日本式高専のモンゴルへの定着に関する調査研究-モンゴル3高専生へのアンケート調査分析-

日本式高専のモンゴルへの定着に関する調査研究
-モンゴル3高専生へのアンケート調査分析-
                               竹熊真波

(1)アンケート調査の概要
 モンゴル3高専への調査は、2018年9月30日より10月4日にかけてモンゴル国を訪問した際に実施いただいた。モンゴル高専(IET)と新モンゴル高専は2年生と5年生にお願いしたが、科技大付属高専は人数が不足していたため、入学したばかりの1年生を除くすべての学年にお願いすることとした。アンケートは3校で316部回収できた(有効回答数は314部)。自由記述の部分はモンゴル語(キリル文字)で判読できなかったため、現地でも通訳としてお世話になった宮前奈央美氏にデータ入力と翻訳をお願いした。

(2)調査対象者の属性について
 本調査の314名の男女比は、3高専全体で253名(80.6%)対61名(19.4%)となっており、日本の高専で学ぶ留学生より女性の割合が低い状況であった(28.5%)(図1)。また、表1は、3高専を比較した表であるが、これを見ると新モンゴルが若干女子学生の割合が高くなっている。

 

 次に、学年(Q7)と年齢(Q2)を見ると、学年(表2)は2年と5年に集中しているが、年齢層は(図2)、2年生は16歳に集中しているが、5年生に関しては、11年制から12年制に学制が変更された影響からか、18歳と19歳の二つの山が見られることがわかる。
 次に、話せる言語については(表3)、モンゴル語は当然のことであるが(100%)、英語(86.3%)や日本語(76.4%)も高い割合で「話せる」との回答があった。またその他として隣国である「ロシア語」や「中国語」と記入した者もあった。
 次に、彼らの専攻に関して(表4)、「電気・電子」が最も多く117名、次いで「土木・建築」が96名、「機械」が69名である。これらの学科は、現在モンゴルで最も必要とされる領域である。「情報」は、学科自体が存在しないこともあり、0名であるが、今後は重要な領域となるだろう。                          なお、留学経験(表5)については、「なし」と応えた者が292名、「あり」が21名で中国(7名)、ロシア(5 名)、日本(4名)などがあげられていた(重複あり)。モンゴルにおいて海外留学は現在でも奨学金が無ければ困難である状況であることが分かる。

 

(3)調査対象者の中学時代の状況(Part2)
 まず、「中学時代を振り返って次の事柄はどのくらい当てはまりますか(Q1)」と6項目の問いを4段階で回答してもらった(表6/図3)。

 

 すると、6項目すべてにおいて過半数が「好きだった」、「得意だった」と答えているが、面白いことに、全体として得意とする割合が高かったのが「6 文化系の科目が得意だった」(「ややあてはまる」、「とてもあてはまる」合わせて75.2%)であった。逆にそれほど高くなかったのは「5 英語の科目が得意だった」(同64.6%)および「2 コンピュータ、プログラミングなどが好きだった」(同64.3%)であった。彼らは中卒で高専に進学しているが、中学時代では文系・理系の区別がそれほど十分ではない状況だったのではないかと推察できる。また、コンピュータ関係の割合が比較的低かったのは、高専自体に「情報」学科が存在しない点があげられる。また、モンゴルにおける情報教育の普及状況も背景にあるのかもしれない。
 次に、中学最終学年の成績を尋ねたところ(Q2)、「非常に低い」、「平均以下」とした者はほとんどおらず、「平均」とした者が27.1%、「平均より上」が最も多く51.9%、「非常に高い」が18.5%と回答していた。これを、日本の高専調査におけるモンゴル留学生回答と比較してみると、日本の高専のモンゴル人留学生は「非常に高い」とした者が47.8%と最も高い割合になっていた(図4−1)。やはり、3高専は国内での進学であるが、中学を卒業したばかりであること、日本の高専に留学した者は、実際は高校を卒業した上で国費や政府派遣留学生としていわば選ばれた者であることから、事実としても学力が高く、さらに自分の学力に自信を持っているものと思われる。
 さらに、3高専の性別の認識を見てみると、女子学生の萌芽「非常に高い」とする割合が高く(39.3%)、女子の比率は低いがそれだけ、学力も意識も高い学生が高専に進学していることが推察される(図4−2)

