日本式高専の定着に関する調査研究-高専留学生へのアンケート調査分析-

日本式高専の定着に関する調査研究
-高専留学生へのアンケート調査分析-
                                 竹熊真波


(1)アンケート調査の概要
 2018年5月より7月にかけて国立高専機構の協力を得て各高専の留学生を対象にアンケート調査を実施した。有り難いことに分校も含む52の学校より361名の留学生の回答を得た。国立高専機構のHP及びパンフレットに記載されている2018年5月1日現在の国立高等専門学校在籍留学生数は454名となっており [1]、在籍留学生の8割近くの回答を得たこととなる。国立の高専における留学生受け入れの状況を表1に示す。なお、表の右側に今回のアンケート調査での回答者の国籍を示している。

 

 この表から、東方政策(Look East Policy)により四半世紀に渡る日本留学の歴史を有するマレーシアと、近年高専の導入に力を入れているモンゴルの学生が留学生の7割を占めていること、また国費や政府派遣など奨学金を受けている留学生が96.3%と非常に高い割合となっていることが分かる[2] 。
なお、『学校基本調査(平成30年度)』によると [3]、高等専門学校は全国に57校(国立51、公立3、私立3)、学生数は57、467人であり、男女比は81%対19%と圧倒的に男子学生が多い状況である。
また、全学生に占める留学生の割合は0.79%と1%にも満たない。留学生を受け入れている3年以上に絞って計算すると1.2%と若干高くなるが、それでも全国の大学学部段階における状況(3.7%)と比較すると低い数値であることは変わらない。さらに、高等教育機関に留学する学生の役割を占める外国人の内訳で、中国がわずかに2人だけでなく、韓国や台湾などの留学生もゼロとなっており、高専は、留学生の出身国についても非常に独特な受入を行っていることが分かる[4] 。なお、高専が受け入れている留学生の男女比は70.2%対30.0%であり、男子学生が多いものの全体からすると女子学生の割合がかなり高くなっている。                                                                                       (2)調査対象者の属性について
 本調査の361名の男女比は、255名(70.6%)対103名(28.5%)(不明3名)で、留学生全体の男女比とほぼ同じであった(図1)。
 回答者の年齢構成は、18歳が6名、19歳が41名、20歳107名、21歳109名、22歳41名、23歳71名、24歳7 名、25歳2名、平均20.6歳であった(図2)。

 

 学年は1年が3名、2年0、3年が97名、4年が115名、5年119名とほぼ3年以降(1年生は全てタイ国籍[5] )に集中していた。

 

 回答者の学年と年齢をクロスすると、3年は19、20歳、4年は20、21歳、5年は21、22歳が最も多く、どの学年も日本語学習その他の予備教育の関係で、日本人学生より2歳ほど年長という状況であった(表2)。これらは、日本語の予備教育も含めた高専の留学生受け入れ方針と合致している。 
 彼らの出身国については、表1にも示すように、マレーシアが161名(44.6%)と最も多く、ついでモンゴルが92名(25.5%)で、両国で留学生の7割を占めていた。マレーシアはルック・イースト政策により日本の大学・高専に学生を派遣している実績があり、またモンゴルは国を挙げて高専教育に力を入れている国である。
 以下、カンボジア(23名)、ラオス(20名)、タイ(19名)、インドネシア(18名)、
ベトナム(6名)と続く。少数派として、インド、カメルーン、セネガルが3名、中国、チュニジアが2名、バングラデシュ、ミャンマー、ルワンダ、トルコが1名であった(多国籍、不明は除く)。

 

