的寛容性/多文化の尊重」であった点が印象的であった。日本の高専やモンゴルの高専におけるアンケート調査でも高い評価はされていたが、一番高いというわけではなかった。この点はやはり多民族国家であるマレーシアの特徴といえよう。次いで、「責任感」、「自主性」、「勤勉性」、「自主性」、「チャレンジ精神」、「忍耐力」、「問題解決能力」までが「とても評価している」が半数を超える結果となった。一方、やや評価が低かったのは「創造性やオリジナリティ」および「遊びや自由な時間」であった。                                       特に「遊びや自由な時間」の評価が最も低かったのは、やはりINTECが、日本留学の試験に合格するための受験勉強を強いられていることから来るものであろう。現に「遊びや自由な時間」を「全く評価していない」、「あまり評価していない」とする1年生は33.3%であったのに対し、2年生は44.7%となっている。

 

 次に、「あなたはINTECでどのような知識・能力を身につけたいと思っていますか」(Q8)について、10項目に対して「全く必要ない」、「あまり必要ない」、「まあ身につけたい」、「是非身につけたい」の4項目から選択してもらった。
 すると、どの項目も身につけたいとの回答であったため、「是非身につけたい」とした回答が多かったものから順に示す と、「日本語で書いたり話したりする力」、「専攻した分野に関する専門的知識」、「新たなアイデアや解決策を見つけ出す力」、「自分自身で考えながらものづくりをする力」の順となっていた。

 

 これを学年別(INTECの1/2年と日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生)とで比較してみると、ほぼ同じ傾向が見られたが、INTECの1年生の100%が「日本語能力」を必要としていた点が当然ではあるが、特徴的であった。その他、「ものづくりの力」や「専門的知識」を是非身につけたいとしていた。一方、2年生は日本語能力の他、「実験などから問題の本質をつかむ力」にも期待しているようであった。すでに日本の高専で学んでいるマレーシア人学生は、「日本語力」と同様に「専門的知識」を是非身につけたいとしている一方、すでに生活しているからであろう、「日本の社会や経済に関する知識」についてはそれほど強い要望はないようであった。 
 最後に、「どのようなところが”高専教育“の特徴だと思いますか」(Q9)と「どのようなところはあなたの母国では評価されず、受け入れられないと思いますか」(Q10)という問を設け、同じ項目についてその他を含む13項目尋ねた。

 

 まず、全体の評価としては、「時間厳守と効率性」、「集団生活/寮生活」、「身近な教師との関係」、「先輩後輩関係」、「クラスでの協働的な学習」等が挙げられており、Q6での回答同様、受験勉強のために規律を求められるものの、教師と生徒、生徒間に良好な人間関係が存在するのではないかと思われる。ただし、「先輩後輩関係」や「時間厳守と効率性」については「母国では受け入れられない」とする割合も高く、必ずしも肯定的な特徴として考えられていないとも言える。
 また、これを現在日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生の回答と比較してみると、マレーシア人学生は、INTECの学生と同様に、「時間厳守と効率性」や「集団生活/寮生活」もその特徴としているものの、予備教育のINTECとは異なり、「高い専門的技能と専門的知識」ならびに「実験、実習を重視する授業」をさらに高く評価していることが分かった。実際に高専で学んだからこその評価となっているのであろう。ただし、INTECの学生も受け入れられないとされていた「先輩後輩関係」や「時間厳守と効率性」についてはマレーシア人学生も受入に難色を示してい る。
 また、自由記述には、「上記項目は、評価はされているが、日本と同レベルというわけではない」、「これらはエンジニアや博士学位とはあまり関係ない」という意見があった。

 

