日本の高専の国際化の展開と実態

日本の高専の国際化の展開と実態


                             竹熊真波・竹熊尚夫

1 高等専門学校の概要[1]                                         高等専門学校は、中学卒業後、高等学校から大学(2年)まで5年一貫(商船は5年6ヶ月)の専門教育を行う「高等教育機関」である。その目的は、学校教育法第百十五条において、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」と定められている。2016(平成28)年現在、国立51校、公立3校、私立3校、計57校があり、生徒数は54,553人となっている。
学問分野は、大きくは工業系と商船系に分かれ、工業系は、機械工学科、電気工学科、電子制御工学科、情報工学科、物質工学科、建築学科、環境都市工学科などが、商船系の学科には、商船学科がある。その他、経営情報学科、情報デザイン学科、コミュニケーション情報学科、国際流通学科などもある。
 高等専門学校の特色として、文部科学省は以下の5点を挙げている。すなわち、①5年一貫教育、②実験・実習を重視した専門教育、③ロボットコンテスト、プログラミングコンテスト、デザインコンペティション等の全国大会の  開催、④卒業生には産業界からの高い評価、⑤卒業後、さらに高度な技術教育を受けるための専攻科(2年間)[2] である。
 そもそも、高等専門学校は、戦後の経済成長に伴い、産業界から求められる科学・技術の進歩に対応できる中堅技術者の養成に応えるべく設置された。1962(昭和37)年に「実践的技術者を養成する高等教育機関」として「工業高等専門学校」12校(函館・旭川・平(のち福島)・群馬・長岡・沼津・鈴鹿・明石・宇部・高松・新居浜・佐世保)が創設され、その翌63年に12校、64年に12校、65年に7校、さらに、67年には「商船」高等専門学校が、68年には「電波」高等専門学校が設立するなど、学校数や領域も拡大を続けた。
 国立の高等専門学校は2004(平成16年)度には沖縄工業高等専門学校が設置され、最大で55校を数えた。一方、公立の高等専門学校も1991(平成3)年度から2005(平成17)年度までは1都1府2市に5校、私立も最大7校が存在した。こうした増加に対応し、1976(昭和51)年には、卒業後の進学先として長岡技術科学大学、豊橋技術科学大学が開学し、1991(平成3)年には高専の通常課程卒業生に「準学士号」が付与されると共に「専攻科」が設置され、大卒の資格も取得できることとなった[3] 。
 しかしながら、産業構造の変化や15歳人口の減少などを受け、高等専門学校の役割も変化することとなる。まずは、2003(平成15)年に「独立行政法人国立高等専門学校機構法」が成立、翌2004(平成16)年に「独立行政法人国立高等専門学校機構(国立高専機構)」が発足し、国立の高等教育機関として他の国立大学等と同様に学校の統合など再構築が進められた。そして、2008(平成20)年に中央教育審議会答申「高等専門学校教育の充実について -ものづくり技術力の継承・発展とイノベーションの創出を目指して-」がだされ、中堅技術者の養成から実践的・創造的技術者の養成へとその重点をシフトすることとなった[4] 。その結果、高度化再編という名の下に、2009(平成21)年には宮城と仙台電波、富山と富山商船、高松と詫間電波、八代と熊本電波が統合再編されることとなった(順に仙台、富山、香川、熊本高専となった)。公立の高等専門学校についても、札幌市立高等専門学校が2005(平成17)年度から学生募集を停止、2006(平成18)年度には都立の高等専門学校2校が統合され、都立産業技術高等専門学校となり、現在は大阪府立大学工業高等専門学校、神戸市立工業高等専門学校と合わせて3校となっている。私立高等専門学校についても、1991(平成3)年度までに4校が大学に移行し、カトリック系のサレジオ高等専門学校および大学付属である近畿大学工業高等専門学校、国際高等専門学校(金沢工業大学との9年一貫教育)の3校となっている。 
 答申によれば、高等専門学校の入学志願倍率は,15 歳人口が減少する中にあっても,おおむね約2倍以上を維持してきた。しかし、長期的に少子化傾向が続く中,近年では入学志願者も緩やかな減少傾向にあり、入学志願倍率も平成 17 年度についに2倍を切り(1.9 倍)、平成 20 年度は 1.78 倍となった[5] 。また、高等専門学校教育、あるいはその卒業生に対する 社会の評価が高い一方で、多くが工業・商船等の実験・実習系の分野であるため,施設・設備の整備や維持管理等に多額の経費を要することも課題とされた。
  その後、2016(平成28)年3月には高等専門学校の充実に関する調査研究協力者会議による「高等専門学校の充実について」と題する取りまとめが公表された。そこでは、国際化や高学歴化(本科卒業生の4割が進学)、高等専門学校が県庁所在地ではなく、地域でも第2・第3と呼ばれる都市に設置され、地域産業と密着した教育が実施されてきたという歴史、中学卒業後の早い段階から5年間の一貫教育を行うというユニークな機能、平均求人倍率約20倍という産業界からの高い評価、OECDや開発途上国からの高い評価といった高専を取り巻く好意的な評価が示された。
 一方で、専攻科に進学した際の学位授与(現状では大学評価・学位授与機構への申請が必要となっている)や同学年に占める高等専門学校生の割合が1%にすぎず、高専が広く知られていないというブランディング、全高専の本が在学生に占める女子学生の割合は2015年度において約18%にすぎず、理工系分野の大学学部学生の女子学生の割合である43.5%と比較して少ない状況にあるといった男女比率の偏りといった課題も指摘された。その上で、今後の高等専門学校教育の在り方と充実方策が提案された。それは、厳しい経営状況の中でも高専の良さを生かし、PBLなどの新たな教育手法を取り入れながらIoTなどの新たな分野の人材育成を行おうとするもので、加えて地域・産業界との連携や国際化への対応が必要とされた。このうち国際化への対応においては、グローバルエンジニアの育成のために英語による授業や海外インターンシップを取り入れるほか、留学生受け入れ環境の整備、そして高等専門学校制度の戦略的・組織的な海外展開の推進を図るといった具体策が打ち出された。
 以上を踏まえ、本研究課題である、留学生の受入と国際連携という国際化と、日本式高専の輸出という国際展開に関わる部分に焦点をあて、日本の高専が如何に「国際化へ対応」してきており、国際展開によって高専どのような部分で国際化への改革が求められているかについて検討する。                                                                                   2 高等専門学校への訪問調査                                          本研究では、先述した独立行政法人国立高等専門学校機構(高専機構)、日本高専学会のサポートを得て、高専機構並びに国際化に力を入れているいくつかの高等専門学校を訪問調査した。その調査概要を以下に記す。