 話せる言語については、母語以外に「日本語」と応えたものが302名、「英語」と応えたものが317名で英語の方が若干多かった。これを学年別に見ても(表3)、ほぼ同数の3年生以外は、英語が話せるとするものがそれぞれ多くなっている。さらに、留学生の多い、マレーシアとモンゴルを抽出してみると、旧イギリス植民地で英語教育が盛んなマレーシアは、日本語より英語を得意とするものが多く、モンゴルは日本語を得意とする割合が高かった。何れにしてもやはり国際語としての英語の重要性が見て取れる結果となった。                      
 次に、彼らの専攻に関して、学校毎に名称も異なるので、大まかな分類となるが、「機械」(知能ロボットを含む)系が最も多く79名、ついで「土木・建築」(環境システムを含む)系71名、「電気・電子」55名、「物質」45名、「情報」42名となっていた。
 最後に、今回以外の留学経験(問8)については、ほとんど(341名)が「なし」と答えていたが、「あり」と答えた16名は、日本(5名)のほか、台湾、ヨルダン、インドネシア、フランス、イギリス、ロシアに行ったことがあるとのことであった。

(3)調査対象者の中学時代の状況(Part2)
 まず、「中学時代を振り返って次の事柄はどのくらい当てはまりますか(Q1)」と6項目の問いを4段階で回答してもらった。
Q1. When you were in secondary school, how strongly does the following statements true to you? 中学時代を振り返って、次のことがらはどのくらいあてはまりますか?

 

 その結果、やはり「4 理数系の科目が得意だった」とするも割合が圧倒的に高く、逆に「5 文科系の科目が得意だった」という項目は「全くあてはまらない」「余りあてはまらない」とするものが多かった。また2番目に多かったのが「6 英語の科目が得意だった」で「1 機械、ロボット、電気製品などが好きだった」、「2 コンピュータ、プログラミングなどが好きだった」、「3 工作やデザインなどが得意だった」といった具体的な専攻分野については「ややあてはまる」とするものが多いものの、中学時代から自身の専攻を特定してはいなかったことがわかる。
 また、中学最終学年の成績を尋ねたところ(Q2)、ほとんどの者が「平均より上」と回答していた。これは実際の学力を反映するものではないものの、回答者の多いマレーシア留学生とモンゴル留学生のみを抽出してみると、傾向は同じであったが、若干、モンゴル人留学生の方が自己評定は高かった。優秀な学生が集められていることが想像でき る。                                                                                                             Q2. How was your result like during the final year of your lower-secondary school?
中学最終学年の時の成績は、あなたの通っていた学校の中でどの位でしたか

 

(4)日本の高専への進学について(Part3)
 まず「日本への留学はあなたの第一志望でしたか」(Q1)という問に関しては、「第一志望だった」としたものが281名(77.8%)と最も多くなっていた。これを国籍別に見ても、マレーシアは72.0%、モンゴルは84.8%で、マレーシアが若干低く、モンゴルは高い割合になってはいるものの、両者とも高い割合で日本への進学を希望していたことが分かる。なお、マレーシアでは6.2%がマラヤ大学、マレーシア工科大学、マレーシア国民大学、テイラーズカレッジ等の国内進学を、また18%がイギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダといった英語圏への留学を希望していた。一方、モンゴルでは、4.3%がモンゴル科技大学、9.8%がオーストラリアなどへの留学を希望していた。
 上記のように、ほとんどの者が日本留学を第一志望だったと答えてはいるが、「留学する国として日本以外の国への留学も考えましたか」(Q2)との問には73.4%が「はい」と答えている。マレーシアはさらに高く、81.4%が考えたとしている(モンゴルは60.9%)。
やはり、奨学金を得ることができるだけの優秀な学生であるから、国内進学や様々な国への留学条件を考慮した上で日本への留学を選択したのだと考えられる。
 なお、留学先として最も人気が高かったのが、アメリカで、以下イギリス、オーストラリア、カナダ・シンガポールといった英語圏の国が続く。ただし、マレーシアに限っては、旧植民地の伝統があるのであろう、イギリスを希望する者が最も多かった。
 次に、「あなたが日本の高専への進学を決めた理由として、次のことがらはどの程度当てはまりますか」 (Q3)としてその他を除き、7項目について「全く当てはまらない」から「とてもあてはまる」まで4段階評価をしてもらった。                                                        
Q3. When you decided to advance to Kosen, how important were the following statements (reasons) to you? あなたが日本の高専への進学を決めた理由として、次のことがらはどの程度当てはまりますか