 

(4)モンゴル3高専への進学について
モンゴル3高専への進学に関して、「あなたが日本の高専への進学を決めた理由として、次のことがらはどの程度当てはまりますか」(Q1)としてその他を除き、7項目について「全く当てはまらない」から「とてもあてはまる」まで4段階評価をしてもらった。

 

 その結果、「ややあてはまる」、「とてもあてはまる」と回答した数が最も多かったのは「専門的知識を身につけられるから」で9割以上となっている(94.0%)。次いで、「就職に有利だと思ったから」、「日本の文化に興味があったから」と続く。日本の高専に留学するモンゴル人学生に最も多かった「奨学金を得たから」は流石に半数程度となっている。その他の自由記述としては「自分の希望で」、「自分の夢や目標のため」と自分自身で選択したとする者が多かったが、「時間の節約、早くから専門教科を学んで19、20歳で学士の学位を取って卒業する」あるいは「12年生まで学んで大学へ行くよりも効率的に学んだ方が良いと思った」、「高校と比較すると実験が多い」と高専の早期教育あるいは実践的な教育にメリットを感じる声もあった。さらに「5年間で卒業して日本で就職や留学する(専門分野で)」、「日本留学し、働く機会があるから」、「日本に行き、奨学金を得る」と日本への留学や就職へのチャンスに期待する声もあった。
 次に、高専教育システムについて、「あなたは日本の高専教育システムについてどう思っていましたか(幾つでも選んでください)」と「よくわからない」を含めて7項目から選択してもらった(Q4)。この結果は、3高専全体としては、「実践的・実用的である」とする者が70.7%と最も多いことが分かった。次いで「日本の高専の教育システムのレベルが高い」(51.3%)、「生徒の自主性を尊重する」(51.3%)となっていた。                これを3高専別と学年別(1期生の5年と2年)とで比較したのが下の図6と図7である(ここでは、全体として回答の少なかった「日本の教育システムのレベルが低い」と「受動的である」は省略して示している)。これらをみると、まず3高専の比較では、3高専の傾向はほぼ同じであるが、新モンゴルの学生が「実践的、実用的」、「日本の教育システムのレベルが高い」そして「生徒の自主性を尊重する」の3項目を高く評価していたことがわかった。これは、既に併設の「新モンゴル高校」の存在が影響しているのかもしれない。
 また、科技大付属の学生は、「よくわからない」を選択した割合が最も高かった。一方、1期生である5年と2年との比較を見ると、「実践的、実用的」と「よくわからない」は5年が、「理論研究が多い」、「日本の教育システムのレベルが高い」、「生徒の自主性を尊重する」は2年がより多く選択しており、少なくとも受験生には徐々に高専の特徴が浸透しているのではないかと推測される。

 