(1)国立高等専門学校機構[6]
前述のように独立行政法人国立高等専門学校機構(国立高専機構)は、2004(平成16)年に発足し、全国に51ある国立高専の設置・運営にあたっている。2019(令和元)年5月1日現在、6,093名の教職員と48,279名の本科生(女子の比率は21.3%)、2,934名の専攻科生(同11.8%)が在籍している。
高専機構の目的は、「国立高等専門学校を設置すること等により、職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を有する創造的な人材を育成するとともに、我が国の高等教育の水準の向上と均衡ある発展を図ること」(独立行政法人国利高等専門学校機構法第3条)であり、具体的な方向性として「積極的なアクティブラーニングの展開、グローバル化を先端的に進める新たな高専づくり、スケールメリットを最大限に生かした研究活動の推進などにより、地域と世界が抱える諸課題に果敢に立ち向かう、深い科学的思考に根ざした実践的人材を養成」を掲げている(ゴチック・下線筆 者)。特にグローバル化に関しては、「語学力・異文化理解力・リーダーシップ・マネジメント力を備えた、産業界のニーズに応えるグローバルに活躍できる技術者の育成」と、「モンゴル・タイ・ベトナムなどの国を対象に『高専型教育の海外展開』を推進し、技術者教育分野での国際貢献と高専のさらなる国際化・高度化」を図ることに力が入れられている(下線筆者)。このうち、前者については、学生の海外インターンシップや教職員を対象とする国際会議  ISATE(International Symposium Advances in Technology Education)や在外研究院制度などが実施されている。現在まで、のべ371機関の海外教育機関と学術交流協定を結び、2018(平成30)年度には、3,395名の学生が、台湾(898名)、シンガポール(639名)、タイ(302名)、マレーシア(205名)等に派遣され、またシンガポール(294)、タイ(222)、韓国(167)、香港(140)等から1,512名の学生を受け入れるなどの交流が行われている。また、後者については、モンゴルに2016(平成28)年11月、タイに同年12月、ベトナムに2018(平成30)年3月、それぞれリエゾンオフィスを設置し、高専型教育のリソースを各国のニーズに応じて展開、各国の技術者教育の高度化を支援している。
 一方、国内高専への留学生の受け入れに関して、2018(平成30)年5月1日現在454名の外国人留学生を受け入れているが、このうち日本国政府の国費留学生が151名(専攻科1名を含む)、マレーシア政府派遣留学生が203名(同5名)、モンゴル政府派遣80名(本科生のみ)、タイ政府派遣3名(2018年度より開始、本科1年生のみ)、私費留学生が17名(専攻科3名)となっており、国費や政府派遣の受け入れが8割以上と圧倒的に多い。ちなみに、同じ時期の国内全高等教育機関への外国人留学生総数は、298,980名であるが、このうち国費は9,423名、政府派遣は3,733名、私費が285,824名であり、国費・政府派遣合わせての割合は4.4%にすぎない [7]。
 高専機構では、私費留学生の受入を推進すべく、2010(平成22)年より「全国国立高専の私費留学生編入学共同選抜」として私費留学生の3年学年編入試験(外国人留学生対象)を実施している。それは、学校教育における11年以上の課程を修了といった基礎資格を有するものを対象とし、出願書類、日本留学試験の成績、TOEFL,TOEIC L&RまたはIELTSの成績及び面接(2020年1月8日実施)評価を総合的に判断するものである[8] 。また、専攻科の受け入れに関して、2021年度は函館、苫小牧、八戸、仙台の4高専において(事務担当校仙台高専名取キャンパス)、専攻科外国人留学生特別選抜が実施される予定である(2020年5月11日)[9] 。
 2020年度の「外国人留学生向け入学案内」をみると、国立だけに学費は年間234,600円と非常に安く、寮も完備されており、生活費も抑えることができる。また、就学や日常生活をサポートするチューター制度の他、学校によってはホームステイ・里親制度を通じて地域社会との交流を図るプログラムを用意している。さらに、卒業後の進路も日本人学生同様、100%の進学・就職が確保されている。具体的な数値を示すと、2018年度に卒業した高専留学生158名のうち、7名が就職、8名が専攻科進学、116名が大学編入学を果たしている(残り27名は帰国後に就職活動・進学準備を行う予定)。
 しかしながら、日本人であれば、高校卒業後高専の4年次に編入することが可能であるのに、留学生はたとえ母国の高校を卒業していても高専3年次に編入学せざるを得ない。この点は専門教育が早期より開始される高専特有のカリキュラム上致し方ないとはいえ、やはりマイナス要因であることは否めない。このため高専としては1年多く時間はかかっても、よりレベルの高い大学に編入できる可能性が高いことなどをアピールしている[10] 。しかしながら実際に私費留学生として3年時に編入学した者は2015、16年度5名、17、18年度4名、19年度2名にとどまっている状況である[11]。従って、今後私費留学生を積極的に受け入れるとなれば、なお一層のカリキュラム、受入準備・進学指導体制等の改善が必要となるであろう。
 以上を踏まえ、2016(平成 28)年9 月27 日に独立行政法人国立高等専門学校機構の竹橋オフィスを、また2017(平成29)年11月20日(月)及び21日(火)に高専機構本部を訪問し、面談の他、今後の調査協力を依頼した。まず、竹橋オフィスでは、本部事務局国際企画室長にお話を伺った。室長は、沖縄高等専門学校から転勤された方で、学校教育の実情に詳しく、またKOSENという形で、中学校を卒業した生徒のわずか1%が進学する高専という「高等教育」を5年間かけて学ぶという我が国でも非常にユニークな教育形態の海外輸出の推進に携わっている方であった。インタビューの際には、高専の概要を確認させて頂くと共に、機構ならびに国際企画室の活動状況等を伺った。タイムリーなことに、モンゴルに国立高等専門学校機構の現地支部ができたばかりで、まさに10月末に開所式が行われるとの情報も得ることができた。
 次に2017年11月20日(月)及び21日(火)に国立高専機構本部に訪問する機会を得た。高専本部は、東京工業高等専門学校に隣接しており、同時に東京高専も訪問した。独立行政法人 国立高等専門学校機構では事務局次長の  (併)国際交流課長ならびに本部事務局国際企画室海外展開係長より話を伺った。面談による質疑及び協議内容は以下の通りである。                                                  
・交付金が年々減少する中、ひも付きとはいえ特別研究経費の獲得は重要事項。その中に国際関係も含まれている。
・国際化には、内なる国際化も含まれるが、高専の場合、留学生は国費か政府派遣にほぼ限定されている。
・私費に関しては、まず高専についての理解がないと難しいだろう。モンゴルが一番理解あるが、全体でも人口300万人の国であるから私費での留学はそう多くはならないだろう。
・日本人学校に通う海外赴任者の子どもは、高校段階になると進学先に困る(国際学校か、帰国して進学するか)が、高専であれば、寮も完備しているので、理工系に関心があるのであれば、子どもだけ帰国させることも可能になる。しかし、彼らに高専は知られていない。海外には塾もあるが、そうしたところで高専について教えることはしない。(高校受験、大学受験というパターンのみ)
・外への国際化(KOSEN)の海外輸出に関して、アセアンも実践力のあるエンジニアが絶対的に不足していることは事実である。かつては職業訓練校などでマニュアルエンジニアを養成すればよく、実際にボリュームゾーンを形成している。しかし彼らをマネージメントする人材はいない。
・一方で、アセアンでは、技術者を下に見る文化がある。
・日本の社会も本機構理事長が経団連に高専卒の人材を初任給だけでも大卒者より上にしてほしいと要求中である。
・最も理解が進んでいるのはモンゴルだが、まだ卒業生が出ておらず、日本式高専教育を受けたあとの進路について(モンゴルで貢献する道を選ぶか、日系企業で働くか、働くとして何年か等)、今は検討中である。
・現在、KOSENの海外展開は、モンゴル、タイ、ベトナムで行われているが、それぞれ事情(国の体制)が異なる。 タイは、円借款による産業人材プロジェクトを立ち上げ、タイ・スタイルのKOSEN型学校を2校設立する方向で企画中であり、両国の署名が交わされる直前で、高専機構としてもカリキュラムや教材の提供を準備しているところである。タイでは、シンガポールのポリテクニクと日本の高専の「良いところどり」を考えている。日本のKOSENは、高度経済成長を支えたものとして意味がある。そっくり輸入したいが国の事情も異なる。(スキルを高めるだけの)技術教育はできたが、それ以上高まらないことに、日本留学経験者は気付いている。しかし、マレーシアなどは学歴社会であるため、学士学位がなければ話にならない。固定観念として技術者を下に見る文化がある。(これを打破するために)実践モデルが必要である。一方、日系企業が多く進出している国では高い評価もある。
・これは、日本も同様で、高専卒をアピールしてくれる社長が多くはいない。
・現在60歳前後の人は、大学への編入学制度がなかったため、高専を中退して大学に行った。今は高専を卒業して大学3年次に編入学している。高専生は研究能力が高いと大学の現場での評価は高い。しかし、社会の評価にはつながらない。準学士でしかない。
・3か国以外でもKOSENに関心を持っている国がある(資料)。特にインドネシアはSMKがポリテクニクを高度化したいと熱心に関心を寄せている。日本も支援予定である。また、UAEも熱量が高い。しかし、安上がりに使おうと思ってほしくはない。高専をきちんと理解した所としっかり付き合いたい。
・KOSENは、日本独自の教育システムである。特に5年一貫であること、高等教育機関として位置付けられていることである。
・文部科学省の補助金で長岡、豊橋、高専機構の三機関の連携は行われている。
・海外への輸出にあたって、日本的な道徳観や価値観をどう取り込むかについて、日本人は義務教育の中で時間を大事にするとか、掃除をする、といった社会人基礎力は身に付けているが、海外は完全に分業。
・高専のもう一つの特徴は、寮生活にある。これを通じて縦社会を理解し、上司をリスペクトする態度を身に付ける。さらに、研究活動に関して、ラボの経験も貴重である。
・卒業後は開発部門で活躍してほしいが、製造ラインの責任者となる人が多い。
・高専教育を海外に導入する際の課題として、圧縮プログラムに耐えられるだけの能力を持っているか、それを教える教員がいるかだろう。モンゴルでは、大学がかかわっているが、タイでは、「高専型の教育をやろう!」という掛け声のみの場合も。給与の問題で優秀な教員を確保できないということもある。その国の中で高専教育の価値を認めてもらえるような支援が必要。
・日本では高専は1%のみ。オタクともいえる理工系好きのその道のエリートが集う。就職率も高い。
・高専に在籍している留学生に対しては、日本事情の中で日本文化を教えているが、内容については学校
 ごとに異なる。これは、学習指導要領によらない高専教育の特徴でもあり、弱みでもある。現在、高専
 全体のコアカリキュラムやルーブリックも作成している。海外向けの英語版も作成中である。
・日本的価値志向を持ったKOSENがどう現地に受け入れられるか、その国の価値観にどうカスタマイズするかだが、これは、ロールモデルを作るしかない。とりわけ、現地で育った人のロールモデル。
 