 

 その結果、「ややあてはまる」、「とてもあてはまる」回答した数が最も多かったのは「専門的知識を身につけられるから」で9割以上となっているが(94.8%)、高専が受け入れている留学生の殆どが日本政府の国費または政府派遣留学生であることを反映して[6] 、「奨学金を得たから」が「とてもあてはまる」とした割合が58.7%と突出して多くなっていた。以下、

 

「日本の文化に興味があったから」、「就職に有利だと思ったから」となっている。一方で、留学経験者や親、先生に勧められるようなことはあまりなかったようだ。その他の自由記述としては「日本は科学技術が進んでいるから」、「異文化体験がしたかった」、「日本語にも興味があった」、「学費が安い」という意見が多く上がっていた。中には、「学生交換プログラムで富山高専に言ったことがあり、それもきっかけになりました」というものもあった。
 一方で「留学する際の不安な点」(Q4)について、その他を含む9項目を多肢選択方式で選んでもらった。最も多かったのが、やはり「言葉がわからない」(57.1%)で、次いで「家族と離れる」(44.9%)、「留学先での勉強について」(42.7%)、「留学先での生活(食事など)について」(42.9%)などが不安としていた。特にマレーシアはムスリムの学生が多いからであろう、言葉や勉学だけでなく「生活(食事など)」への不安も高いようであった。一方モンゴルは、「言葉が分からない」という点についてもマレーシア(65.2%)の半分程度(37.0%)である他、留学先の勉学や生活に関しては全体的にそれほど不安を感じていないが、「家族と離れる」(40.2%)や「友達や恋人と離れる」(42.4%)などモンゴルから離れることに不安を感じる傾向が強いようである。
 また、これを性別に見てみると、特に女子学生は「家族と離れること」に最も強い不安を抱いていることが分かった。「友達や恋人と離れる」ことや「留学先での勉強」や「環境」についても男子学生以上の数値となっていた。「リケジョ」ではないが、どうしても理工系を専門とする女子の割合は低く、高専でも2割程度であることから男子学生以上に不安を抱えていることが分かる。

Q4. Do you have any concerns about studying abroad? 留学するとき不安なことはありましたか
What are your concerns? You can choose more than one. どんな不安ですか? 幾つでも選んでください。

 

 自由記述としては「カルチャーショックについて」、「日本社会に適応できるか」、「日本人の友達ができるか」、「お祈りの時間など宗教的な習慣を継続できるか」、「病気になった時」、「孤独な時間が多い」、「自分の言いたいことを表現できない」等の意見が書かれていた。あるいは来日後での不安ということかもしれないが、「留学生に興味を持つ(友達になってくれる)日本人が少ない」「専門用語が難しい」「クラスや部活に溶け込めない」という意見もあった。さらに、「留学生活を通じて不安が解消されたか、別の心配はないか聞いてほしかった」との意見もあった。やはり、カルチャーショックは来日当初の身に起こるとは限らないし、日本の生活に慣れたとしても学年が上が り、より専門性が高まるからこその悩みもあるということがあるのだろう。
 次に、高専教育システムについてのイメージを聞いてみた(Q5)。やはり「実践的・実用的である」とする者が77.3%と最も多いことが分かった。次いで「高専の教育システムのレベルが高い」(61.7%)、「理論研究が多い」(42.1%)となっていた。

(5)高専での学習について(Part4:前半)
 高専での学習に関して、まずは「日本で学びたい分野は何か(Q1)」と訪ねたところ、全体としては、機械工学、電気・電子工学、情報工学の順ではあるが、経済・経営を除いてどの分野にもあまり偏りがない数値が出ている。これを実際の専攻とクロスさせてみてもやはり機械専攻は機械工学を学びたい、とする者が多くなっており、自分の希望と実際の専攻がほぼ合致していることが見て取れる。ただし、国別に見ると傾向が若干異なり、マレーシアでは、機械工学や工業化学・物質工学を希望する者が多くなっているが、モンゴルではその両者ともあまり希望がなく、また、マレーシアではそれほど希望者のいない情報工学や建築を希望する者が多くなっている。両国の経済的発展の領域や程度等とも関係があるのかもしれない。
 また、自由記述では「ロボット工学」、「バイオテクノロジー」、「航空」と答えた者が複数あった。
 Q1. In what field would you like to study in Japan? (You can choose more than one) 日本で学びたい分野はなんですか(複数回答可)