(5)日本への留学について
 Part3では、日本への留学希望について尋ねた。まず、「Q1日本への留学はあなたの第一志望ですか」との問いに対しては、「はい、第1志望です」としたものが、314名中248名(79.0%)にのぼった。具体的には、「日本の高専」(6名)、「専攻科」(1名)、「大学」(2名)との記述があった。
 高専進学の理由としても「日本への留学」と書いた者があったように、やはり日本式高専に進学した者は日本に興味があり、将来的には日本で学び、また働きたいという夢を持っているものが多いと言えよう。ただし、上記質問に対して「いいえ、国内の大学に進学したい」と回答した者が13名(4.1%)、「いいえ、他の海外の大学に進学したい」とした者が46名(14.6%)と一定数存在した。
 国内進学希望者は具体的には「科技大3、文化芸術大1、新モンゴル工科大1」と記入しており、3高専は大学付属であったり、併設大学があったりと専門性を生かした国内進学への道も確保されているといえる。
 また、海外進学希望者は、留学先としてアメリカ(25名)、オーストラリア(16名)、カナダ(10名)、ドイツ(8名)、イギリス(6名)、中国(4名)、韓国(2名)などをあげていた。
 その他の具体的記述でも「日本かカナダで専門分野を学び働いて生活する」、「日本で学びたいが、オーストラリアでも学びたい」、「数カ国で学びたい(イギリス、フィリピン、カナダ)」、「日本留学が不可能であれば、韓国留学する」など海外を数カ国移動する国際的な記述も見られた。また「留学と言うよりも働くことを希望している」、「日本で働く」、「卒業後ある程度の期間働くことに興味はある」など卒業後日本あるいはその他の地域で「すぐに働きたい」とする回答も見られた。
 関連して、「Q2留学する国として日本以外の国への留学も考えましたか」との問いには242名(76.4%)が「はい」と答えており、やはり第1位の国としてアメリカをあげた者が144名(45.9%)と最も多かった。次いでオーストラリア(100名)、イギリス(67名)、カナダ(52名)、韓国(47名)、ドイツ(45名)となっていた。

 次に、「Q3留学する際の不安な点」について、その他を含む9項目を多肢選択方式で選んでもらった。その結果、3高専で最も心配な項目は「留学先での費用について」で、179名(57.0%)となっていた。この点は、既に日本に留学しているモンゴル留学生が国費や政府派遣留学生として奨学金を得て留学しているケースとは大きく異なる点であろ う。次いで、「言葉が分からない」138名(43.9%)、「家族と離れる」98名(31.2%)、「留学先での生活(食事な ど)について」90名(28.7)、「友達や恋人と離れる」80名(25.5%)、「帰国後の就職について」76名(24.2%)となっていた。
 これを3高専毎に見てみると、新モンゴルは科技大やIETの学生が不安に思っている「家族と離れる」や「友達や恋人と離れる」に関してはそれほど不安に思っておらず、逆に「留学先での費用について」についての不安が強いという数値があった。これは、新モンゴルの学生がより具体的に日本留学を念頭に置いていることから来るのかもしれない。
また、これを性別に見てみると、「言葉がわからない」に関して男女差が大きく出た。女子学生は男子学生に比べて語学への不安が少ないようである。また、女子学生は「友達や恋人と離れる」ことも男子学生ほど不安を感じておらず、むしろ「留学先での費用」や「留学先での勉強」に関する不安が大きいという結果となった。
女子の比率が低い「KOSEN」を進学先として選んだモンゴルの「リケジョ」は、中学時代の成績に関しても男子学生より上位に位置していると認識を持っていたことも合わせて、それだけ向学心に燃え、また学力も高いということが推察される。

 

 その他の意見としては、上記質問とも重複するが、「どうやって行くか、奨学金をどうやって得るか」、「留学中に就職先を見つける」、「長期にわたって母国を離れること」といった不安のほか「何かしらの犯罪被害者になってしまうことについて」という記述もあった。
 また、高専進学前の日本語学習体験について尋ねたところ(Q4)、経験ありと応えたものは1割程度であった。三高専を比較すると、新モンゴル高専が若干高い傾向があった。記述では、15名ほどが「中学校の時(7~9年生)から」としており、「高専入学前の1ヶ月」と答えたものも3名いた。一方でIETの学生に「日本で生まれた」としたものも1名含まれていた

 

(6)高専での学習について(Part4:前半)
 Part4では、高専での学習に関して尋ねた。まずは「Q1あなたが将来学びたい分野は何ですか(複数回答可)」について、三高専全体として「電気・電子工学」が最も高かったが(35.4%)、現在の高専には存在しない「情報工学」(22.6%)や「経済・経営学」(21.0%)を選んだものもかなりの割合に上った。これは、日本の高専に留学しているモンゴル学生も同様の傾向が見られており、モンゴルの若者達に情報工学や経済・経営学のニーズがあることが分かる。また、自由記述では「鉱山エンジニア」、「生化学エンジニア」、「放射線エンジニア」「飛行機エンジニア」、「ソフトウエアエンジニア」、「建築士」など、より具体的な領域を答えたものが多かったが、中には「教師」、「パイロット」、「ビジネス管理職」、「心理士」、「アニメ画家」、「ビジネス管理職」などの回答も見られた。