(2)宇部高等専門学校
2016年(平成28)年12月19日に宇部工業高等専門学校を訪問し学生便覧等の資料の収集と校長、副校長、関係教 員、留学生を対象として聞き取り調査を行った。
 校長先生は、ベトナムのプロジェクトにも関わっておられ、現在も当該校の教員を派遣し、指導に当たってもらっているとのことであった。モンゴル、ベトナムなどへの展開については、教育行政上の相違などもあり、日本と全く同じ高専教育を導入することが難しいことや卒業生が活躍できるインフラの整備が進んでいないことなどの問題点を指摘された。とりわけ、高専教育の核でもある実践重視の教育が他国では余りなく、実験のために必要な設備さえ十分に整えられない状況にあるという。留学生たちへのインタビューでも母国では全く経験が無いため、実験が大変だったとの回答を得た。留学生は国費や政府派遣であることもあって、優秀で日本社会に適応しているようであった。
高専の教育の特徴については、特筆することは困難だが、高専スピリット(ethos)ともいうべき、教師と生徒の距離の近さ、規則の緩やかさ、専門教育における実技の重視、学習指導要領に縛られないカリキュラムの独自性等が挙げられた。一方で、特殊性があるがゆえに高等教育機関であるにもかかわらず学位授与が独自に行えない、隣接する山口大学工学部との連携も難しいといったジレンマも抱えている状況のようであった。