 

 次に、高専の学びと日本の高専での学びの違いに関して、数学、理科、日本語学習についてどの点が難しいと感じるかを尋ねた(Q2-1、Q2-2、Q2-3)
 これを見ると、数学、理科・科学ともに「日本語の専門用語」に最も苦労していることが分かる。また、理科・科学では「実験」も過半数が難しいと感じているようである。留学生へのインタビューでも、母国では特に実験をしなかったといった意見や特に女子学生は力が必要で大変だったという感想もあったことから、特に慣れるまでは大変だと感じるようである。

 

 次いで、日本語の学習自体についての質問をしたが、「とても難しい」・「難しい」との回答が過半数を超えた項目は多いものから順に「敬語」、「漢字」、「文法」となっていた。特に「敬語」に関して、インタビューをした際には話し言葉(方言)を理解するのにも苦労したようで、教科書に書かれた内容と実際にコミュニケーションする際の表現方法との相違に戸惑うということであろう。

 

 なお、日本語に関しては、マレーシアとモンゴルとでは難しいと感じる項目に相違が見られた。やはり、文法構造が同じモンゴルでは、文法にそれほど問題を感じておらず、漢字が最も難しいと感じているようだが、文法構造が全く異なるマレーシア留学生は、敬語の次に文法が難しいと回答している。

 

 設問では、高専卒業後の希望進路についても尋ねた。まず、「あなたはどの段階まで学びたいですか」(Q3)という問に対しては、「高専卒業後、大学に進学し、学士号をとりたい」とするものが最も多く60.1%であった。「大学院に進学して博士学位を取りたい」とするものも31.3%に登り、「高専卒業で十分」とするものは8.3%と1割にも満たなかった。
 また、「将来どこで働きたいと考えていますか」(Q4)という問に対しては、「日本で就職したい」とするものは8.3%、「日本や自国以外で働きたい」とするものは6.9%にすぎず、多くのものが「帰国して母国で働きたい」(31.0%)、「日本で数年働いた後に帰国して働きたい」(46.5%)としている。
 これらについて、マレーシアとモンゴルとを比較すると、まず進学については、マレーシア留学生は高専卒とするものは非常に少なく、多くのものが大学、さらにはその先の大学院までを希望しているが、モンゴルは高専卒で十分とする割合が高くなっている。それは、インタビューでもあったように、モンゴルからの派遣留学生はいわば紐付きもしくは留学の学位資格の安全弁であって、日本の高専を卒業した後には帰国し、モンゴル科学技術大学において学士課程を修了することが義務つけられているものが多いことによるものであろう。
同様に、将来の就職場所についても、マレーシア以上にモンゴル人留学生の方が「帰国して就労」することをより多く選択している。
 「どんな仕事がしたいですか」(Q5)については、多様な答えがあったが、総じて各種エンジニア、教師・研究 者、公務員など高専で学んだ専門性をいかした職業を考えているようであった。

(6)高専教育への評価(Part4:後半)
 「あなたは高専に留学して、以下の点をどの程度評価していますか」(Q6)という問に関して、9項目を4段階で評価してもらった。その結果、「やや評価している」、「とても評価している」の割合は、いずれも過半数を超える状況ではあったが、最も評価が高かったのは「実験・実習の内容・水準」、2番目が「授業科目の内容・水準」、そして「理論研究と実験の組み合わせ」となっており、高専教育の内容そのものには特に高い評価があったことが明らかになった。一方、「友人関係」や「課外活動」に関しては、それほど高い評価は下されなかった。これは、留学生が日本語その他の予備教育を受けた後に高専3年から編入して学習をはじめることから2歳程度の年齢差が生じることにも起因するように思われる。