 

 次に、自分の国の学びと日本式高専での学びの違いに関して、数学、理科、日本語についてどの点が難しいと感じるかを尋ねた(Q2-1、Q2-2、Q2-3)

 

 まず、「数学」で最も難しいと感じているのは「日本語の専門用語」であった。これは、日本の高専における留学生の回答と同じである。
 自由記述では、「違いはない」、「他の学校で学んでいないのでわからない」といった意見もあったが、「高校課程の授業も受ける」一方で「理論の授業を早く学ぶ」、「専門教科をより多く学ぶ」、「速く、短期間で幅広い内容を学ぶ」ことから、「より授業が詰め込んである、課題が多い」、「理解するのが大変な問題がとても多くある」と高度で盛りだくさんの授業内容に大変さを感じるものもあるが、その一方で、「実用性と論理を兼ね備えている」、「実習が多く理論的理解がしやすい」、「実習、実用、理論の面から高専で学ぶのは利点がある」と肯定的に捉えている意見も多く見られた。また、「教え方。実用性に基づき、学生一人一人に注意を向ける」、「先生たちの態度や対応が良い」と日本式の教授法を肯定する意見もあった。日本式の教授法の一つでもある「主体的な学び」に関しても、「教育の違い、コミュニケーションの授業が多い、より努力が必要となる」、「自立しなければならない環境」や「自分で物事を行う」点が違うと指摘したものもあった。
 特に印象深かったのは、「モンゴルの高校は、多くが3年、大学4年と意味のない時間を過ごす。授業は何に必要なのかわからない。一方、高専は将来と専門分野とを関連付けて学ぶ」、「実用性、実習を重要だと位置付けている、教育システムというよりも学生に知識を身に着けさせるという意味で対応する」、「他の学校と比べればエンジニアになるために方向づけ、目的や夢を持てるようにする」とより実践的で将来を見据えた授業が行われていると学生自身が認識していたことである。
 次に理科・科学で難しいのは何かを尋ねたが、この点もやはり「日本語の専門用語」を「非常に難しい」、「難し い」とするものが最も多かった。一方で、日本の高専で過半数が難しいとしていた「実験」についてはほとんどのものが「それほど難しくない」あるいは「簡単」と答えていた。これは、日本の高専に留学したものは3年時編入のため、いきなり専門性の高い実験を行う必要があることや、逆にモンゴルの高専では、まだ日本ほど実験機材が整っておら ず、それほど難しい実験はまだ実施されていないことなどが考えられる。

 

 次いで、日本語の学習自体についての質問をしたが、最も多かったのは「漢字」であった。モンゴル語は日本語と同じウラルアルタイ語系列であることから「文法」に関してはそれほど難しさを感じていないようであった。

 

 この結果を3高専と日本の高専で学んでいるモンゴル人留学生が「とても難しい」、「難しい」と答えた結果を以下(左)に示しているが、4グループとも「漢字」が難しいとしている点は同じであるが、「敬語」についての認識が全く異なっていることが興味深い。
 すなわち、3高専の中では新モンゴル高専が「敬語が難しい」と答えた割合が最も高く、日本の高専に学んでいるモンゴル人留学生はさらに突出して高くなっているのである。2年と5年とを比較した右側の図を見ても「敬語」や「文法」については、上位学年の方が「難しい」と答える割合が高くなっている。これは、日本語が初級から上級へと段階が上がるにつれて、また授業としてではなく、直接日本人と会話する機会が増えることにより感じる難しさも変化することを示すものと言えよう。

 