1)宇部高専の概要[12]
宇部高専の教育理念は「あらゆる社会活動を営む上で人間及び社会人としての理念が全てに優先する。これを基本とし、本校は、①温かい人間性と豊かな国際性を備え、②創造的目標に対して常に向上心を持って、③果敢に粘り強く努力を傾注できる人材を育成する」であり、「Be human, be tough and be challenge-seeking」という言葉で表現されている。
学習・教育到達目標には、想像力を備えた(好奇心と持続力・情報技術・立案能力)、「ものづくり」を得意とする(実現能力・解析能力)、人間性豊かな(環境と技術者倫理・コミュニケーション能力・チームワークとリーダーシップ)「国際的に通用する素養を持った技術者」の育成を掲げている。
 宇部高専は、最も初期に創設された12校の高専の一つであるが、国際化も含めた沿革は以下の通りとなっている。 
昭和36(1961)年 宇部工業短期大学設置(1966年廃止)
昭和37(1962)年 宇部工業短期大学に宇部工業高等専門学校が付設
昭和62(1987)年 外国人留学生の受け入れ開始
平成 9(1997)年 専攻科設置
平成16(2004)年 独立行政法人に移行                                      
 学科は、5学科からなる。すなわち、機械工学科(工業製品の研究開発、設計、生産技術などに関わる実践的機械技術者の育成)、電気工学科(電力、電子・制御、情報・通信などの分野の実践的電気技術者の育成)、制御情報工学科(情報通信技術を駆使し、ロボットなどの動きを制御することができる実践的情報技術者の育成)、物質工学科(化学工業又は生物工業における開発、生産などに関わる実践的技術者の育成)、経営情報学科(経済社会と情報技術の発展に対応しうる実践的知識と技術を有する「経営のエンジニア」の育成)。定員は各学科40名である。
教育課程は、「一般科目」と「専門科目」に分かれ、低学年では一般科目が多く、高学年になるにつれ専門科目を多くする「くさび形」で構成されている。このうち、一般科目は、学科によって必要単位数等が異なるが、国語、社会、数学、理科(物理・化学)、保健体育、芸術、外国語(英語、中国語、選択科目としてドイツ語あり)、技術者リテラシー、外部授業科目などが設定されている。5年間の過程を経て高専を卒業した者は「準学士」と称することができる(学則28条の2)。
 卒業後の進路については、就職が70%、進学するものが30%の割合となっている。求人は就職希望者1人に対し23.2倍と驚くべき高さである。就職希望者のほぼ100%が就職できるという。進学する者の半数が、併設の専攻科に進学している。それ以外は九州工業大学、豊橋技術科学大学、山口大学など一般の大学の3年次に編入学する。専攻科は2年課程で、生産システム工学専攻(入学定員12名)、物質工学専攻(同4名)、経営情報工学専攻(同4名)があり、専攻科を修了し、(独)大学改革支援・学位授与機構の定めた条件を満たしたものは学士学位(4年制大学卒業と同等の資格)を得ることができる。
 2016(平成28)年5月1日現在の学生数は、専攻科も含めて1,101人、その内訳は以下の表の通りである

 

 女子学生は全体の27.7%、留学生はわずかに1.2%となっている。専攻科は1年35(6)、2年38(3)、計73名。留学生は0である。
 また、学生の約半数(512名)が宇部市出身で、県外出身者は16名のみ(熊本1,福岡5,島根4、広島3、千葉2,大阪1)、約97%が山口県内出身である。そのためか、学生寮(白鳥寮)はあるが、入寮しているのは、287名で全学生の27.9%程度となっている(うち女子学生63名、留学生12名)。なお、12人の留学生の内訳は、モンゴル1名(女子、制御情報工学科在籍)、インドネシア2名(物質工学科男女各1名)、マレーシア7名(機械工学科男女各3名+物質工学科女子1名)、ラオス1名(物質工学科男子)、カメルーン1名(物質工学科女子)となっている。
 高専といえば、ロボコンで有名だが、課外活動に関して、体育系クラブが19、文化系クラブが11存在し、ロボコン(ロボットコンテスト)、プロコン(プログラミングコンテスト)、プレコン(プレゼンテーションコンテスト:英語が使える高専生)などの各種コンテストも盛んに行われている。
教員組織は、高専が高校段階の若者への教育も行うにもかかわらず、「高等教育機関」に位置づけられているため、通常の高校のように教員免許を有する必要はない一方で、一般教育や文化系科目を担当する一部の教員を除き、ほぼ全ての教員が博士学位を有しており、職名も大学と同様となっているのが特徴的である。平成28年4月1日現在、校長1名、教授29名、准教授33名、講師7名、助教6名、助手0(小計76名)、職員47名合計123名。ちなみに、宇部高専の偏差値は59、宇部高校67には及ばないもののかなり高い値を示している[13] 。

2)校長先生へのインタビュー
 次に、三谷知世校長(工学博士)より話を伺った。内容は以下の通りである。
・高専は少子化の影響もあり、四つの学校が統合(学部統合、定員減)された。その際、教員定数はそのままだったが今少しずつ減少している。地域差もあるが、全体として5、6倍だった倍率も3、4倍になっており、釧路、函館などでは定員割れが続いているため、今後5、6年で高専数の減少もあり得るだろう。
・高専も地域によって入学時の偏差値は様々であるが、卒業時にはほぼ変わらない状況にある。
・高専卒業者は7割が就職、3割が進学というパターンが多い。都市部では9割が進学する所もある。(進学は大学3年次への編入)九大も筆記試験免除で編入学している
・海外進出についてはマレーシア(マラ工科大学)、モンゴル、ベトナムなど。
 マレーシアはINTEC、高専生5万人中400人を受け入れている。8割が大学に編入する。
 モンゴルは文部大臣が高専出身者ということもあり、産業振興のために推進しているが、卒業しても企業がないため、まずはインフラの整備が求められる。
 ベトナムは短大レベルでの輸出であり、中卒から始める高専のコンセプトとは異なる。また、ハノイ工業大学、教育省、労働省がバラバラに日本の工業教育を輸入しているが、何にでもKOSENと冠をつけている状況にある。今は、高卒生が大学段階でテクニシャンを育てる3年間のプログラムが行われている。ポリテクニクのような状況。大学相当ではあるが学位が出せない。また、高専は実践重視を信条としているが、大学の工学部・大卒のエンジニアは、理論研究が中心で手を動かすことをしないので、実際に実験を教えることができない。ベトナムでの実験も機械をバラして組み立てるという作業が中心となっている。高専の装置などを提供したいが、輸出しにくい状況がある。
・高専教育の特徴はやはり早期からの実践教育であろう。「ミタカユウキ」という中小企業はNASAからもオファーが来るほどの企業であるが、その社長は「手作業は15歳ではじめよ!」というコンセプトを持っており、入社試験では箸の持ち方からチェックする。
・また、数学は3年生で大学1年レベルを学修している。
・一方で、目的なく来た学生は進度について行けず留年や退学を余儀なくされることがある。留年率は4%ほど。中退すると行く先がない。転校もないことはないが、ほとんどが親の仕事の都合である。
・教員はほとんどが博士学位を有している。校長先生のように高専出身の教員も校長が知っているだけで7人ほどいる。全体としては、1、2割ぐらいだろう。(4000人中400人程度)その他、企業経験者も2割ほど
 教員A:高専→東工大→医科歯科大→医療工学の教員
 教員B:東京高専→東工大→東芝→東京高専教員
 教員C:宇部高専→三重大→広大→高専教員
 教員D:宇部高専→九工大→高専教員(機械)