 

 次に「高専で学んでいる態度や価値観についてあなたはどの程度評価していますか」(Q7)について11項目を4段階評価してもらった。この点に関しても、「やや評価している」、「とても評価している」の合計がどの項目も過半数を超えていたが、特に評価が高かったのは「責任感」、「勤勉性」、「自主性」、「問題解決能力」等であった。「文化的寛容性/多文化の尊重」や「チャレンジ精神」にタイしては「とても評価している」の割合も高かった。一方で、やや評価が低かったのは「遊びや自由な時間」、「創造性やオリジナリティ」であった。

 

 さらに、「あなたは高専での留学を通してどのような知識・能力を身につけたいと思っていますか」(Q8)について、10項目に対して「全く必要ない」、「あまり必要ない」、「まあ身につけたい」、「是非身につけたい」の4項目から選択してもらった。
 その結果、どの項目も必要ないとの回答は少なかったので、「是非身につけたい」と回答したものを多いものから順番に示すと、「専攻した分野に関する専門的知識」、「自分自身で考えながら「ものづくり」をする力」、「日本語で階狩り話したりする力:、「自分の手を動かす実験などから問題の本質をつかむ力」、「新たなアイデアや解決策を見つけ出す力」などが6割を超えていた。IT能力やプレゼン能力は他の学校種でも修得可能な能力であるが、「ものづくり」や「実験」を重視する教育はまさに高専教育の最大の特徴であり、その点を留学生達も十分に理解しているということができよう。

 

 最後に、「どのようなところが”高専教育“の特徴だと思いますか」(Q9)と「どのようなところはあなたの母国では評価されず、受け入れられないと思いますか」(Q10)という問を設け、同じ項目についてその他を含む13項目尋ねた。全体の評価としては「実験、実習を重視する授業」が最も高専らしいと評価されており、次いで「高い専門的技能と専門的知識」、「集団生活/寮生活」、「時間厳守と効率性」、「先輩後輩関係」が評価されていた。
 一方、母国では評価されず受け入れられないとしたもので最も特徴的であったのが「先輩後輩関係」であった。この項目だけは特徴とする以上に自国では受け入れられないとする回答が多くなっていた。次いで「時間厳守と効率性」が受け入れにくいと認識されているようであった。
 これを、マレーシアとモンゴルとでさらに見てみると、マレーシアではこの「先輩後輩関係」が最も受け入れがたいと捉えられているようだ。一方、モンゴルは「先輩後輩関係」はもちろんであるが、それ以外にも「実験、実習を重視する授業」、「ロボコンなどの課外活動」、「研究室の規則」などの項目もマレーシアあるいは全体と比較して否定的な意見が多くなっており、特に高等教育は理論優先である状況が垣間見える。

 