 設問では、高専卒業後の希望進路についても尋ねた。まず、「あなたはどの段階まで学びたいですか」(Q3)という問に対しては、「1 高専卒業で十分」としたものは38名(12.1%)、「2 高専卒業後、日本に留学して、大学に進学し、学士号をとりたい」が134名(42.7%)、「3 日本の大学院に進学して博士学位を取りたい」が107名(34.1%)、「4 高専卒業後モンゴルの大学に進学し、学士号を取りたい」が20名(6.4%)、「5 モンゴルの大学院に進学して博士学位を取りたい」が13名(4.1%)であり、8割近くのものが日本への留学、さらには大学院への進学を希望していることが分かった。

 

 希望進路について男女で分けてみてみると、男女ともに日本への留学を希望しているものの割合が多いが、男子は学士号希望者が最も多いのに対し、女子は大学院に進学して博士号を取りたいと希望しており、女子の方が、留学や進学への意欲が高いことが見て取れた。
 また、「日本に留学できた場合、卒業後はどこで働きたいと考えていますか」(Q4)という問いに対しては、「1 日本で就職したい」とするものが54名(17.2%)、「2 母国で働きたい」が41名(13.1%)、「3 日本で数年働いた後に帰国して働きたい」が134名(42.7%)、「4 日本や自国以外で働きたい」が34(10.8%)という結果となった。また47名(15.0%)がその他を選んだが、そのうち33名が「迷っている」と答えた。自由記述ではアメリカで働きたいとするものが5名いたほか、ドイツやフィリピン、韓国ヨーロッパといった国や地域を挙げるものもいた。また、「起業したい」と答えたものもあった。
 「将来どんな仕事がしたいですか」(Q5)については、多様な答えがあったが、大まかに分類すると「各種エンジニア」としたものが136名(機械、建築(建築士含む)、電気電子、土木、生化学、食物技術、原子力、航空)、「IT関係」 33名(ソフトウエア、AIディベロッパー、プログラミング)、「芸術系」8名(アニメ、デザイナー)、「起業」7名、「自分の専門を生かした職」56名、「その他」38名(研究者、パイロット、日系企業)という結果となった。やはり、自身の専門性を生かせる分野への就職を希望する割合が高くなっている。              
(7)高専教育への評価(Part4:後半)
 日本式高専に対する評価に関して、Q6で「あなたはこの高専で学んで、以下の点をどの程度評価していますか」と尋ね、日本の高専と同様、9項目を4段階で評価してもらった。
 ただし、「5 チューター制度」と「7 寮生活」に関しては必ずしも実施されていない場合もあり、モンゴルの高専全体を反映していないため、分析から除外する。以下の図は、「とても評価している」とした割合が高いものから順にソートしたものである。

 

 これを見ると、どのカテゴリーも、「やや評価している」、「とても評価している」の割合が非常に高いが、特に「教員との人間関係」や「友人関係」に関して「とても評価している」割合が高かったのが印象的であった。教員間、友人間ともに良好な人間関係の下で学びやすい環境があることが分かる。また、先のコメントにも示されていたように、「理論研究と実験の組み合わせ」や「実験・実習」という高専の特徴ともいうべき内容についても高く評価されてい た。

 