・高専教育は、中卒生を受け入れてはいるもの「高等教育」機関に位置づけられており、学習指導要領には縛られない。教科書も教員自身が選択する。前期・後期の2学期制で1時限90分である。大学同様にクオーター制の導入も行われつつある(現在2校)。高校相当の3年生までは制服もあり、茶髪は禁じているが、校則はそれほど厳しくない(制服も着崩している)。4年次からは私服となる。現場で必須条件ともいえる整理整頓の大切さを学ぶため2年前から学校掃除を取り入れた。高専spritsともいうべきは大学受験がないことからひねくれていないことといえる。Responseが早いことも挙げられる。
・山口大学工学部が隣にあるが、編入などのつながりはない。むしろ九大、九工大、広島大学にいく。独自に専攻科を有している。しかし、自前では学位が出せず、学位授与機構の審査?を受ける。1300人が受験料を納め、1%落ちる状況にある。JABEEの認定を受けているが、専攻科に入学するマレーシア留学生はこのおかげで認められたが、それ以外のメリットはない。
・実は専科大学案があったが、1%程度の高専のために法案を訂正するという動きはない。豊橋や長岡などの技術科学大学はスーパーグローバル化を目指している。

3)教員へのインタビュー
 次に宇部高専で働いていらっしゃる先生方へのインタビューを行った。対象は、今回の調査をアレンジいただいた副校長のH教授(工学博士/制御工学、電気製図、ロボット工学(専)担当)及び一般科目を担当されている「教務主事補」のM准教授(理学博士/解析、線形代数(専)担当)・K講師(工学博士/物理、応用物理担当)のお三方である。インタビューは主に留学生の学習面、生活面について伺った。概要並びに知見は以下の通りである。
 
・現在、留学生は1学年に5人までを受け入れることとしている。5年生に女子学生2名、男子学生1名のマレーシア人留学生がいる。
・教えていて、日本語能力の差が激しいように感じる。
・高専は高校3年段階で大学1年生レベルの学習をする。教科書の選定も教員が行っている。
「高専の数学」や「高専の物理」といったテキストもあるが(通常の高校で使用する教科書を使う場合もある)、「物理基礎」などは大学で教える内容である。
・留学生の場合、線形代数はやっていないようで、はじめは戸惑っているが、留学生同士で
 教え合っているようだ。チューター制度があり、日本人学生が留学生の世話をしている。
・授業は90分で教員の担当コマは前期7、後期7である。
・高専の特徴として「技術者リテラシー」という必修科目がある(1,2年を通して1単位、
 3年1単位)。また、大学入試がないところも特徴である。ただし、数学や理科に関して
 は、高専生向けの統一試験がある。
・ロボコンに30人、プロコンに20人程度が参加している。
・留学生は、寮の食事はハラール(ムスリムの食事)用の食材で作っている(しかし、後で留学生に聞くと自炊しているとのことであった)。また隣接する山口大学の留学生との交流はある。
・卒業生は全国各地に就職している。
・新居浜や群馬など高専によっては9割が進学するところもある
・研修会が多く開催されている。
・ジンバブエ宣言で首相がKOSENを述べたことにより海外展開の始まる可能性がある

4)留学生へのインタビュー
引き続き、モンゴルとマレーシアの学生3人にお話を伺った。
制御情報学科 3年生 Aさん; モンゴル 女性?
機械工学科  4年生 Tさん; マレーシア マレー系 女性
機械工学科  5年生 Yさん; マレーシア マレー系 女性
マレーシアの二人は日本式高専で留学準備教育を行っているINTEC College出身でそこで教えていたT先生も知っている。また、Aさんはウランバートル市内の高校出身。モンゴル科学技術大学に合格後、日本に留学したとのことであった。