(6)まとめにかえて
 INTEC・KTJにおける2年に及ぶ予備教育は、モンゴルにおける3高専とは異なり、日本式の高専教育そのものを行っているわけではない。また、マレーシアの政治的・経済的状況の変化により派遣人数や派遣の条件(奨学金への返還義務の有無など)も翻弄されていることも事実である。しかし、それでも35年以上継続した点はその国際的貢献は評価されるものである。また、教師や元留学生の教師、先輩後輩からの教育指導の蓄積は更に他の教育機関や日本式教育の知見として活用されることが望まれる。
 INTEC・KTJで予備教育を受ける学生は、日本語と格闘し、日本に行くための最終試験に合格するためにハードな毎日を送りながらも、30人程度の教室の中で、教員や友人達との友好な関係の中で「日本の文化に興味」を持ち、「専門知識を身につけ」将来の「就職に有利」になる日本留学を目指して勉学に励んでいる。
 吉村によれば、東方政策の課題として「欧米留学に合格できなかった」り、奨学金を得たから」という理由で日本への留学を決めた意欲に欠ける学生がいること、予備教育と実際の留学先で必要となる基礎学力とのギャップが大きいこと等が挙げられている[3]。その意味では、近年奨学金に返還義務が生じたことから入学者数が減ったことは、本当に日本に興味を持ち、意識の高い学生が集まっているといえるかもしれない。
 一方、伊藤は、学部プログラムは、修了生の大学進学後の高い留年率により、2007年から新たな試験制度への移行を余儀なくされたが、高専留学プログラムの修了生は留年率が3%未満と非常に低く、学業実績も高いことを指摘している。伊藤はこの要因として、高専の受け入れが、各高専1クラス約40人と少なく、選択科目の幅が大学と比較して狭いため、日本人チューターがいつでも支援可能な状況になること、クラス担任や教科担当教員との関係も密接になり、生活面、学習面でも複数の支援を受けられること、学科において同国出身、同級の留学生が一人から二人と少人数であり、さらに寮生活をしていることにより、必然的に日本人との日本語での情報交換が行われることなどを挙げている[4]。
 確かに、周囲に日本人しかいない環境に身を投じることが、日本語・日本文化を修得する早道ではある。しかし、誰もがそうした環境にすぐに向き合えるだけの精神的な強さを持ち合わせているわけではない。実際に日本の高専で学んでいるマレーシア人留学生はINTEC・KTJの学生と比べ、「チューター制度」や「寮生活」についてそれほど高い評価はしておらず、「先輩後輩関係」や「時間厳守と効率性」については高専の特徴ではあるが、母国では受け入れられないとする割合が高くなっている。これまで実績の上がった「良い」とされるシステムも運用によっては留学生にとってマイナスの効果を及ぼすことになりかねない。今回のインタビューでは、卒業生の間では厳しくて有名な寮があると耳にした。国際化に伴い、教育手法を改めていくことが国内の生徒の多様化にも通じ、新しい高専教育が創られていくことになるのではないだろうか。また、時には留学生同士で交流できるような息抜きの機会を提供することも必要であろう。
 最後に、高専は近年私費留学生の受け入れに力を入れ始めたが、やはり、国費留学生や政府派遣留学生の比率が圧倒的に高い。今年度から専攻科における外国人留学生特別選抜が始まったが、これもモンゴルの3高専を卒業した学生の受け皿として機能すると思われる。一方で、モンゴルで行われている「1000人のエンジニア育成プロジェクト」も終わりの時を迎えつつある。東方政策にしても、2020年に東方政策の提唱者であったマハティール氏が2度目の首相の座から辞任したことから、今後どのような展開になるか予測が付かない。だが、グローバル時代において、海外の教育機関との短期的な相互交流のみならず長期的な留学生の受け入れは重要な意味を持つ。これから私費留学生の受入を拡大するにあたり、いかにして優秀で意識の高い留学生を受け入れ、留学生の学びと受け入れ側即ち日本側の教育組織の国際意識の醸成とにウインウインの関係を構築できるかが課題となるだろう。


[1]日本の高専で学ぶマレーシア人留学生の男女比は63.4:36.6%                         [2]永岡真波「マレーシア人留学生の日本留学選択動機」『比較教育学研究』第18号 1992年pp.91-102 (203名のうち公費が171名、私費が32名)                                          [3] 吉村真子「東方政策(ルックイースト政策)の30年と今後の展望」『マレーシア研究』第2号(2013年)、pp.4-19,pp.13-14
[4]伊藤光雅「高等教育機関における効果的な留学生支援体制のモデル-国立高等専門学校(高専)での留学生支援体制を例に-」『科学教育研究』vol.34 No.1 (2010)pp.52-54