 これを高専別にみると、科技大付属高専の評価が低いものがいくつか見られた。このうち「課外活動」の評価が非常に低いのは、仮校舎での学習であることから十分な課外活動が行えないことが挙げられる。
 最後の自由記述でも、「課外活動、実験、実用的練習を増やしてほしい」、「体育の授業をして欲しい、体育館が欲しい、スポーツの学校代表チームを作りたい、大会をしたい(校内でバレーボール、バスケットボール)、部活をしたい」といった切実な意見が出された。さらに「教室が欲しい、自由時間に自習をする実験室が必要だ、長机が3つ必 要」、「実験室が近くて機材を多く」といった仮校舎ゆえの不便さを訴える声もあった。また「理論研究と実験の組み合わせ」や「教授陣の国際性」の評価が低くなっているのは、非常勤の先生方は科技大からの出講であり、どうしても伝統的な理論研究重視の教え方になる傾向が強いこと、校長、副校長をはじめ教授陣の退職・交替が相次いでいること等が原因ではないかと推察される。自由意見でも「担任教諭を変えない」、「一部の教員を変える(理由:授業を全く理解していない、小さなことですぐに保護者に連絡するぞと脅す)」、「私的な友人関係に教員が異常に関与しないで欲しい」といった教員への不満が一部の学生から出されていた。
 一方、IETの学生からは「高専が他の高校や大学よりもとても気に入ったところは、校内でとても自由でいられること。家にいるような環境でとても良い。先生たちの態度は、高校の先生とは全然違い、優しく、対応も良い。本当にとても気に入っている。実験の授業が多い。環境や先生の態度がとても気に入っている」、「高専教育は、学生の目的、能力、オープンであること、自信を高める」といった満足度の高いコメントが出されていた。
 また、日本の高専で学ぶ留学生と比較すると、授業内容や実験等の教育面に関しての評価はどちらも高い。「実験・実習の内容・水準」や「理論研究と実験の組み合わせ」などはむしろ日本の高専で学ぶ留学生の方が高く評価してい る。その一方で、「友人関係」、「教員との人間関係」、「教授陣の国際性」に関しては日本の高専で学ぶモンゴル人留学生の評価が低くなっている。これは、留学生であること、とりわけ日本語等の予備教育を受けての3年次編入であることなどが要因となり、同国人同士のようには日本人の学友や教員と親密な人間関係が結べないのであろうと思われる。「課外活動」についての評価も異なっており、やはり一年生から入学と3年時編入とでは、課外活動への参加率そのものが異なるのではないかと考える。

 

 次に「高専で学んでいる態度や価値観についてあなたはどの程度評価していますか」(Q7) について11項目を4段階評価してもらった。この点に関しても、「やや評価している」、「とても評価している」の合計がどの項目も7割以上であったが、9割を超えていたのは「勤勉性」、「自主性」、「協調性」の3項目であった。

 

 さらに、「あなたは高専での留学を通してどのような知識・能力を身につけたいと思っていますか」(Q8)について、10項目に対して「全く必要ない」、「あまり必要ない」、「まあ身につけたい」、「是非身につけたい」の4項目から選択してもらった。
 その結果、どの項目も必要ないとの回答は少なかったので、「是非身につけたい」と回答したものを多いものから順番に示すと、「工学全般に関する幅広い知識」、「新たなアイデアや解決策を見つけ出す力」、「自分自身で考えながら「ものづくり」をする力」、「専攻した分野に関する専門的知識」、「日本語で書いたり話したりする力」、「自分の手を動かす実験などから問題の本質をつかむ力」を「是非身につけたい」と答えていた。

 

 また、これらの項目を高専別、学校段階別(モンゴル3高専の2年・5年及び日本の高専に在学中のモンゴル人留学生)で「是非身につけたい」と答えた割合の高かったもの上位3項目を抽出してみた。もちろんどの項目も高い割合で「身につけたい」、「是非身につけたい」と答えていることから、回答自体が流動的ではあろうが、3高専全体で最も割合の高かった「工学全般に関する幅広い知識」は各高専でも上位である一方で、IETでは「日本語で書いたり話したりする力」が1位だったことは興味深い。実は自由意見の中にもIETの学生から「日本語をもっと多くして欲しい。他の高専よりも遅れていて、いくつかのシラバスは我々のものよりも上を行っていて、オープンである」と日本語教育の充実を訴える記載があった。IETにおける日本語教育に関しては改善の余地があるのかもしれない。
 次に、学校段階別では、入学して1年の2年生は「工学全般に関する幅広い知識」と「日本語で書いたり話したりする力」を同率一位で挙げていた。そして、最終学年の5年生が第一位に挙げたのが「プレゼンテーション能力」であることも興味深い。これから卒業研究やその発表に向けて準備を進めなければならない時期だからこそ必要と考える能力なのであろう。さらに、日本の高専で学ぶモンゴル人留学生は、3年時編入でより専門的な授業を受講する必要があるからであろう、「専攻した分野に関する専門的知識」を一番に挙げていた。