(7)自由記述
 質問紙調査では、最後に自由記述をしてもらう欄を設けた。そこでは、10名の留学生の意見があった。これらは少数の意見ではあるが、長文で書かれたものもあり、留学生の本音が示されているのではないかと考える。以下、いくつかカテゴリー毎に分類しながら検討したい。英文は筆者が翻訳、また日本語の文法ミス等については修正して示す。
 1)評価すべき点
 ・高専は技術教育だけでなく日本語や日本文化も学べる素晴らしい場所である
 ・高専は留学生への差別は殆どないと感じている。職員や学友はとてもフレンドリーであるし、先生方は自分のために日本語を英語に翻訳するなど尽力してくださっている。
 2)英語教育について
 ・英語力がうまく進めないのは生徒が頑張らないわけではないと思う。上の人が生徒をもっと強く頑張らせている気がするけど、言語の勉強は数学のように力づくではあまりできないと思う。昨日友達の5年生と対話したら、5年生で英語力に自信がまだないと言われた。大半のテストには前の練習問題の完コピで、暗記するだけだそうだ。
 ・英語の授業は改善した方がいいと思う。英語を勉強するのはもっと楽しいものであるべきだが、日本での英語の授業は母国ほど魅力がない。先生方は、語彙の暗記に集中するのではなく、生徒と一緒に英語の映画を見たり英語の歌を聞いたりしてはどうだろうか。
 3)試験方法について
 ・いくつかの高専では先生は昨年と全く同じ問題を出すので、学生は過去問を丸暗記すれば試験に合格できるそうだ。これは、自分の母国とは全く違う。
4)編入の時期について
・高専での授業や課外活動、研究など、自分自身を変えることができたが、4年次からの編入だともっと有効ではないかと思う。3年の授業は母国の高校で行ったことの繰り返しに感じる
5)受入体制について
 ・留学生と日本人学生とスケジュール等分けるべきではないが、我々の文化も尊重してほしい.すべての行事に参加するとしても、内容によっては特別のルールを設けるか参加しないという選択肢を与えてほしい。
 ・寮では留学生を子ども扱いしないでほしい。自分はすでに24歳であるが、15歳の若者と同じような厳しいルール全てに従うことを強いられるのには反対だ。彼らは、日本式のやり方がいつでも正しいと思っているのかもしれないが、それでは意味がないし、「交流(EXCHANGE)」とはいえない。我々は、確かに途上国から来ているが、我々が日本や日本のシステムにプラスになることもあると思う。(中略)「大学」に留学した私の友人は、規則に縛られることなく、様々な活動に参加している。決して点呼されたり登校時間が決められていたり、毎年部屋替えをさせられたりするようなことはない。
 ・実は、最近高専に来たばかりの留学生があまりにも周りに溶け込めず、授業中に泣き出した事例があります。寮事務室の寮母さんも心配して、先輩の私と色々相談したが、やはり高専は大学と違って、外国人留学生に対する受容や配慮がまだまだ足りないという結論に至りました。(中略)一部の高専が「国際化したい」と言いつつも、自分の学校にいる留学生自体の声をあまり聞いてないのではないかと思っております。これは本末転倒のやり方だと感じております。留学生の高専教育に対する受容度も重要ですが、その影響因素となる、高専で留学している外国人学生がかかっている悩み、心のメンタルの問題、生活面の悩みについても研究が行わればと思います。高専でいかに良質な教育を受けても、学生が楽しく学校生活を送れないのであれば、それは教育の目的と違うと考えております。