問 日本に留学して困ったことはありますか?
T;日本語が特に難しい。方言が特に
Y:機械工学科に女子は一人だけで友達ができなくて困った
A:最初はやはり日本語が大変だった。本で読んだのとは違った
問 食べ物はどうでしたか?ハラルはありましたか?
Y:宇部は業務スーパーなどで購入できる。インターネットでも取り寄せられる。基本は自炊。寮の食事はとらない。
問 ラマダン[14] の時期はどうしていますか
Y:マレーシアの留学生と一緒にラマダンやハリラヤを過ごしている
問 夏はどうでしたか?
A:熱くて耐えられず、夏はモンゴルに帰省した。食事は、最初は大変だったけれど今は慣れた。
問 Aさんはどうやって日本に留学することになりましたか
A:大学入学後、JICAの試験を受け、一年間日本語を勉強して来た。
問 勉強は難しいですか?
A:モンゴルでは日本語だけを勉強したので、こちらでは大変だった。数学は得意。以前物質にモンゴル人の先輩がいたが、私が入学する時卒業していた。同じクラスに女子学生は5人おり、話はするがそれほど仲良しというわけではない。むしろ隣の山口大学工学部の留学生と交流している。
問 日本と母国とで勉強の仕方が違うものありますか?
Y:マレーシアの高校とはそれほど変わらない。Study Groupもあるし・・日本に来たとき、日本人のチューターが付く。留学生ふたりと日本人のチューターとで4人程度のStudy Groupを作って勉強する。マレーシアの先輩が後輩に教えることもある。具体的には「過去問」をする。分からなかったら先輩に聞いて、先輩も分からなかったら日本人に聞く。
A:私はモンゴル人一人だから分からないことがあったら日本人のチューター(同級生:女性)に聞
く。困ったことは「実験」。母国ではやったことがなかった。
Y:マレーシアでも同じ。旋盤もやる。
問 宇部を選んだのはどうしてですか?
T・Y:自分で選びました。寒いところが嫌だから。あまり都会も好きではなかった
A:私は、希望などなく振り分けられました。
問 卒業後の進路は決まっていますか
Y:はい。秋田大学に行きます。受験の科目が少なかったからです(数学と英語だけ)。インターネットや先輩の助言をもとに決めました。
T:私も茨城大学に進学したいと考えています。東京の近くだから。今は田舎の環境、次は都会で・・と考えています。
(ふたり);大学卒業後はマレーシアで日本の会社で働くつもりです。その後修士とかも考えたい。
A:私は進学はダメ。モンゴルに帰って5年間働くことが義務づけられている。科技大に戻って卒業することになっている。(科技大の中に高専コースが入っている。)その後留学することも考えている。
問 (マレーシア留学生に)なぜINTECに行こうと思いましたか?
T:高校卒業してから奨学金に応募して、JPA(人事院)という国の奨学金をもらったが、それはINTECしか行けないものだった。別の奨学金だったら別のプログラムに入っていたと思います。英米留学の奨学金にもアプライしたが選ばれなかった。
問 生活で困ったことはありますか
留学生だけの寮があるからそれは良かった。12人の留学生用にアパートがある。  
女子は5部屋(二人部屋)、男子は2階。3階に台所。皆で御飯を作る。夜多めに作って次の日のお弁当にする。食堂では食べてない。(同席の先生驚く)
Aさんは食堂を利用している。
問 留学生同士の交流はありますか
 休みの日は留学生同士で過ごす。山口大の学生との交流もある。日本人とは余り交流しない。(日本人はシャイ)
問 集団礼拝がある金曜日は?
 男子学生は山口大の会議室でお祈りをする。授業などの関係でできないこともあるが、それは許されると思う。
問 メッカの方向(キブラ)は分かりますか?
 今はアプリがある。お昼に自宅に帰って祈っている。断食あけの時間なども教えてくれる。便利です。
問 Aさんは宗教についてはどうですか?
A::無宗教です
問 日本の生活で困ったことは?プライバシーなどは?
Y:集団生活は困った。お風呂はシャワーしか利用しない。
問 モンゴル料理などは食べられるか
A:この辺にはない。羊の肉も味が違う。生活はもう慣れた。実習も慣れた。
問 クラスサイズは?
問題ないです。女性が少ないのだけが残念です。
問 工学系は日本では女性が少ないけれど母国ではどうですか?
やはり、マレーシアでもモンゴルでも女性は少ない
問 日本人の同級生とは2歳ぐらい離れていますか?
Y:はい。私は今22歳、同級生は20歳
A:私は1歳上です。ただ、困ったことは特にありません。
問 機械工学で困ったことはありますか?
T:実習の時、力が必要なので、先生に手伝ってもらいます。日本に来るときこんなに実習があるとは知らなかったです。
Y:体育も男子学生と一緒にサッカー、バスケ、野球などさせられて大変です。
A:バドミントンくらいだったら大丈夫です。
問 クラブは?
参加していない。ロボコンは天才の人だけ参加するから。
問 高専は留年が厳しいと聞いていましたが、どうですか?
Y:頑張れば問題ありません。頑張らない人が留年すると思います。
A:最初の試験は物理で、何が書いてあるか全然分からず勘で解いた。なんとか合格できた。
問 専門用語なども多いが困らなかったか?
A:専門用語が分からなくても式を見れば大体解ける。日本との違いは、モンゴルでは答えを選ぶものが多い(説明は不要)が、日本は記述式が多い。

5)まとめ
 高専は高大接続やアクティブラーニングが求められている現況において、そのモデルともなり得るユニークな教育が実践されている所である。中卒生を受け入れているにもかかわらず、高等教育機関とみなされており、専門教育や一般教育でも理数系を担当する教員は博士、文化系科目を担当する教員でもほぼ修士以上の学歴を有している。また、学習指導要領に縛られないことから徐々にではあるが、1年次より専門教育が開始されるだけでなく、数学など3年生で大学1年生レベルの教育が行われるなど専門性が活かされた独自の教育が展開されている。一方で、少なくとも宇部高専では国語や社会、体育、芸術などの教養教育も幅広く実施され、特に外国語教育は5年生まで継続して教えられている。これは、宇部高専の学習・教育の到達目標である「国際的に通用する素養を持った技術者」を育成するための戦略のひとつなのであろう。
 また、校長、副校長先生が強調されていたように、高専は元々高度経済成長期に大卒のプロフェッショナルエンジニア(あるいは知識労働者)と中卒・高卒のテクニシャン(肉体労働者・技術者)の間に立つテクノロジストを養成すべく設立されたため、実験や実習など「手を動かすこと」が重視されている(しかも早期に)。従って、実験等の割合が高くなる大学への編入後、あるいは大学院での研究において、高専卒業生は非常に高いパフォーマンスを発揮できる。一般に、高校普通科から大学工学部に進学しても、1年あるいは1年半は教養教育が主であり、本格的に専門教育、ましてや実験を伴う教育を受講するのは大体2年以降ということになる。従って、高校1年段階から装置に触れている高専生とは大きな開きがあるといえよう。その結果、即戦力ともなり得る高専卒業生を求める大学が増え、推薦枠が広がっている。企業の求人にしても高専生は非常に評判が良い。これも実践重視の教育の成果のひとつといえる。再試は勿論、留年を厭わない厳しい教育環境による「質保証」、また卒業生の活躍等も企業が高専生を求めるもう一つの要因といえよう。
 さらに、今は高専内に2年の専攻科が設置されており、卒業生は大学と同じレベルの教育を修了し、学位授与機構より「学士学位」が与えられている。しかしながら、このように高いレベルの知識・技能の育成をしている高等教育機関であるにもかかわらず、一般の大学のように高専自らが学位を与える権限がないことが最大の問題といえる。それは、高専が毎年1万人の卒業生を輩出するとしても全体の1%程度であり、さらには専攻科にまで進学するものが卒業生の1割程度であるという特殊性(全体で1,300人程度)によるものである。これだけの少人数のために、法律や制度を改正することが困難ということなのであろう。ただ、もう一つ中堅技術者を育成するというコンセプトから始まったために教育レベルがどうしても大学より低く見なされる「階層意識」といったものが見え隠れしている様にも思われる。実際そういう悔しさを高専に勤める先生方が味わっておられるように感じた。
 一方、インタビューでは、一般教育と専門教育との関係の難しさも感じた。副校長先生は、数学を教えるとき、その後の工業のこの領域を深く理解するために必要なのだという形で教えれば学生のモチベーションも上がるというような話をされていたが、全ての教員がそのようなことを念頭に置いて授業をされているわけではない。ましてや視野を広げるために必要とはいえ、その後の専門教育に関係しない国語や社会をどのような形で将来につなげて教えるかについては、大学の教養教育も同じかもしれないが、高専教育においても大きな課題であろうと思われる。
 また、宇部高専の特徴として技術者リテラシー教育が挙げられ、そこで技術者としての倫理等も教えるということであった。ただ、一般教育の段階は、特に高校1,2年生と同世代であり、心が揺れ動く思春期まっただ中である。普通高校においても中退等の問題が起こる中で、いきなり数学や物理などハイレベルな教育が行われる中でどのような形で心のケアを行っていくのかなお不明な点が残った。昨今は、全ての教育段階において、どの教室にも留学生だけではなく、発達障害を持つ学生、経済的に困窮している家庭から来ている学生等の多様性にも配慮しなければならない。そうした中で博士学位、修士学位は勿論、教員免許とはいわないまでも、少なくとも青年心理や教育相談、教育方法といった教職課程で教えている内容についての知識を(カウンセラーのみならず)全ての教職員が有するかどうかもこれからは必要になってくるのではないかと思われる。                                                                  (3)東京工業高等専門学校
 東京工業高等専門学校(東京高専)には、2017年11月20日(月)及び21日(火)に同敷地内の国立高専機構本部と同時に訪問した。