 

 最後に、「どのようなところが”高専教育“の特徴だと思いますか」(Q9)と「どのようなところはあなたの母国では評価されず、受け入れられないと思いますか」(Q10)という問を設け、同じ項目についてその他を含む13項目尋ねた。

 

 まず、全体の評価としては「10 高い専門的技能と専門的知識」と「5 実験、実習を重視する授業」が高専の特徴であり、母国でも比較的受け入れられると考えていることが分かった。「2 ロボコンなどの課外活動」や「11 身近な教師との関係」についても評価が高かった。一方、「7 時間厳守と効率性」については、高専教育の特徴とはしているものの、あまり受け入れられるとはいえない様である。「6 先輩後輩関係」や「1 集団生活/寮生活」も高い評価は得られなかった。

 

 次に高専別に見てみることにする。まず、「Q9 どのようなところが”高専教育“の特徴だと思いますか」という問に関しては、順位こそ多少の変動はあるが、3高専ともに「10 高い専門的技能と専門的知識」と「5 実験、実習を重視する授業」と答えたものが多かった。一方「時間厳守と効率性」について、科技大付属高専はやや評価が低く、逆に「ロボコンなどの課外活動」が同率一位の評価であった。Q6において科技大付属高専は「課外活動」に対する評価が低かったが、その点と矛盾するように感じる。しかし、「高専教育の特徴」であるのに十分に行われていない点に不満を持っていることによるものとも考えられよう。また、新モンゴル高専は「先輩後輩関係」、「時間厳守と効率性 」、「自主的学習の方針」が3高専中最も高い評価を行っており、この点は新モンゴル高校の経験が高専にも活かされているからではないかと思われる。
 次に、「Q10 どのようなところはあなたの母国では評価されず、受け入れられないと思いますか」という設問については、3高専ともに「6 先輩後輩関係」と「7 時間厳守と効率性」が受け入れられない項目として取り上げられていた。その他、科技大付属高専は「1 集団生活/寮生活」、「12 家族的な学校の雰囲気」について受け入れられないとする比率が他の2校より高くなっていた。同様にそれほど高い比率ではないものの「4 チームやグループでの活動」、「8 研究室の規則」、「11 身近な教師との関係」という項目も他の高専より高い値を示していた。自由記述に「校長のいない状態」と記入したものもおり、学校内での混乱が学生に不満を感じさせる要因となっているようだ。もちろん、この点については支援に当たる日本の高専機構も把握しており、科技大高専は国立であるが故に存在そのものが政権に左右されること、モンゴルの大学に卒業研究がないことから非常勤で教えに来られる科技大の教員自身が、実験、実習、研究の経験がないケースが多いこと等を指摘している[1]。

 