(8)調査結果からみる国際化への課題[7]
 以上より、高専が今後国際交流を促進させ、国際展開を図っていくための課題や方策を考えたい。
 まず、調査結果から言えることは第一に「実験、実習を重視する授業」や「高い専門的技能と専門的知識」、「ものづくりの力」など高専教育の特徴とも言える項目については、留学生からの評価が高く、受入についても特に問題とされなかった。従って、高専の学びそのものは十分に海外に通じるということが言える。
 ただし、英語教育や試験の在り方に関しては手厳しい意見があった。確かに、留学生が指摘するように、現在の高校での教育は大学入試対策中心で、暗記に頼る傾向がある。この点については、教育再生実行会議の第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」 (平成25年10月31日)や第11次提言「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」(令和元年5月17日)においても指摘されている点である 。英語教育に関しても2,003(平成15)年にはすでに「英語が使える日本人育成のための行動計画」が文部科学省から提案され 、コミュニケーション重視にシフトする方向性が打ち出された。もちろん、高専は高等教育機関であることから、受験英語や暗記中心の授業や試験をする必要はないが、現状として留学生の目からは単なる語彙の暗記で楽しくないように映るのであろう。
 さらに、高専特有の学校生活についてはもう少し改善の余地があると思われる。高専は、高等教育機関に位置づけられ、学習指導要領に沿う必要もない独自の教育を行うことができるが、一方で高校レベルの学生を受け入れ、3年生までは制服の着用もあるというアンビバレントな特徴を有する特殊な教育機関である。この高専教育自体が抱える「ジレンマ」に留学生も戸惑っているように思われる。その非高等教育的な特徴の最たるものが「先輩後輩関係」なのではないだろうか。特に、属性でも明らかなように、留学生はすでに高校を卒業しており、さらに同じ学年の日本人学生とは2歳ほど年上の場合がほとんどである。従って、年下の「先輩」に敬意を払うように求められることや「寮生活」において成人しているにもかかわらず未成年同様のルールを押しつけられる点にも閉口しているようだ。宇部高専では留学生専用の寮があるとのことであったが、日本人学生と留学生とを分離するということでなければそうした措置を執るのも一計かもしれない。もしくは寮生活を柔軟に国際化に対応したものに変革する必要があろう。
 また、「高専でいかに良質な教育を受けても、学生が楽しく学校生活を送れないのであれば、それは教育の目的と違う」として、メンタル面や生活面でのケアを求める声もあった。日本人学生でも日本の伝統ともいえる規律重視の学校生活に不適応を起こし、不登校となるケースも増えており、さらには発達障害を有するものや経済的に厳しい家庭環境にあるものなどひとりひとりの教育的ニーズを把握し、学びを支える必要性も叫ばれるようになってきている。留学生が学校生活をスムーズに送れるようになることはひいては日本人学生の満足度の向上にもつながるだろう。
 高専が受け入れている学生は大半が「奨学生」である。それは、回答者の自己認識にも示されるように、それぞれの母国では大変優秀な学生やエリートであることを意味する。従って、異文化である日本の学校生活への適応能力も比較的高いといえる。しかし、それでもホームシックや勉学、友人関係などに悩むこともあるだろう。しかし、受け入れ側がどれほど留学生に対して配慮し、相手国の文化を尊重しているつもりでも、留学生の割合が高専全体の1%に満たないという状況では、「日本人と同等に扱う」ことに主眼が置かれがちになるのではないかと思われる。
 例えば、大学では留学生センターがあり、生活面での支援や小旅行や地域やスタッフの日本人家庭へのホームステ イ、クリスマスパーティなど留学生向けのプログラムも多く企画されている。そうした企画に参加すれば、留学生同 士、特に同国人同士が交流することでいわば「息抜き」ができると思われる。もちろん留学生の人数が多すぎると、今度は同国人同士で固まって日本人や日本社会との交流がおろそかになるという問題も懸念されるが、しかし、各学年で1人平均という少人数の現状ではそうした企画も難しいだろう。この点について、宇部高専では隣接する山口大学の留学生との交流があり、また東京高専では、同じ東京で日本語を学んでいる後輩に会いに行くなど各自で工夫をしていたが、個人の努力に頼ることのない対応も必要になるだろう。
 今後、高専の国際化が進めば、ますます多くの国から私費留学生も含めた多様な背景を有する留学生を受け入れることになる。そのためにも、高専の日本式教育そのものの良さを維持しながらも「世界仕様」に変容すべき点は何かについて、今いる留学生の声をしっかり聞く必要があると考える。


参考文献:                                                   [1]国立高専機構本部HP https://www.kosen-k.go.jp/exam/receiving/
[2]昭和56年11月、マレーシア政府よりマハティール政権の下で提唱された東方政策(Look East Policy)に基づき、大学や高等専門学校への留学生派遣が開始された。現在は、現地で2年間の予備教育を受け、派遣されている。       http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/07061201.htm                     [3]https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1407849.htm
[4]留学生のデータは日本学生支援機構(Jasso)「平成30年度外国人留学生在籍状況調査等について」https://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student/data2018.html
[5]タイ国政府は、自国公務員の人材養成を図るため、昭和48年以降タイ国政府給費留学生を派遣し、我が国の高等学校及び大学で勉強させている。http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/07061201.htm
[6] 平成30年5月1日現在の留学生454名のうち、国費が150名(33%)、マレーシア政府派遣203名(44.7%)、モンゴル政府派遣80名(17.6%)、タイ政府奨学金3名(0.6%)、私費17名(3.7%)                   [7]拙著「留学英調査に見る高専教育の特徴と国際化への課題」日本高専学会誌 第24巻第1号 pp.43-46 2019.1