 

1)東京高専の概要 [15]
 東京高専は、東京とはいえ自然豊かな八王子に位置する。1965(昭和40)年に創設され、「早期体験重視の教育を通して、創造力・実践力・応用力の備わった技術者を育成する」ことを教育の目的とし、養成する人材像として、「1技術者としての行動規範(自律的な行動)を身につけ、グループ活動における協調性とリーダーシップを持つ技術者」、「2異文化理解とコミュニケーション能力(国際性と語学力)を持つ技術者」、「3基礎学力と専門分野学力(もの作りの知恵、類推力、段取り力)を修得し、継続的な自己啓発の能力(学び続ける力)を持つ技術者」を掲げている。

 

 機械工学科,電気工学科,電子工学科,情報工学科,物質工学科の5学科を有し、学生数は1,035名、その5分の1の204名(男子174名、女子30名)が寮生活をしている。
 訪問時に、東京高専の図書館を見学させていただいた。2階に留学生コーナーがあり。英文の漫画(ドラゴンボールやスラムダンク)「工学用語辞典(マレー、中、タイ)、日本語学習用のテキスト、小学生向けの日本の歴史や文学作品などが並べられていたのが印象的であった。

2)留学生インタビュー
東京高専では、留学生へのインタビュー調査を行った。お世話いただいたのは、東京工業高等専門学校 電気工学科 教授 T先生であり、面談留学生は以下の通りである。
 A 物質3年 Eさん モンゴル  男性
 B 情報5年 Sさん マレーシア 女性
 C 機械3年 Nさん マレーシア 女性
 D 電気4年 E さん モンゴル  女性
 E 物質5年 G さん ラオス   男性

問 来日の経緯について
A 新モンゴル高校出身、日本政府の奨学金を得て来日。JASSOで日本語を学習したのちに東京高専にきた。同期は13人いるが、それぞれ全国に散っている。高専はモンゴルにいた時から知っていて、自分の手でやってみたいと思い、自分から高専を選んだ
B 2年半前にマレーシアのKTJ経由で東京高専に。ペナンの政府系の学校出身。SPMを受け、奨学金を得た。4つの国を選べる中で日本を選んだ
C 4月に来たばかり。寒くて困っている。ジョホールの宗教系学校出身。
SPMで奨学金を得て、日本を選んだ。本当は大学への進学を希望したが、高専に派遣されることになった。それまd、高専について全く知らなかったが、KTJで高専のことを教えてもらった
D 2016年の4月に来日。Aとは別のプロジェクト。モンゴル政府がJICAの支援を受けて行っている専門のエンジニアを養成するプロジェクト。モンゴル科学技術大学付属の高校卒。同大で数学、物理を学んだ
E 学校はラオスのエリート校で、授用語はラオ語、卒業生は、大学やベトナム、インドなどに進学。自分は7月に行われた試験に合格し、日本の文科省の奨学金を得て2014年に日本に来て、東京の日本語センターで1年間日本語等の勉強をして東京高専にきた。中学生の時に先輩から日本の教育の質やシステムが良いと聞いていて日本への留学を決めた。高専では実験が難しい。豊橋科技大への編入学が決まっている。
問 困ったことなど
A 寮の生活になれるのが大変だった。東京高専に行くことになり、みんなからうらやましいといわれた。時々、JASSOで勉強している後輩に会いに新宿に出かける
B プログラミングの経験がなく、大変だった。クラス41人中女子は3人だけだが、仲が良い。高専での生活についてはKTJの先生からいろいろ聞いていたので問題はない。ダンス同好会に所属。秋田大学への編入学が決定している。留学生は13人、留学生同志で集まって遊ぶこともよくある。日本人チューターと留学生との交流サークルもある。
C まだ来たばかりで日本語の授業についていくのがとにかく大変。チューターが二人ついてくれている。食堂でハラル料理が出るので食事は問題ない(3人のマレーシア人、1人のインドネシア人、通いのトルコ人もムスリム)。週末には自分でマレー料理を作ることもある。お祈りの時間が取れないことなどが大変。断食もやった。
D レポートと実験が大変だった。また、勉強した日本語と実生活の若者言葉との違いに戸惑った。軽音部に入っている。
問 高専のいいところはなにか
就職率。実験は大変だけど特徴の一つ。毎週課題が出される。最初から最後まで自分でやる。クラスがあるからクラスメイトとの交流を通じて成長できる(責任感など)