(8)まとめにかえて
 最後に、学生達の自由意見を拾い上げながら、モンゴルにおける高専教育の特徴や課題について考察する。
 まず、モンゴル3高専の最大の特徴は、日本の高専で学んだモンゴル人自身の熱意から始まったということであろ う。高専リエゾンオフィスでもまた3つの高専を訪問しても、3高専設立や法改正に向けてのご苦労や、これからの高専教育の発展に対しての熱い思いを一様に語って下さった。
 また、モンゴルの高専教育は、ただ単にシステムだけを導入しようというものではなく、日本の高専と同様に人間性の涵養にも力を入れている。それは、教育科技大高専の育成する技術者像「エンジニアたる前に良き社会人たれ」に象徴される。IETや新モンゴル高専でも「挨拶」等の生徒指導を非常に重視されていた。
 この思いを学生達も十分に認識しており、アンケートでも日本式高専教育において「教員との人間関係」や「友人関係」が「理論研究と実験の組み合わせ」や「実験・実習」以上に評価していた。また、価値観・態度については「勤勉性」、「自主性」、「協調性」を高く評価していた。さらに、こうした人間関係に支えられているからであろう、勉学に関しても課題の多さや日本語の専門用語の難しさに大変な思いをしながらも理論と実践とを学べること、実習を通じて体験的に学べること、将来の職業を見据えた授業であることなどに満足しているようであった。
 一方、「Q10 どのようなところはあなたの母国では評価されず、受け入れられないと思いますか」という問に対しての自由記述では、受け入れられると記述したものが多かったものの、「認証評価を受けていない」、「高専のことを、企業等はよく知らないため、そんなに相手にされないことが多い」、「学位が学士でないことが受け入れられない」、「モンゴル人、教育科学省が理解していない、知らない」と高専自体の認知度の低さを問題視する指摘もいくつか見られた。これは、先生方へのインタビューの際にも指摘されていたことである。我が国でも学生数が当該年度の生徒の1%に満たない状況であることから、制度ができて50年以上たった今でも、一般的には認知度が低く、「高等専門学校」といえば「ロボコン」程度の認識であり、それが高等教育のカテゴリーにあることや5年(商船は5年半)の教育を受けるといったことさえ十分に知られているとは言えず、「専門学校」と混同する人も多い。高専ができたばかりのモンゴルではなおさらであろう。
 高専はこれまで理論と実践力の両者を有する即戦力としての人材を輩出することをその最大の特徴としてきた。しかし、日本でも大卒の資格が重視され、短期大学が減少、高専においても専攻科や大学への3年時編入へと進路がシフトしている状況である。伝統的に大卒の資格が重視されるモンゴルにおいては、たとえ法的に高等教育に位置づけられても「準学士」しか出せない点をどう評価されるかも課題である。また、日本の高専は、卒業生に対する企業のニーズは非常に高く、今のところ受け皿には困らない状況にある。一方、モンゴルでは受け皿そのものが発展途上であることは否めない。幸い、3高専ともに大学進学への道が開かれてはいるが、即戦力としての機能を発揮できるのかは2019年に卒業した1期生の動向にかかっているであろう。
 また、アンケートでは、高専別、男女別の違いも明らかになった。高専別では、科技大は国立大学というネームバリューがあるものの、政治的動向に左右され、教員の退職や仮校舎での生活などの不便さがあるようであった。新モンゴル高校は、新モンゴル学園の傘下で新モンゴル高校の成功の上に高専ができており、日本人のOBに大きく依存してはいないものの、「日本式」の教育が徹底されており、学生の満足度も高いようであった。日本への研修旅行を実施しているからであろう、日本語の難しさも「敬語」と答えるなど一歩進んでいる印象を受けた。IETはいち早くモデル校として高専教育を開始しており、一つの校舎の中に教室がまとまっていること、実験機材も古いけれどもきちんと整っていること、新モンゴル同様挨拶を徹底するなど日本式の教育も行き届いていた。学生からの評価も良く、特に「教師との関係」や「家庭的な雰囲気」に関して3高専中最も高い評価を行っていた。ただし、「もっと日本語を学びたい」との要求があるようであった。
 男女別では、全体の2割弱の女子学生の勉学への意識の高さが印象に残った。成績も優秀で、日本の大学院で博士学位を取得することを希望している割合が男子学生以上であったのは興味深い。高専リエゾンオフィスで活躍されるバイガルマー先生のように、モンゴルの将来を担っていく人材に育ってほしいと願う。
 最後に、自由記述の中に、「何人かの先生の態度。極端に日本信仰するような状況」という記述があった。モンゴルの3高専には高専OBの先生方が在駐されているほか、JICAシニアボランティアの方々が巡回講義をされている。現地の先生方も日本の高専や大学への留学経験を有する方が多くいらっしゃる。さらには、リエゾンオフィスや高専機構が仲介役となり、日本の高専からとの教員間、学生間の交流も盛んに行われている。こうした支援体制の中で、一部の教員の態度が問題視されるのは残念である。日本式高専を伝える側として、それが単なる信念の「押しつけ」にならないよう社会文化の違いを踏まえつつ、日本式教育を変容させながら、制度や教育の評価を得ていく必要があると考える。


[1]「モンゴル3高専協力支援校専門強化研修実務者会議」(2018年3月10日)資料より