3)グローバル推進室でのインタビュー
 翌11月21日(火)には、グローバル化推進室の竹田恒美教授にもお話を伺うことができた。インタビューの概要は以下の通りである。
 東京高専は国際化について最も古いうちの一つで、留学生の受け入れは、元々文科省が国費留学生を高専にも配分したことに始まる。ほぼ同時期にルックイースト施策下のマレーシア政府派遣留学生受け入れも始まった。これらと並行する形で、各学校でも独自のルートでの相互交流を行った。高専機構が出来てからは、各校の交流を束ね、協定書も統一するなどしている。留学生の受け入れに関しては、国際交流基金が毎年データを蓄積しているはずであるが、個人情報も混在しているため公にできないかもしれない。
 高専教育の海外展開に関しては7,8年前に南アフリカでどうか?との話が高専機構からあったように記憶しているが、本格的に始まったのはモンゴルがきっかけである。
 高専機構のよさ、もち味は、①15歳から5年かけて一貫教育のなかで技術者養成おこなうということ、これは海外にはない。②日本の伝統的なモノづくり(教育)がシステム的に行われている 
これまでは、4年生大学との差別化によって高専の特徴を出そうとしてきた。しかし、大学への進学者が増える中で、工業高校との違いは示せても、大学との競合のなかで高専としての生き残りが課題となっている。特に、予算が毎年1%ずつ削られ、高専の統合が進むという現実がある。さらに、入学生のレベルも落ちている。そうした中、留学生は希望をもって来日し、積極的に学んでくれるので、受け入れ側にもメリットがある。
 現在の受け入れは3年の編入が主であるが、茨城高専では、タイの中学校から直接入学させようという動きがある(今年か来年から)。
 一方、留学生を受け入れるときの問題として、留学生は3年次編入であるが、実際には1,2年から専門の勉強も始まっているので、不足部分が生じるところである。現在は個別に補習のような形で対応している。

4)まとめ
 東京高専は、ムスリムの学生のためにハラルを提供している。また、タイ語版の専門用語集を初め多くの留学生を受け入れてきた国際化の蓄積を持っている。留学生達は、初めのうちは慣れない日本の生活や実験や課題の多い学修状況に戸惑うようであるが、国費や政府派遣の優秀な留学生であることもあり、チューター制度も活用し、また部活にも入り、卒業することには問題ない状況となっているようであった。個人的には東京といいながら自然豊かな環境であることに驚いたが、新宿まで電車一本で行けることから「みんなからうらやましいと言われる」とも答えており、学校生活には十分適応しているようである。
 グローバル化、国際化という時、海外進出も重要であるが、内なる国際化としての留学生の受け入れも重要な側面である。

(4)都城工業高等専門学校
都城高専は1964(昭和39)年に設立され、「優れた人格を備え国際社会に貢献できる創造性豊かな実践的技術者の育成」を教育理念として掲げ、機械工学、電器情報、物質工学、建築学科の4学科で構成されている。2019(平成31)年4月1日現在の教職員数は102名、学生数は本科生が817名このうち女子学生が216名(26.4%)、留学生が3名(4年2名、5年1名:0.3%)、専攻科生が43名でうち女子学生が9名(20.9%)、留学生0名、合計860名となっている。寮は、高千穂寮があり、325名(男子246名、女子79名)が寮生活をしている(学生の37.8%)。卒業後の進路は7割が就職、3割が進学で、進学者の半数(18名)が一般の大学の3年次編入、半数(19名)が専攻科に進むという状況である。                                   
都城高専の国際交流活動において特質すべきはモンゴルとの深い関係である。1993(平成5)年に、モンゴル国遊牧民のために風力発電機による「灯りを贈る」という運動が、本校の数名の教職員を中心に始まり、平成7(1995)年にモンゴル技術大学(現モンゴル科学技術大学)と学術交流協定を締結。以来、科学研究費の共同研究や教員の往来が継続して行われている。
また、2013(平成25)年からは学生のインターンシップ事業が開始され、2014(平成26)年には九州沖縄地区の9高専とモンゴル科学技術大学との学術交流覚書を締結するに至っている。さらに、2017(平成29)年からは、モンゴル3高専の支援のために(FD,SD,ロボコン等)2017年度に8回、2018(平成30)年度に7回教職員をモンゴルに派遣、2018年12月には逆に学生9名、教員2名を招聘するなど活発な交流が行われている。
もちろん、国際交流はアメリカ、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム等々に向けても行われているが、モンゴル協力支援幹事校であることからモンゴルとの交流が突出している。直近でも、2019年(令和元)12月6日~15日までの10日間、「さくらサイエンスプラン」の支援を受けて、モンゴル国立科技大付属高専・新モンゴル学園高専・モンゴル工業技術大学(IET)付属高専の学生9名及び引率教員2名を本校に招へいし、アジア太平洋ロボコン(ABUロボコン)参加に向けたロボット製作の技術研修を行っており、相互交流が盛んに行われている。
平成30年11月16日(金)に都城工業高等専門学校(都城高専)を訪問し、校長補佐(国際交流担当)でモンゴル高専の指導に携わっていらっしゃる物質工学科のI教授との面談を行った。モンゴルの政治・社会の急変、現地の先生方のモラールの低さなどに戸惑いながら、年に何回か現地に足をはこび、指導されているとのことであった。今年度は最終学年となり、「卒検」にも取り組まなければならないが、現地の先生方はその経験を有する方が少なく、この点も頭を悩ませていらっしゃるようだった。また、日本側も高専自体の国際化に対応するためには、学内の先生方と意識を共有することが課題であるということである。
一見華やかにみえる国際交流も、双方の文化や考え方の違い、あるいは同僚教員の国際交流への取り組みの温度差もあり、国際交流担当者及び管理者にとっては、やり甲斐と共に負担が大きくその役割と成果がより顕在化され、組織的にも社会的にも認知されることが望ましいだろう。

 

参考文献:                                                   1)https://www.kosen-k.go.jp/
2)https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kousen/index.htm
3)https://www.kosen-k.go.jp/nationwide/feature/hj_1-11kosen_enkaku.html
4)https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/
2008/12/26/1217069_002.pdf
5)同上
6)https://www.kosen-k.go.jp/ およびKOSEN National Institute of Technology2019年版パンフレット
7)https://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student/data2018.html
8) 国立高専機構HP https://www.kosen-k.go.jp/exam/admissions/hennyugaku.html
9)「2021年度外国人留学生特別選抜学生募集要項」2020年1月
10)吉川友子・荒川智清「国立高専における留学生受入の現状と今後の課題」ウエブマガジン『留学交流』2011年8月号vol.5 pp.1-9、p.6
11)国立高専機構HP 前掲
12)学校案内2017、平成28年度学校要覧、平成28年度専攻科学生便覧
13)全国高専偏差値一覧2017(HTTP://高校偏差値.net/kosen.php)高専の中で偏差値50を切っているものは私立金沢工業高等専門学校(47)のみ
14)イスラム教徒はイスラム暦のラマダン月には、一ヶ月間太陽が昇っている間食事をとれない決まりがある。
15)https://www.tokyo-ct.ac.jp/